第363話 【誘客遊戯】メラメラの決勝戦



 全世界が注目(※誇張表現)している決勝戦……コメントの流れを見る限り、やはりというか一番人気は怪盗ラニちゃんのようだ。

 単純に強い上に、談合によりお姫様ティーさまを事実上味方につけているところも、支持が集まる理由だろう。


 次いで人気なのが、予選では安定した強さと紳士的な振る舞いを見せた魔王ハデスさま

 堅実に繋ぐ高火力コンボにより、近距離では無類の強さを誇るが……なにせ出が遅めという短所をどうカバーするか。仮想敵である怪盗ラニちゃんはそこそこの射程で出が早い技を多数持っている(ずるい)ので、苦しい戦いが予想される。


 エルフのお姫様のキャラクターを操作するエルフの王女様、ティーリットさまは……コメント欄で繰り広げられるトトカルチョではいまいち支持を集めづらいようだが、SNSつぶやいたーを見て駆けつけてくれた王国民ファンの方々からの声援がちらほら見受けられる。

 見目麗しく、可愛らしい王女さま……その人気と支持は、よそのチャンネルへ出張していても相変わらずのようだ。


 そしてそして、ひよこ組から唯一のノミネートであるなつめちゃん。この子は勝つか負けるかは置いといて、単純に人気の高さがものすごい。

 かわいいし、素直だし、がんばりやさんだし……そして、かわいい。彼女が『あねうえ』と慕う霧衣きりえちゃん共々、大きなお友だちや海外のお友だちに絶大な人気を誇るのだ。




 そんな個性豊かな面々が出揃った、注目の決勝戦。気になる試合運びとしては……まずは大方の予想通り、怪盗ラニちゃんが頭一つ飛び抜ける形となった。

 お姫様ティーさまを伴い魔王ハデスさまに狙いを定め、二人掛かりの波状攻撃でじりじりと削っていく。



「お姫おまっ……! 勝ちたく無ぇのか!? ラニちゃんに全部持ってかれんぞ!?」


「わちラニちゃんが勝てば野望果たせるもーん。わかめちゃんとデートしたいだけじゃもーん」


「わはははは! そーゆーわけだよハデスくん! 大人しく我ら『ファンタジー女子部』のにえとなるがいい!」


「クッソ! 抜け目無ぇなァあのチビッ子!」



 高速で場を荒らし回り、出の早い攻撃を繰り出し牽制してくる怪盗ラニちゃん

 そしてその撹乱役に気を取られ過ぎると、出は遅いが高火力のお姫様ティーさまが一発を狙ってくる。


 更に分が悪いことに……魔王ハデスさまはどちらかというと、鈍重パワータイプのキャラクターだ。どちらか片方に反撃を試みたとて、そんな大きな隙を見逃して貰えるハズがない。

 魔王ハデスさまを最大の脅威と判断し、最優先で落としに掛かってくる『ファンタジー女子部』……狙いを定めた相手を複数人でボコるというその陰湿さに、ハデスさまもうすら寒いものを感じているようだ。




「クッッ、ソ……ぬぐぐ……」


「はははは! 逃げてばっかじゃ勝てないよ!」



 僅かな隙を見いだし、ほんの少しずつ反撃を試みるが……しかし二対一の状況は覆し難く、どうにも勝ちが見いだせない。


 もはや万策尽きたか、調子に乗った女子連中に一泡吹かせてやることは無理なのか。ハデスさまが、そしてあまりにも一方的な攻勢にさすがに『それはちょっと……』と感じ始めた視聴者さんたちが、世の不条理と悔しさを滲ませる中……ついに状況が大きく動く。




「あっ、当たりおったわ」


「「あっ!?」」「オォ!?」



 場を荒らし回った漆黒の怪盗……しかしそれ以上の速度を誇る音速のハリネズミが、独り黙々とキー入力トレーニングを続けていたなつめちゃんの手によってついに目覚めた。


 操る本人でさえ見失いそうな程の速度を乗りこなし、魔王ハデスさまのみに集中している怪盗ラニちゃんお姫様ティーさまの背後へと、青色ハリネズミさん必殺の突撃技が突き刺さる。


