第373話 【非日常日】配信さぷらいず



 ……っと、ここでネタ晴らし!

 じつはターゲットであるおれわかめちゃん以外の全員が仕掛人!


 なんとなんとビックリなことに……持ち込まれたPCでは現在進行形で、ハデスさまの配信チャンネルにてライブ配信が行われており、しかもその配信の主目的はなんと『わかめちゃんに何着せるか考える配信』だったようで。ちなみに主犯は安心と信頼の破廉恥妖精だったようで。

 ……またキミか、厄介な懲りないやつだよキミは。



 ウィルムさんがおれを二階へ隔離し時間稼ぎを行っている間、この和室に配信環境と集音マイクを設置し、ハデスさまが配信をスタート。

 ハデスさまの視聴者さんたちに企画内容を説明し終えたあたりでウィルムさんに合図を出し、何も知らない能天気なおれがノコノコ和室へと姿を表した……と。


 あとは……ハデスさまの誘導尋問に流されるがまま、『これだったら着てもいいよ』という衣装をまんまと宣言させられた。

 リアルタイムで言質を取られては……確かに、弁解のしようもない。

 ちくしょう、なんか妙におとなしいなって思ってたんだよ。ラニちゃんどこ行ったんだろうなって気にはなってたんだよ。まさかこんな仕込みしてるとは。だからお風呂に来なかったんだなあの妖精ぷ○あな




「……っつーわけで。今をときめく実在合法エルフ幼女配信者キャスター木乃若芽きのわかめちゃんをお招きしてまーす」


「ア゜ォ、ッ…………へ、ヘィリィこんにちわ、お初にお目にかかります……魔法情報局『のわめでぃあ』局長、木乃きの若芽わかめ……です。……正直まだドキドキしてますが、にお招きいただけて……光栄です。よろしく、お願いします」


「はいはい、よろしくな。……まぁそんなわけで、昨日に引き続きわかめちゃんにお邪魔してるワケだけど……視聴者リスナーさんら待たせんのもアレだしよ、早速『アンケート』取ってみっか」


「そ、そういう……ことだっ、たんです……ね」


「そうなんだわ。いやー本当単純……あーいや、素直な良い子だよな、わかめちゃん。こっちが思った通りに動いてくれるし。嫌なハプニングも無ぇ」


「……誉め言葉として頂戴します」



 今となっては開け放たれたふすまの向こう側では、ハデスさまが持ち込んだノートPCを囲んで『にじキャラ』の皆さんが裏方を務め、音量調整やら画面のレイアウトやらを弄ってくれているようだ。

 普段から在宅で配信なんかも行っている方々なので、機器の操作や素材の扱いなんかも手慣れたものなんだろうな。

 そしてその中には当然のようにおれの相棒の姿もあり……配信アシスタントとしての技量を余すところなく発揮している様子だった。


 エルフアイ(望遠)で盗み見た配信画面には、ハデスさまの立ち絵と『若芽ちゃん』の立ち絵(おれが『にじキャラ』さんへ提供したもの)とが並び、対談形式のような形でレイアウトが組み立てられている。

 メインアシスタントを務めるうにさんの手によって『アンケート』機能の準備が進められていき、おれが先ほど提示させられた四つの選択肢――『メイド服(ロング)』『ゴスロリ』『チャイナロリ』『詰襟羽織○滅の○』――が記されたボタンが、配信画面に姿を表す。



「よしオッケー。出たみてぇだな。……んじゃ視聴者リスナー諸君に投票して貰って、一位のヤツをわかめちゃんに着て貰う……と。いやー楽しみだなァ!」


「あの……わたしゴスロリとかチャイナロリとか○○の○とか持ってませんよ?」


「大丈夫だ姫さんティーリットに買わせっから」


「「ちょっと!?」」




 こんなことに出費させるのもどうかと思うが……どうやら盛り上がってるようなので、あえて気にしないことにしよう。

 この配信はハデスさまの枠なのだが、見た感じ色つきの――『メイド』とか『ミニスカ』とか書かれた赤色の――コメントが結構見られる。……ミニスカは着ないぞ。


 おれが着るはめになる衣装代を持って貰うというのは、ちょっと申し訳なくて気が引けたが……こうして衣装代を捻出できるというのなら、おれは何もいうまい。

 お金の出所はハデスさまの視聴者リスナーさんだけど。衣装買うのはティーさまらしいけど。……アレッ。




「「「「「おぉーーーー!!!」」」」」



 ちょっとした違和感を感じたが……そんなタイミングで配信アシスタントさんズのほうから歓声が上がった。どうやら投票結果が出たらしい。気になって仕方が無いといった様子のハデスさまに、配信アシスタントのうにさんが集計結果を告げる。


 結果は――この配信チャンネルの主に対する忖度が働いた結果かは解らないが――堂々の『メイド服』。

 シックな黒のワンピーススカートと、レースに彩られた純白のエプロン……我が身のことながら、おそらく大変可愛らしく映ると思う。




「オッケーオッケー! よぉやった諸君! 俺様は嬉しいぞ!!」


「…………まぁ、わかりました。……いいでしょう、おと、っ、……な……に二言はありません。おとななので」


「つーわけで姫さんティーリット。メイド服な。ロングのやつ。コスプレっぽいヤツじゃなくて……あーホラ、クラシックな感じのヤツで」


「むぅー……わかったどす。ちょっと気合入れて選んで、後で経費清算しにいくどす」


「…………いや、ド○キとかの安いので」


「「それは駄目じゃ」」


「ン゛ン゛ッ!!?」





 おれはオトナで……そして男なので、約束を違えるようなことはしない。そもそも、ハデスさまには『(公序良俗に反しない範囲で)なんでも言うことを聞く』権利を(一部不本意な切っ掛けであったとはいえ)与えているのだ。

 それこそ、いきなり『チャイナドレス着てI字バランス』とか言われても、おかしくない立場だった。……いや、これはさすがに公序良俗に抵触するかもな。たとえがわるかったか。


 まあつまり、おれにちゃんとお伺いを立ててくれて、どんな衣装ならセーフかをきっちりと確認してくれた上での最終選考だったので……ここまで気を使われて譲歩して貰っては、さすがにちょっと断れない。



 その後は……まぁ、お披露目の日時はどうするのかとか、ロケ地はどうするのかとか、そんな感じの詳細をお話しして、おれもその内容を(ハデスさまの視聴者リスナーさん立ち会いのもとで)きっちりと承服して……はお開きとなった。




 しかしながら、冥王ハデスさまの突発雑談枠配信はまだまだ終わらない。

 急な場とはいえ『にじキャラ』さんからなんと総勢八名、われわれ『のわめでぃあ』も四名がこの場に居合わせた、顔付き合わせての『雑談』をするにはもってこいの場なのだ。


 おれの思い付きによる指示で、ラニちゃんの【蔵】にストックしておいた缶ビールや缶チューハイを開放していく。

 それを見た皆さんは(わうにゃうペアを除いて)いい笑顔を見せ……どうやらおれの意を汲んでくれたようだ。



 さぁ、夜はまだまだこれからだ。

 罰ゲームに対する温情のお礼、というわけではないが……ハデスさまの配信チャンネルに、微力ながら貢献させていただこう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る