第369話 【非日常日】チェックイン



 さてさて。



 ちょっと軽く現実逃避したくなる程度には豪華な方々が顔を揃え(てしまっ)た、わが『のわめでぃあハウス』への突発お泊まり会。

 突然の呼び掛けにもかかわらず……なんと、総勢八名もの仮想配信者アンリアルキャスター(のなかのひと)がわざわざ集まってくれたのだ。



 単純に遊びたい目的だったり、近々計画しているらしい合宿の下見だったり、おれたちの拠点を見てみたいだったり。

 その目的こそさまざまなようだが……共通しているのは、どうやら皆さんわくわくしてくれているらしいということだ。




「取り敢えず……軽く自己紹介させとくか。Ⅰ期からは俺と、姫さん……ティーリット」


「はあい!」


「あともう一人。ウィルム」


「よろしくお願いします! 先日はありがとうございました!」


「Ⅱ期は……オレだけっすね。毎度おなじみ、刀郷とうごう剣治けんじです!」


「お前本当人望無ぇのな」


「ちがうんすよ逆っす。大人気になりすぎて迷惑掛かっちゃうかなって思って、あえて誘わなかったんすよ」


「それ後日確実に奴らに恨まれるパターンだよな。……刀郷トーゴー……いいやつだった」


「いやいやいやいや!! ……えっ、オレ死ぬんすか?」



 Ⅰ期とⅡ期からは四名……昨日ご一緒じゃなかったメンバーとしては、邪竜モチーフ配信者キャスターのウィルム・ヴィーヴィルさん(のなかのひと)がパーティーイン。

 例の【変身】デバイス慣熟訓練の場では、人体とはあちこち異なる身体を操るのに難儀していた彼。そのキャラクターモチーフこそ『邪竜』と禍々しく、また配信中は傲岸不遜で偉そうな態度を気取っているものの……そのなかのひとはハキハキとした好青年。

 配信中も結構な頻度でが出るので、アバターのカッコ良さと性格とのギャップもあってか、女性人気がかなり高いのだという。



「あとⅣ期はウチと、あと」


「まいど」


「まいどやないねん。まぁ合っとるけどな。Ⅳ期はクロと……あとちふりんな」


「お世話になります! すみません本当いきなり!」


「んで、Ⅲ期からはアオちゃんひとり」


「あい! 青樹ちとせです! よろしくおねがいします!」



 相変わらずマイペースの玄間くろまくろさんと、洟灘濱いなだはま道振ちふりさん、そしてⅢ期からは青樹あおきちとせさんが飛び入り参加。


 くろさんは単純に『おもしろそうだから』といったところだろう。そんな雰囲気を隠そうともせず、ニコニコ笑顔でうにさんの背後に『ピタッ』と貼り付いている。てぇてぇ。


 道振ちふりさんは……たぶんだが、おれが動画や配信で度々アピールしている『おにわ開拓』と、あとハイベース号。そのあたりに興味があるとのことで、うにさんもそこを気にして声を掛けてくれたのだろう。


 Ⅲ期から唯一の参加者は、青樹ちとせさん(のなかのひと)。こちらはティーさまからのお誘いらしく、『なかよしゲーム部』で予定しているコラボ会場の下見がメインらしい。

 というのも、ちとせさん……この可愛らしいお姿ながら『なかゲ部』副部長を務める、ゲームつよつよ配信者キャスターなのだ。



 集合場所である『にじキャラ』さん事務所ビルのエントランスにて、元気いっぱい朝のあいさつ(※もう昼です)を終えたみなさん。お泊まり会に向けて皆さん気合充分の模様。

 それでは……いよいよもって移動開始。めくるめく【魔法】の力を、存分に堪能していただこうではないか。




(ラニ、【門】おねがい)


(あらほらさっさ)


(ほんと順応力すごいねキミ)



 エントランスのカドっこ、表通りからも防犯カメラからも死角になる絶妙な位置に、ラニが紡いだ【門】が開かれる。

 初めて目にする空間の裂け目に、飛び入り参加の四名様は目に見えてビックリ顔。その一方で昨日一度経験した四名様は、心なしかドヤ顔で。そこマウント取ろうとしない。



「とりあえず、ぱぱっと行きましょうか。……じゃあ、刀郷とーごーさん。先導をお願いします」


「了解っす! 行きますよぉー!」



 勢いよく飛び込み、空間の裂け目に消えていく刀郷とーごーさん。正直『このまま閉じても面白そうだな』とは思ったけど、視聴者さんのいないこの状況ではただの時間の無駄なので実行には移さず、そのまま気持ちの準備ができたひとから順次飛び込んでいってもらう。