 少なくない魔王ハデスさまからの反撃、そして同様に少なくない同盟相手からのフレンドリーファイアによって、実は着実にダメージを蓄積していた『フ女子部』の二人は……思わぬ伏兵の介入により、二人纏めて残機ライフ喪失の憂き目に逢う形となったようだ。




「ッハッハッハ!! くく……っ! ナツメちゃん最ッ高だわ! よーやったよーやった!!」


「役立てたのなら、幸いよ。……戯れとはいえ、対等とはいえぬ勝負では楽しくなかろうてな。若輩の身なれど、我輩も仲間に入れて貰おう。此で漸く二対二よ」


「ず、ずるい! ハデさまずるい! わちもナツメちゃんとニャンニャンしたい!」


「欲が多すぎんだよ貪欲王女様!! どーせ結局若芽ちゃんち全員とお近づきになりてぇんだろ!?」


「はっはっは……参ったね。ナツメちゃん完全に見れてなかったわ」



 思わぬ形で頭角を表したなつめちゃんは、まるで虐められているような様相を呈していた魔王ハデスさまのフォローに入り、その後もに餓えた野獣達と押しも押されもせぬ立ち回りを繰り広げていた。


 やはり『すばしっこさ』においては譲れないものがあるのだろうか。その速すぎる移動速度ゆえにやや扱いづらいピーキーなキャラクターを器用に使いこなし、フ女子部二人の動きを器用に削いでみせる。

 そうして動きが止まり、あるいは隙を晒したとあらば、すかさず魔王ハデスさまの剛腕が襲い掛かる。


 無論、なつめちゃんとてまだまだ初心者の域を出ない『ひよこ組』だ。コンボだってまだまだ未熟、うまくダメージを稼げないし、回避や復帰だって所々おぼつかない。

 しかしながら、ここに至ってはハンディキャップの存在がデカい。残機ライフ二つの差はいかんせん大きく、削り削られながらなんとか拮抗できてしまっている。



 こうして、思ってた以上に熱い戦いをみんなで見守ること……数分。




「ああーー!!」


「すまぬの、姫君よ」



 まずはお姫様ティーさまハリネズミなつめちゃんに撃墜され。



「ぬ!? …………くっ」


「ゴメンねナツメちゃん! キミはよくやったよ!」



 そんなハリネズミナツメちゃんも、怪盗ラニちゃんの強攻撃で盛大に吹っ飛ばされ。



 こうして残るは、怪盗ラニちゃん魔王ハデスさまの一騎討ち。

 双方ともダメージはかなり蓄積しており、いつダウンしてもおかしくない。


 飛び掛かり、牽制し、殴り、跳び、転がり、防ぎ、放ち、避け……一進一退の攻防が続き、どちらかの攻撃がマトモに入ればもう決まるだろう程にギリギリまで削り合い……




「……ッ!! 貰ったァ!!」


「させるかァァ!!!!」



 勝敗の決め手は……ステージ全体に流星雨(ダメージはさほどではないが回避が非常に困難)を降らせるアイテムを拾った怪盗ラニちゃんが、それを使用し発動ポーズを取った……その一瞬の硬直に。


 対する魔王ハデスさまは所持していた金属バット(専用モーションの打撃技が使用可能)を装備解除し、そのまま怪盗ラニちゃん目掛けて投げつけ。



 本来であれば、強パンチに届かぬ程度しか入らないはずのダメージだが……互いに爆発寸前までダメージが溜まっていた状況とあっては、それを爆発させるには充分な刺激だったらしく。




「ああーーーーーー!!」


「ラニちゃんーーーーー!!」


「ッしゃァァァ! やったぜナツメちゃん!!」


「かかかか! やりおったな! 魔王殿よ!」




 手に汗握る決勝戦、その結果は……『なかよしゲーム部』所属、ハデスさまの優勝。


 こうして第二回『のわめでぃあ杯【局長争奪戦】』は、過去最大を記録する視聴者さんの数と、過去最大の盛り上がりを見せるコメント欄に見守られ、大盛況のもと幕を閉じ……





 優勝者への賞品、兼・おれへの罰ゲームの執行が、無慈悲にも決まったのだった。



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