第366話 【会場視察】準備は万端です



「いやいやいや……良いトコ取れそうだわ! 本当ありがとなわかめちゃんと……何よりも、ラニちゃん」


「はっはっは! なんのなんの! えらいヒトには積極的に媚びるタチなのだよボクは!」


「お風呂もめっちゃ良さげな感じでしたよ。あれならセラさんも喜びますかね」


「そりゃもー大喜びやよー! わちだって楽しみじゃもーん!」




 細かな経緯は省くが……おれの拠点への『お泊まり会』に端を発した『なかゲ部』皆さんの打ち合わせは、なんと近いうちに『落水荘』さんにて『温泉旅館合宿コラボ』を行わせていただくところまで到達したらしい。


 事務所からの距離や他メンバーの希望も鑑み、当初は函根はこねを主軸に宿を探していたらしいのだが……いかんせん『いいお値段』なことが殆ど、かつ部屋数がなかなか押さえられなかったらしく、会場選びに難儀していたのだとか。

 なんでも宿泊部屋だけでなく、スタジオとして使用できる大きめのスペースが必要で、むしろこっちがネックだったようだ。

 収録するつもりなら静かじゃなきゃマズいもんな。お隣で宴会やってたらアウトなわけだ。


 光回線が引かれていることと、それを使わせていただけること、そして宴会用の広間のひとつを数日借りきって収録スタジオとして使わせて貰えること。

 そしてなにより……希望日程で希望する部屋数が確保でき、おまけに予算内に収まったことなどから、『なかゲ部』部長(らしい)ハデスさまがマネージャーさんと電話相談の上、その場で決断を下していた。


 支配人の小井戸こいどさん(おれのことを覚えててくれた!)にはしきりに感謝されたのだが……どちらかというと決め手はやはり、充分な設備をきっちり管理していてくれた落水荘さんがわの努力によるものだろう。

 おれが直接貢献したわけじゃないが、支配人さんの努力が少しでも報われるのなら、おれとしても嬉しい。





「……はい、到着です。お足元お気をつけください」


「ありがとう。……すっかり遅くなっちまったな」


「だいぶ話し込んでましたもんね……おぉ、雨上がってますよ」


「ほんとや。助かるわぁー」



 おうちの横の露天駐車場にハイベースを停め、お客様がぞろぞろと降りてくる。

 お留守番していた霧衣きりえちゃんとなつめちゃんの笑顔に出迎えられ、お客様たちもとてもいい笑顔だ。



 さてさて、帰ってきて早々だが、本日のお客様である『なかゲ部』の皆さんは、そろそろお帰りのお時間だという。……もうそろそろ十七時だもんね。

 元々『にじキャラ』さんの事務所で『合宿』について打ち合わせをしていたところに、配信をハブられた腹いせに悪巧みを画策していたラニちゃんにそそのかされ、そんなこんなで突発的おうちゲームコラボに駆けつけてくれ(ちゃっ)たのだとか。


 なので……事務所から失踪して、そろそろ六時間になるわけで。あちらさんのマネージャーさんたちも心配してるだろうし、むしろ今までごめんなさいな感じである。



「まぁ金剛さん……あぁウチのマネージャーな。『優勝グッジョブ!』ってREINメッセージ入ってたし、多分大丈夫だろ」


「そっすね。むしろ『優勝商品』に喜んでくれてるんじゃないですか? 引く手数多あまたっすよわかめちゃん」


「わちら居なくなった代わりに、たぶん今ごろ『どう料理しようか』会議始まっとるよ」


「便利やもんなぁ若芽ちゃん。愛でてよし泣かせてよし虐めてよしの万能っ子やもん」


「なんですかその評価!!!?」




 そんな不穏な言葉を残しながら……例によってラニの専売特許である【繋門フラグスディル】の魔法によって、『なかゲ部』の皆さんは帰っていった。……まぁ、また明日お会いするんだけどね。


 しかししかも今回の【繋門フラグスディル】、出口はなんと『にじキャラ』さん事務所ビルの階段踊り場らしい。……ついに本陣に直接乗り込む【座標指針マーカー】打っちゃったか。セキュリティとか絶対ヤバヤバだろそれ。

 あっ……それぞれの事務所の扉には夜間ちゃんと鍵掛かるから大丈夫なのね。鈴木本部長も【座標指針マーカー】のことはちゃんと把握してるのね。まじかよホントに大丈夫なのか株式会社NWキャスト。




 さてさて、ともあれお客様もお帰りになって一段落したので……こっちはこっちで『受け入れ準備』のため活動していこうと思う。

 とりあえず取り急ぎモリアキに連絡を取ってみたところ……寸法的にも雰囲気的にも良さそうなソファが見つかったらしく、おまけにほろつき貸し出しトラックも確保できそうだという。

