第370話 【非日常日】環境更新のすすめ



 おれたちがお庭を散策しながら、あーでもないこーでもないと言葉を交わしている間……おうちのほうでもなにやら楽しげなことが起こっていたようだ。

 とはいえ、おれはお庭にいたので詳しいことはわからない。わうにゃうシスターズに付いててくれたラニちゃんからの伝聞になるが、いちおう振り返っておこうと思う。

 ちなみに『おうち班』として案内を受けていたのは、うにさんとくろさんとティーさまとちとせさん。女の子四人組だ。



 まずやはりというべきか職業柄というべきか……皆さんはおれの配信部屋に興味を持たれたようだ。


 おれたち実在系の配信者キャスターは――もちろん人にもよるだろうが――わりと全身を画面に入れることが多い。……気がする。

 そのため全身を撮影するようのカメラは、立ち位置はある程度離す必要があるわけだ。


 フェイスリグを上手く使うため、むしろカメラを顔の近くに配置する必要がある仮想配信者アンリアルキャスターとは、収録ならびに配信スタジオのレイアウトからして色々と差違があることだろう。




「こ、こちらが、わかめさまの、おしごとのおへや……ですっ!」


「「「お邪魔しまーす!」」」


「やっぱ広いやんなぁ。もうこれ『スタジオ』やんな」



 おれのお仕事部屋……まぁ『スタジオ』は、大きく分けて二つのゾーンから成り立っている。


 部屋に入ってすぐ右手側・北側の壁には、編集作業用のメインマシンとその周辺機器、そして『民天堂フィッチ』をはじめとするゲーム機が纏められているスペース。

 お顔を撮る用のカメラと特製グリーンパープルバックスクリーンも備わってるので、主にゲーム配信のときなんかはここで撮影・配信しているわけだ。撮影動画の編集もここで行っている。


 そしてもうひとつのゾーンが、先程述べた『実在の配信者ならでは』のゾーン。西側にソファを置いて、その手前にローテーブルを置いて、それらを収める形でまた別の固定カメラと、三脚代わりの液晶モニターを配置したスペース。

 モニターにはカメラで撮れている映像を映したり、昨日『のわめでぃあ杯』を行ったときのようにゲーム画面を出力したり、あるいは『生わかめ』のときにカンペや覚え書きを表示したりと、その用途は様々。

 カメラとほぼ同軸にモニターがあるので、モニターをガン見しててもカメラ目線になるというすぐれものだ。これのおかげで生配信は恐れ知らずなのだ。ふふん。




「なーるほど……フェイスリグと違くて、部屋ん中とか机の上とか全部映ってまうんやな」


「配信中カンペとかメモ見るときも、見かたを工夫しないとバレちゃうってこと?」


「わち、まずお部屋片付けんとなぁ……」


「かめちゃんみたいに……こんなんで、スクリーンで隠せばええんちゃう? グリーンバックってやつやろ?」


「「おぉーーーー」」


「いやでも、『へぃりぃ!』するときみたいな広い場所も無きゃだめじゃろ? わちの家ワンルームじゃもん……」


「「あぁーー……」」



 ……といった感じで、やはり皆さんあの【変身】デバイスを使用しての配信と、それに伴う環境構築に興味を抱いているようだった。


 仮想配信者アンリアルキャスターと、実在の配信者ユーキャスター……コンテンツを提供するためのプラットホームこそ同じユースクYouScreenだが、その戦略や配信環境は似ているようで大きく異なるのだ。

 仮に、仮想配信者ユアキャスの皆さんに【変身】デバイスを貸与したとして。すぐさま配信を行えるひとは、恐らくほぼ居ないのではないだろうか。


 おれたちは……最終的な目標としては、配信者キャスターさんひとりひとりに【変身】デバイスを行き渡らせ、おれたちのわめでぃあのような配信を行ってもらうことを『目標』としている。

 もちろん、時間がどれくらいかかるのか、また資材が足りるのか、本当に現実的なのか等々、検討すべきことはたくさんあるのだけど……なのでもし可能であるならば、配信者キャスターさんたちにも今のうちから配信環境おへやのことについて考えておいてほしかった……というのは、確かにある。


 そういった意味でも……霧衣きりえちゃんたちに『おうち班』を案内してもらったことは、良かったのかもしれない。




「のうのう、客人殿よ。吾輩とあねう……霧衣きりえ殿の部屋も、視察に参られても良いのだぞ?」


「ほうほうほうほう! ええんか! うち他人ひと様のお部屋見るの地味に好きなんよ!!」


「わちも! わちもきりえちゃんたちのお部屋見たい!」


「わ、わたくしどものお部屋でよろしければ……」


「うむ! 貴嬢らは家主殿の大切な客人ゆえな、吾輩が案内してしんぜよう。付いて参れ」


「……のじゃロリみたいな口調のくせにメスガキじみた服装のギャップ正直たまらん」


「……クロ、ヨダレ垂らさんといてな」


「んふゥーーーー」




 ……といった感じで、その後は霧衣きりえちゃんたちの私室(和風ながら女の子らしい二階の和室)に始まり、二階のお手洗いとシャワールームとロフトの物置、階段を降りて一階のお風呂場とダイニングキッチンとリビング、そして間仕切りを取り払えば続き間となる二部屋の和室と……余すところなく。

 正直いって合宿所としても使えそうなわれらが拠点を、たどたどしくも可愛らしく説明してくれていたらしい。おれも見たかった。


 なお、おれ(とラニ)の私室は『ごしゅじんさま(家主殿)の部屋だから、無断で立ち入るわけにはいかない』といって、案内しなかったようだ。

 ……いちおう自室には(在宅下着泥棒対策で)鍵もかけていたのだが、二人がとても良い子だということが改めてよく解った。お客さんもほっこりしていたらしいし、よかったよかった。



 その後はダイニングテーブルを囲んで、霧衣きりえちゃんが淹れてくれたお茶をすすってしばし懇談していたらしい。

 おれたちが戻ったときにはお話もとても盛り上がっていたみたいだったし、秘蔵の抹茶羊羹までお出ししていたので、霧衣きりえちゃんもうにさんたちのことをよっぽど気に入ってくれたようだ。



 しかし……はぁ、やっぱ推しどうしの絡みって……尊いてぇてぇわ。


 おれ……生きててよかった。がんばってよかった。




 ……よし。もっとがんばろう。

 推しに良い生活させるために……おれ、おしごと頑張るよ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る