第365話 【会場視察】お迎え体制準備



 午前から始めた『第二回のわめでぃあ杯』を終え、ちょっと遅めの昼飯兼その『おつかれさまでした会』を終え……買い物に出掛けていった男性陣が戻ってきた時点でも、まだ十五時を少し回ったくらい。

 日没が早い冬、かつ生憎の雨模様ということもあり、お外はかなり暗くなってしまっているが……時間のみで考えると、まだもう少し何か出来そうな時間ではある。


 なのでせっかく人手があることだし、また『どうせ使わせて貰うの我々なんで』というお言葉に甘え……調達してきて頂いたおふとんのセッティング、カバー掛けの作業のお手伝いをお願いしてみた。

 するとどうだろう、皆がみんな嫌な顔ひとつせずに、喜んでと協力を申し出てくれた。ありがてぇ。



 で、さっそく場所を暫定お客さん寝室である一階の続き間へと移し、ラニちゃんに【蔵】を開いてもらったわけだけど……あの……




「何組あんのこれ!?!?」


「五の五で、十組かね。十畳二間ふたまって聞いたからよ、出入口に敷かないって考えると、一部屋五組かなって」


「あばばばばば…………モリ、っ……烏森マネージャーさん! なんで止めなかったんですか!?」


「いや……三対一なんすよ。民主主義の結果なんすよ……」


「ラニぃぃぃぃぃぃ!!!!」


「わっはっはっはっは!!!!」



 いや、だって……待ってよ。

 掛と敷と枕とそれらカバーの六点セットで、一セット一万円くらいするんじゃないの。



「いやもっと安かったわ。毛布付きの七点セットで、一セット八千円だったかな」


「十セットで八万円じゃん!!!?」


「大丈夫だって。刀郷トーゴーも持ってくれたしよ」


「そうゆう問題じゃ無くってですね!!?」


「もー、のわっちゃん早よ手ぇ動かしーや」


「アッ…………ッス。スマセン……ッス」




 おっといけない。大人オトナの余裕と財力を見せつけられ、ちょっと平静を欠いてしまったが……この押し問答は既に通った道だ、今更蒸し返すのも大人げないだろう。おれはオトナなのだ。


 実際のところ、おれも霧衣きりえちゃんも(ラニとなつめちゃんも)自分用の布団や寝床を持っているので、この布団を使うことは無いだろう。

 かといって……いや、ほんと恥ずかしい限りなんだけど、おれのおうちに泊まりに来ようだなんていう酔狂な知り合いは、現状『にじキャラ』関係者さんくらいしか思いつかない。

 なので彼らの『どうせ使うのは自分達なので』という主張は至極もっともであり、ほかでもない調達した本人が納得しているのならば……おれが気にするだけ無駄なのかもしれない。




「いやぁー……こんだけお布団並ぶと、ほんと壮観ですね……」


「温泉旅館みたいっすね! オレなんかテンション上がってきました! 修学旅行みたいで!」


「わかめちゃん温泉旅館行ってきたんじゃろ? いいなぁ、わちも温泉行きたかったやわぁ……」


「いや姫さんよ……さすがにそれは高望みってもんだぜ?」


「あ、じゃあ泊まり来たとき行きますか? 温泉近くにありますし」


「「「「あるの!?!?」」」」


「え……えぇ、温泉街すぐそこなので」



 そういえばうちのお風呂、温泉引き込み可能って書いてあったな。

 今までは普通のお湯で満足してたけど、せっかく引き込める物件に住んでいるのだ、引き込んでみても良いかもしれない。


 ただでさえ広々とした、家とは思えない浴槽なのだ。ここに滝音谷の温泉が加われば、その癒し効果は計り知れない。

 そういえばラニの【蔵】には生コンが残っているはずだ。よさげな岩をかき集めて、露天風呂なんかも作れちゃうかもしれない。夢が広がる。



 ……などとおれが今後の開拓について思いを巡らせている間、『なかゲ部』の方々も話は纏まったようだ。おれはかしこいからな。何て言われるかだいたい予想ついたぞ。

 まあお泊まりの提案を受けた時点でそうなる気はしていたので、既に心構えはできている。以前お邪魔した落水荘さんなら立ち寄り湯もやってるみたいだし、送迎もハイベース号があれば大丈夫だろう。



「……わかめちゃんよ」


「はいなんでしょう」


「温泉旅館始める気ぇ?」


「わかりました。だいじょ……は?」





 はっはっは!