 さすがお値段以上。いつも頼りになります。


 モリアキにはおれが『なかゲ部』の方々を『落水荘』へとご案内する間、シオンモールで要調達品を見繕って貰っていたのだが……さすがモリアキ、おれの注文をきっちりこなしてくれていたようだ。

 霧衣きりえちゃんたちに留守番をお願いし、ラニを伴っておれもシオンモールへと場所を移し、周囲の注目をあえて無視しながらお値段以上の家具屋さんへと足を運ぶ。




「お疲れ様です。下見ありがとうございます」


「あぁ、お疲れ様です。一応リストにあったものは一通り台車に纏めてますので、確認お願いします」


「はい。えーっと……キャットタワー(特大)ひとつと、座卓がふたつと、ソファ……おぉ、やっぱ結構大きいですね……」


「そりゃそうっすよ。駐車場のトラックまでは運んでくれるみたいなんで」


「助かります。……じゃあ、お願いします」




 魔法のクレジットカードで支払いを済ませ(顔覚えられてた。いつもありがとうございます、とか言われた)、品物はお店のスタッフさんに台車でガラゴロと運んでもらう。それにしてもスゲーなこれ、ちょっとした大名行列だわ。

 どうにかこうにか無事に幌トラックへの積み込みを終え、スタッフさんは会釈を残して撤収していった。あとはいつも通り、幌をキッチリ閉じてあるのを確認した上で、手早く【蔵】に商品を格納していくだけだ。

 ラニちゃん、いつもありがとうございます。



「じゃあモリアキ、三十分くらい適当に乗り回してきて」


「了解っす。トラック返却したらREINメッセ入れますんで、迎えお願いしますね」


「まーかせて! それじゃ頼んだよ、モリアキ氏!」



 一応アリバイ作りのため、幌トラックには南区のおれの部屋あたりまで行って貰い……適当なところで店舗へ戻り、空っぽのトラックを返却してきてもらう。

 一方で中身は颯爽と岩波市へ帰還し……キッチンで霧衣きりえちゃんとなつめちゃんが仲睦まじくお料理してるのを五感で感じながら、大型家具の組み立てを行っていく。



「できた!!」


「すごいね……あっという間だ」



 まぁ……ソファなんて骨格はほぼ出来てるもんな。ボックス状の構造体を並べて金具で固定して、その上にクッション部分をのせれば完成だ。リビングが一気にリビングっぽくなったぞ。

 座卓なんてもっと簡単。天板に脚を四本固定するだけ。がらんどうだった一階の畳の二間も、これでやっと『和室』っぽくなった……かも。


 そしてそして、おれ的には今回一番のいちおし家具がこちら、キャットタワー(特大)だ。

 なつめちゃんがお料理のお手伝いに集中している隙に、梱包を解いてしゅばばばばっと組み立てていく。身体強化魔法フル稼働だ。

 リビングの吹き抜け部分に設置し、位置を合わせて壁に固定。最終的にはこのタワーをはしご代わりに、二階和室の換気窓から直接出入りできるようにしたいのだが……さすがに高さと足場が足りないので、後日直接キャットウォークを設置することにしよう。




「わかめさま、お待たせ致しました! 夕餉の準備が整いましてございまする!」


「ありがと霧衣きりえちゃん。こっちも終わったから……ごはんにしよっか。もうそろそろ七時だし」


「家主殿、家主殿。我輩も胡瓜を切ったのだぞ。あと馬鈴薯を潰したぞ」


「ほんとぉーえらいねなつめちゃんー! ……よし、じゃあ……そんななつめちゃんにプレゼントだよ! ほら!」


「む……? ………………む!? ……おぉ……!!」




 聳え立つ段々な構造物が、いったい何のためのものなのかを理解したのだろう。なつめちゃん(猫耳幼女モード)はその瞳をらんらんと輝かせ、ぴょこぴょこと跳び跳ね始める始末。


 ふふふ、喜んでくれてなによりだけど……まずは晩ごはんをいただこうね。

 とんかつと千切りキャベツと、なつめちゃんがお手伝いしたというポテトサラダ。とってもおいしそうな献立だ。



「やほーノワ。戻ったよぉ」


「ありがとうございます白谷さん。つつがなく完了しましたよ、先輩」


「おかえり二人とも。ありがとね」



 家具を追加して拠点の快適レベルも上がり、なつめちゃんも順調に我々に馴染んできてくれて……みんなのおかげで、少しずつ前へ進んでいる実感がある。

 そのことを喜びながらおいしい晩ごはんをいただき、ごちそうさまと片付けを終え……おれは夜の日課と化した定常業務、お礼メッセージ収録への気力を漲らせる。


 やれること・できることは、次から次へと思い浮かんでくる。

 焦りすぎはよくないけど……それでも、堕落した生活は送りたくないもんな。



 明日も、明後日も、頑張ろう。


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