第367話 【日曜大工】『おにわ部』発足



 はいみなさんおはようございます。日付変わって日曜日ですね。


 昨晩は……えっと、あの、まぁ……おたのしみでした。

 なにがって聞かれると、まぁお風呂なわけですが……お客様がお帰りになられた後、少々オイタが過ぎたいたずらっ子にですね、『ねぎらい』の意も込めてメンソ○ータムしたんですけどね。だいじなところに塗って差し上げたわけですけどね。



 ……いや、すごかった。びっくりした。

 大洪水っていうか、大雨だった。


 あと……声がね、とても可愛らしかった。ふふふ。




 というわけで、おたのしみの翌朝。

 どしゃ降りだったラニちゃんとは異なり、本日は快晴……とまではいかないまでも、土日の間は降り続くだろうとの予報を華麗に裏切ってくれた。

 いうなれば『曇り時々晴れ』といったところだろうか。ほぼほぼ曇天だがごく稀に晴れ間が覗く程度、薄暗いけど雨は降らないみたい。よかったね。




「お客さん来るまで時間あるし……キリが良いとこまで進めちゃおっか」


「やいさほー」



 そう……今日のお昼過ぎからは、なんとなんと大事なお客さんが遊びに来てくれるのだ。

 しかもびっくりなことに泊まりがけ、要するにおれのおうちで『お泊まり会』が執り行われるわけなのだ!


 すごくて! えらいひとが! お泊まりに来てくれるのだ!!



 朝からそわそわしてなんか落ち着かなかったので、こういうときは身体を動かしてスッキリするべきだと相場が決まってる。とはいえもちろんセンシティブなことをするつもりはない(※なぜなら健全だから)ので、あくまで健全な方向で発散しようと思いまして。


 それで……せっかく雨が上がったということもあり。

 撮れる部分だけでも、撮影を敢行してしまおうということになったわけです。





「ヘィリィ! 親愛なる人間種諸君! 毎度お騒がせしております魔法情報局『のわめでぃあ』おにわ部……今日の朝ごはんはだし巻き玉子でした、部長の木乃きの若芽わかめです!」


「ヘィリィ! ナマ配信はまだ無理だけど、撮影動画なら編集魔法でバッチコイ! ダシマキタマゴめっちゃおいしかったよ、万能系アシスタントフェアリーのラニことシラタニです!」


「さぁさぁ本日はですね、のわめでぃあの『おにわ部』シリーズということでですね! こちら『おにわ部』はその名の通り『お庭の開拓』を進めていこうというシリーズになります!」


「俗にいう『でー・わい・わい』動画ってやつだよね。木を切ったり家具を作ったりお庭を整えたり」


DIYでぃーあいわいですね。第一回目となる今回は、屋外での活動の拠点として使える作業小屋……兼・ガレージをですね、つくってこうと思います!」




 とりあえず冒頭部分を撮っておき、あとはタイムラプスというか写真を撮ってコマ送りというか、編集頼みで動画を組み立てていけばいい。

 とはいえ魔法を使っているところを大公開するわけにはいかないので……大事なところは隠しつつ、それでいて工程がわかるように、いろいろと悩みながらカメラに収めていく必要があるわけだ。




 ではでは、カメラもセットできたことだし……早速作業のほうに取りかかっていこう。



 先日マジカルコンクリートミキサーで打設したコンクリートは、およそ充分と思われる時間置いておいたお陰だろう、今となっては完璧に……カッチカチに硬化している。

 幅およそ八メートル、かけることの奥行きおよそ六メートル。手前に向かっていい感じに排水勾配がつけられた灰色のコンクリート面には、壁を立てる予定のラインに沿ってニョキニョキと鉄筋アンカーが突き出ている。……つくしんぼみたいだな。


 というわけで、第一段階。まずはこのラインに沿って、基礎立ち上がりとなるコンクリートブロックを並べていく。

 カメラの撮影範囲外で、魔法をフル活用して用意したモルタルを用意。コンクリートブロックの下にモルタルを塗って、基準となる一個を……ブロックの穴に鉄筋アンカーを通すように、設置する。

 ぽっかり空いた穴に鉄筋が通され、しかし今のままではガタガタになってしまうので、穴の中にモルタルをつめつめしておこう。これでモルタルが硬化すれば、鉄筋がズレずに固定されるわけだな。



 あとはこのコンクリートブロック一個を基準として、コンクリートエリアの外に適当に杭を打って糸を張り、水平を出すための基準を作り……その高さに合わせて、モルタルを塗ったブロックをずらーっと並べていく。