 そんなの予想できるわけ無いだろ!!




………………………………





 温泉旅館は置いておくにしても、立ち寄り湯送迎プランのほうはお気に召していただけたらしい。

 『浴衣レンタルある?』とか聞いてくる困ったお嬢さんがいましたがあるわけないやろ民家やぞ(半ギレ)。浴衣のご利用は持ち込みでお願いします。


 お布団のほうも計十セットのカバー掛けが終わり、綺麗に畳んで和室の物入れに格納することができた。

 そのまま畳の間で膝を突き合わせ、なにやら宿泊プランを練り始める『なかゲ部』の皆さん。おれも招待主ホストとしてお客様の不安を無くすべく、お問い合わせには誠意をもって答えさせていただきます。



「風呂は……じゃあお言葉に甘えて、立ち寄り湯案内して貰うとして……飯って、食えるとこある? さすがに人数分用意して貰うわけにもいくめぇよ」


「温泉街のほうに『あまごや』さんっていう和食処があります。他にも何軒かあった気がするので……畳んじゃってなければ」


「あーそっか! 滝音谷ってあれですよ、開発工事で滝が消えちゃったやつですよね?」


「そうですそうです。やっぱお客さんの数減ってきちゃってるみたいで」



 落水荘の支配人さんは、頼もしいことにまだまだ諦めるつもりは無いようだが……大きな目玉を失った観光地が盛り返すには、並々ならぬ苦労が待ち受けているだろう。

 おれとしても、せっかく徒歩数分の好立地に居を構えさせていただいたのだ。どうせなら長いお付き合いをさせていただきたいなぁ……とは、前々から思っている。


 起死回生の一手として、ミルさんの協力のもとで密かに計画している計画はあるのだが……それはまだ、時期ではない。

 あと四ヶ月か……五ヶ月程度は、機を窺いながら待つ必要があるのだ。




「…………このあたり……『光』引かれてるって言ってたよな」


「そうですね。例の温泉街も引かれてるはずですよ。むしろそっちが主目的みたいで」



 まぁ今回のお泊まりにはあまり関係ないので、と話を戻そうとしたところ……なにやら考え込んでいた嘉手納さんハデスさまが、ぽつりぽつりと口を開く。



「その……『落水荘』さん? って……プロジェクター貸し出しとかある?」


「んー……すみません、わたしはそこまでは……」


「まぁそこは持ち込みゃ良いだけか。宿って事ぁ広間もあるだろうし」


「あー……なーるほど、そういう。うんうん、あたしは賛成やよ。青ちゃんが急かしてたもんなぁ」


「あーいいっすねー! そっか……何も函根はこねじゃなきゃいけない理由も特に無いっすもんね」


「わちはええよぉ。わかめちゃんたちとも遊べるし」


「…………?? ……えーっ、と?」



 置いてけぼりを食らうおれの目の前、『なかよしゲーム部』の皆さんはなにやら笑顔で頷き合い……




「度々すまん! わかめちゃん! その『落水荘』の場所、ちょっと教えてくんねぇかな?」


「えっ? い、いいです、けど……」


「おう、ちょーっとな。下見と……良さげだったら、予約。遊び来たで、わかめちゃんらを良いように使って悪ぃんだけど」


「い、いえ……おかまいなく……?」



 嘉手納さんハデスさまはそう言って立ち上がり、『なかよしゲーム部』の皆さんもそれに続く。

 おれは困惑しながらもハイベース号の出撃準備を始め、ラニちゃんは例によって『おもしろそうだ』と興味津々の様子である。



 それにしても、広間の『予約』とな。

 なにがあるんだろ。合宿とかかな。


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