 経験者の四名様が消えていき……それを見て覚悟ができたのか、初見の四名様も後に続く。

 最後におれが周囲を見回し、一般人の方に見られてないことを目視と魔法で確認し……最後に飛び込む。これにて移動が完了だ。


 八名様の団体(とおれたち)はほんの一瞬で、関東から東海地方へと移動してのけたのだ。





 【門】から出た先は、我が家の玄関アプローチの一角。石材を敷き詰めて広めのスペースが確保された、いろんな使い方ができそうな気がしなくもない空間だ。

 そこから両開きの玄関を開けると、そこにはこれまた広めの玄関土間と上がり框……そして。



「いらっしゃいませ。ようこそお出でくださいました」


「うむ。遠路はるばるご苦労。……いや勇者殿の権能があれば苦労も無いのか」


「「「「うおおおおおおお」」」」



 いつものように家事がしやすそうな和服を身に付けた霧衣きりえちゃんと、そんな『あねうえ』の真似をしようとしたのだろうか、珍しく浴衣姿のなつめちゃん……わが『のわめでぃあ』の誇るわうにゃう姉妹が、正座して三つ指突いて待ち構えていたのだ。

 思わず歓声を上げられたお客様の気持ちもわからんではない……というか、ぶっちゃけおれもやばかった。




 ……さてさて。

 こうして集合からほんの数分でチェックインまでこぎ着けた、われらが『のわめ荘(※非公式)』なわけだが、これからどうしようね。


 漠然と『落水荘さんの下見』だとか、『おにわやキャンピングカーを見たい』だとか、いろいろご要望は聞いているのだが……まぁ落水荘さんはどうせお風呂入りに行くだろうし、夕方でもいいかな。

 会場の下見させてもらって、立ち寄り湯でひとっぷろ浴びて、あまごやさんで晩ごはん食べて……それで大丈夫だろう。というわけで。



「えーっと……じゃあ、十六時ころになったらおフロと、会場下見と、十八時くらいにばんごはん……みたいな感じでいいですか? それまで自由時間というか、ゆっくり過ごしていただくというか」


「「「「「「はぁーーい!」」」」」」


「んふふふ……はい、いいお返事です。それじゃあ……おうちの中のことは、霧衣きりえちゃんとなつめちゃんに聞いてください。お庭にはわたしがいるので、何かあったらわたしに聞いてください。あと遭難したらわたしのケータイに連絡ください。なんとかしますので」



 おれの発した『遭難』という単語に、『またまたご冗談を』と言いたげな視線をいくつか感じたが……いや、うん、下手するとマジでするとおもうよ……遭難。

 まぁそこまでいかずとも、まだ全然未開拓なおにわなのだ。ほんの数分歩けばもう未開の山林が顔を出すことだろう。


 いろいろ悩んだ末の、思考放棄ともとれる『自由時間』だったが……なんだかんだで皆さん楽しんでくれそうで、よかったよかった。



 ……というわけで、『おにわ班』のご案内を担当させていただくのは、わたくし木乃若芽きのわかめちゃん。

 おにわに興味を示したのは、男のロマンが通じるアウトドア派の四名……刀郷とーごーさんと、ハデスさまと、道振ちふりさんと、ウィルムさん。

 せっかくなのでみんな一緒に案内しようと、おれは自ら先導して『みどころポイント』を巡っていく。


 和室のすぐ外のハイベース号や、それが停められている露天駐車場(兼多目的スペース)、その隣に建設中のつくりかけガレージと、それらの前を通り車道まで続く敷地内私設道路。

 さらにちょっと遠出して、杉林からなだらかな斜面、そのまま下っていって……いつぞや環境音動画を収録し(ようとして居眠りしてしまっ)たきれいな沢と、その水辺に広がる岩場と稀少な砂地。などなどなど。




「……ねぇ、わかめちゃん」


「なんです? 道振ちふりさん」


「土地利用料払うからさ……今度キャンプしに来ていい?」


「ま、まぁ……かまいませんよ?」


「「「いいなぁーー!!」」」


「そんな言うなら、みんなもやりゃいいのに。キャンプ。楽しいよ?」


「あーそっか、例のアレが使えるようになりゃあ……アバターの姿でキャンプとかも出来るのか?」


「「「おぉーーーー!!」」」

 


 ふっふっふ、いいとこに気づきましたねハデスさま。

 まさにその通り、あの【変身】デバイスの力があれば……アバターの姿のまま、いろんなことに挑戦できるんです。


 もちろん、【変身】したらしたで逆に動きづらくなることも充分にあり得る。

 ウィルムさんなんかがいい例だろう。日本人の平均よりふた回りは大柄な体躯と、尻から後方へ伸びる太く長い尾、そしてバランスを取るためにやや前傾気味となった姿勢とあって……確かにちょっと、キャンプをするには不向きかもしれない。テントなんかも果してちゃんと入れるのかどうか……いや、べつに寝るときまで【変身】を維持する必要は無いのか。


 しかしそれでも、今までのようにスタジオや機材の有無にこだわらず、カメラひとつ(と【変身】デバイスが)あれば何処ででも収録できるというのは、確かな強みになるだろう。




「せっかくなので……いろいろ、探してみますか。新しい『演出』の可能性」


「そうですね。これだけ配信者が揃えば、色々と知恵も出てきそうですし」


「おっけおっけおっけおっけ! 楽しくなってきたわぁ!」


「お前は最初から楽しそうだったよな……?」



 一人でも多くの視聴者さんに楽しんでもらうための、おれたちにしかできない手法を求めて。


 このお泊まり会が有意義なものにできればいいなと、彼らに多少なりとノウハウを持ち帰って貰えればなと……おれはあれこれ叡知を働かせ始めたのだった。


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