 ここはまぁ、編集のときはエヌ倍速ですっ飛ばしていいあたりだろうな。作業内容も単調だし。


 そんなこんなで、壁が立つ予定のライン……『コ』の字型にブロックを設置し終え、柱や屋根を組み上げるためのコンクリート基礎が立ち上がった。



 ……まあ、こんなかんじで……あとは巻きで進めていく。


 『コ』の字のコンクリートブロックの上に土台を渡し、鉄筋アンカーと専用金具で結合。アンカーの数も専門のサイトを参考に充分植え付けておいたので、強度も問題無いはずだ。


 これで台風なんかの強風に煽られても、上部構造がすっぽ抜けて倒壊することは無い。……たぶん。

 ……うん、自分を信じよう。自分とDIYハウツーサイトの管理人さんを信じよう。



 というわけで作業再開だ、アンカーを固定した土台部分に、今度は壁を立てていくわけだな。


 ここで使うのが『ツーバイフォー』工法。視聴者さんたちも名前くらいは聞いたことがあるのではなかろうか。

 詳細はざっくり省くので各自で検索しググッて貰うとして……まずは寝かせた状態の壁の骨組みを作り、それを土台の上に立ち上げて構造体とするものだ。


 寝かせた状態で組み立てればいいので、身体の小さなおれでも問題なく作業は進められる。クランプで固定しながらビスをどんどん打ち込んでいき、ツーバイフォー材どうしをどんどん接合していき……そうして完成したのは、外寸が幅一八〇センチかける高さ二七〇センチ、四五センチ間隔で間柱の入った巨大なフレーム。

 なかなかにハードな作業だったが、身体強化魔法をほどよく使っているので、実際そこまで疲労は無い。



 あとはこれを、先程基礎とガッチリ接合した土台の上に、えんやこらどっこいしょと立ち上げて固定すればいいのだが……




「…………ねぇラニちゃん」


「なんだいノワちゃん。ちなみにボクはか弱い妖精さんだから肉体労働は出来ないよ」


「………………」


「……………………」




 そのサイズこそ長大だが、所詮は枠組みだけなので、重量自体はそれほどでもない。重いっちゃ重いが、まぁ立ち上げるだけなら人の手でもなんとかなりそうなレベルだ。

 だが……壁のフレームを起こし、土台の上に持ち上げ、倒れないように固定する、その一連の作業ともなると……さすがにひと一人ひとりの手だけでは――小さな二本の腕だけでは――ちょっと限界といわざるを得ない。


 もちろん、ラニに【義肢】を借りたり、あるいはおれも魔法を用いたりすれば、現環境のみで作業を進めることも可能だ。だがカメラを回している都合上、あからさまに明らかな魔法インチキを映すわけにはいかないのだ。


 取りうる手段があるとすれば……一旦カメラを止めるか、もしくは魔法を使って組み立てた後に編集でバッサリ削除するか。どっちにしろ映像は歯抜けになってしまうので、視聴者さんがわにとっては疑問が残る仕上がりになってしまうだろう。


 であれば、召喚可能な人手に助力を乞うか。そう連日連夜モリアキを呼びつけるのも気が引けるのだが、ほかに頼れそうなひとなんて……



 ……そう、日曜大工やDIYを得意とし、おれの活動に理解を示してくれており、おれたちと少なくない交流がある気の知れた人物であり、そしてあわよくば作業の様子をカメラに収めさせてくれそうな……そんな都合のよい人物なんて、そうそう知り合いにいるわけが




「……如何なされました? 御屋形様」


「いたアアアアアアアア!!!!」


「…………? ……はい、御早う御座います」




 朝イチのお手伝いおしごとから、ちょうど今帰ってきたらしい彼女。

 ロングスカートのクラシックなメイド服と腰に提げたゴツすぎるツールバッグが特徴的な、目元を隠した天狗半面の美少女職人大天狗ガールの天繰てぐりさん。


 彼女が音もなく舞い降りたのは、おれたちの作業を撮影している固定カメラの後方。まだ撮影エリアには現れていないが……果たして。

 これはこれはもしかすると、そしてあわよくば、いい感じの演出に使えるかもしれない。




「あ……あの! 天繰てぐりさん! もしお時間よろしかったらなんですけど……ガレージ作るの手伝って頂けませんでしょうか! あとあわよくば撮影させて頂きたいのですが!!」


「……ほう……木造壁式構造、で御座いますか。……成程、であれば……手前でもお力になれるかと」


「つ、つえぇ………………あっ、ちなみにその……撮影のほうは……」


「……まぁ……手前は別段、構いませぬが」


「ヨッシャァァ!!」「おほーーーー」




 この豪邸を十数年に渡り完璧に保ち続け、地元の集落の困りごとを一手に引き受け解決し続けてきた『超おたすけキャラ』にして、また業務用空調設備の不調なんかもあっという間に治してみせた技術者。


 彼女の技術を貸して貰えるのなら。加えてその様子を、そしてなんと彼女の姿を撮影させて貰えるのなら。



 もう……なにも怖くない!


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