第372話 【非日常日】牙をむく絶対強者
貸切りの個室風呂でいいお湯をいただき、お座敷の休憩ゾーンでゆっくりのんびりと火照りを鎮め…………うつらうつらした頃にティーさま(と
その後は一人また一人と合流していき、徐々に話の輪を広げつつ……無事に時間までに全員集合することができた。
『なかゲ部』の方々もいい表情だったし、帰りぎわ支配人さんもニコニコ顔で見送ってくれたので……たぶん決まったんだろうな。
そして晩ごはんの席だが……まぁ特筆するような大事件は無かったけども、とりあえず皆さん『うまい』『おいしい』と喜んでくれたので良かった。
お客さんが少ないのは、お店と温泉街にとっては死活問題なのだろうけど……あまり人に聞かれたくない話がポコポコ飛び出るわれわれにとっては、申し訳ないけど都合がよかったのかもしれない。……いや、このままで良いとは思わないけどさ。
個室っていっても……ふすまじゃ声も漏れちゃうしなぁ。
そしてそして……晩御飯を終えたおれたちは、再びラニの【門】のお世話になって『ただいま』したわけだけど。
ここでおもむろに、今にして思えばやや強引ともとれる勢いで、ウィルムさん(の
客間である和室へと向かう『にじキャラ』の方々とは一人だけ外れたウィルムさん(の
……まぁ、邪竜という操りづらい身体に【変身】する彼の『お悩み』は、それはもちろん本物だったんだけど。
後になって思い返してみればね……ウィルムさんの相談を聞こうと決めた時点で、もう『
「……ですので、今回採用してる【
「あっ…………あっ、若芽さんすみません。ちょっと、良いですか?」
「えっ? え、えぇ……大丈夫ですけど……」
「すみませんありがとうございます。こちらへ」
「えっ? 廊下? な、なんで」
「いえ、大丈夫です。大丈夫ですんで、こっちへ」
「えっ? 階段? えっ……えっ?」
「すみません本当すみません。大丈夫ですんで本当すみません」
「えっ? ……………………えっ??」
おれの講釈を遮り、さも申し訳なさそうに切り出したウィルムさん(の
そこでおれを待ち受けていたのは……なにやら改まった顔で、座卓に肘をついて某特務機関総司令ポーズをとっているハデスさま。
……ぶっちゃけ
「…………えっ? あっ、あの」
「よぉ、若芽ちゃん。悪ィな、お疲れん所」
「い、いえ…………えっと、これ」
「まァまァまァ……取り敢えず座ってくれや。今姫さんが茶ァ持って来っからよ」
「えっ? あっ……き、恐縮です」
このお部屋に居るのは……今おれを連れてきたっきりニコニコ顔でことの成り行きを見守っているウィルムさんと、非常にシブくてカッコいい声色のハデスさま……そして、おれ。
他のみなさんはリビングだろうか、それともお庭かな、なんてのんきなことを考えていたのだが……続くハデスさまのお言葉に、おれは冷や水を浴びせられたような感覚に陥った。
「ところで……先日の『(公序良俗に反しない範囲で)何でも言うことを聞いて貰える権利』のことなんだがよ?」
「あ゜ュ、っ」
「ちょっと相談ってぇか……『どこまでならセーフ』なのかをよ? キチッと確認しときてぇなって」
「あ……あぁ、しょうゆ、……キょうゆう、ことでヒゅか」
「だ、大丈夫か? 若芽ちゃん。落ち着け? 今
「お茶じゃよーー!!」
「おう。
「エッ? アッ!? アッ、アッ…………ッス」
いったいなにが大丈夫なんだろう……なんていう疑問が沸いたのも一瞬。
ティー様がお
冷静になれるかは怪しいのだが……おれの処遇がこれから決められようとしているらしいのだ、ここは集中しないと。
「とりあえずな? せっかくなんで、皆の意見聞いてみたんだけどよ?」
「え
「わかめちゃんは……ほら、Ⅳ期の
「アッ……えっ、と…………お心遣い、ありがとうございましヒゅ」
「おう。んで、だ。……もう単刀直入に言うけどよ、『コスプレ』して貰えね?」
「コーーーー!? な、ななっ、なっ……なんの、ですか!?」
「それを、ほら。今から話し合って決めようかなって」
「あはァーん……」
な……なるほど、つまりおれに課せられた今回の罰ゲームは『ハデスさまの指定する衣装を着る』ということか。
こちらのスケジュールを慮ってくれたことは……まぁ、正直ありがたい。おれたちとしても、今は例のコラボに注力したい時期であるからして。
なので……このときのおれは『意外とあっさり済みそうだな』なんていう印象を抱いてしまったわけだ。
「じゃー
「そ、ッ……そういう趣味ですか!? ハデスさま! アッわかった!
「残念。姫さんだ」「わちじゃ」
「オ゜ッ……」
「まぁ……水着は『無し』と。しゃあないわな。じゃあ次……バニーちゃんとかは?」
「ングっ……い、良い趣味してますね…………いヒゃぁぁぁ、ダメです! デコルテ晒すとか恥ずかしすぎます!! そもそもこんな
「まぁごもっともだな。じゃあバニーも
「これまた良いご趣味ですね。わたしなんかを
「いやコレは俺様」
「ん゜っ…………ま、まぁ……それくらいなら……ミニじゃなければ……(ごにょごにょ」
出会い頭の
メイドさんの衣装も、おれたちは
……ハデスさまが『メイドさん好き』ってのは、ちょっと意外だったけど。
まあ、おれがそんなことを考えている間にも質問は続く。
『ナース服は』『チャイナドレスは』『
最終的に候補としてノミネートされたのは、『メイド服(ロング)』『ゴスロリ』『
この四つの中ならば……まぁ、そこまで精神的な負傷も軽いだろう。
「なるほど? 改めて確認だが……
「えっ? あっ…………はい。大丈夫です」
「本当に? 何が出ても駄々こねない?」
「??? えっと……………は、い」
「言質取ーーーーった!!!」
「ウワァァァァァ!!!?!?」
「さあさあ諸君投票のお時間だよ!! 最も得票の多かった衣装は……なんと! ノワが着てくれるって!!」
「は!? ……いや、着るのは覚悟しました……け、ど………………ッッ!!?」
「お、気づいたかー?」「気付いたみたいすね」「やっほーかめちゃん」「あははは……えっぐい……」
『メイドさん!!、メイドさん!!』『ふりふりの華ロリすき』『スク水はァーーー!!!』『冥王のメイはメイド好きのメイ』『わかめちゃんメイドさんと特製ボイスで』『詰襟羽織って不滅の刀かwwww』『メイドさんがいいなー!!!』『華ロリって初めて見た。くそかわ』『ひもみずぎ……』『わかめちゃんなんだからパンツ見せて(半ギレ』
「わああああああああああああ!!??!」
ええと……はい。注意力が散漫だったというか、エグい奇襲を受けたというか、この部屋に入ったときに勝負は既についていたというか。
続き間の和室、ふすまを隔てていた隣室では……なんと今まさに、現在進行形で、ノートPCを開いてのライブ配信が行われており。
「いやぁー……すまんな、わかめちゃんよ。恨むならラニちゃんを恨んだってな? ……最初からなんだわ」
「 、 ゜, 」
おれとハデスさまが囲んでいた座卓の、その下には。
配信中のPCからケーブルが伸びた集音マイクが……ひっそりと設置されていた。
ラニちゃんさぁ……ほん、もぉ……おぼえてなさいよ。
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