第359話 【公開遊戯】挑戦者が現れました!



 初心者三人と、COMコンピューター(最弱設定)が一人。とてもレベルの低い身内対戦モードでキャッキャと戯れること、およそ一時間ほど。


 事態が動き出したのは……霧衣きりえちゃんが『お洗濯ものを干して参ります』と途中退席した後の出来事だった。





 昨日と同様、現在の配信画面は、そのほとんどがゲーム画面である。

 キャプチャーされたプレイ画面を左上、視聴者さんたちから寄せられるコメントを右上、おれのバストアップのキャプチャーを右下に合成した、わりと定番のスタイルだ。

 おれたちの操作キャラの下、フレーム部分におれたち三人のバストアップ画像を置いてあるくるらいで、じつは今まで霧衣きりえちゃんとなつめちゃんは(オープニングを除いて)カメラに映っていなかったりするわけなのだが。




「じゃあじゃあ……しばらく霧衣きりえちゃんのところもCOMコンピューターにしちゃいますね」


「うむ。ひと勝負といこうではないか」


「なんの、負けませんよー。局長の良いところ見せてあげますとも!」




 プレイヤー二人と、COMコンピューター(最弱設定)が二人。初心者感がまだ拭いきれないおれたちだったが、とりあえず実践経験は積まれていく。


 とはいえ、やはり最弱設定のAIだ。隙も大きく、強力なコンボは狙って来ず、おれたち初心者でもそこそこの勝率を叩き出すことはできたのだが……まぁ、慣れてくると物足りなくなっちゃうよね。

 半ばなつめちゃんとの直接対決のような形になってしまい、やっぱりこのゲームは大人数で入り乱れて遊ぶほうが楽しいのだと、改めて気づかされる。


 やっぱり……一方的にボコられる未来が見えるとはいえ、ラニも叩き起こしていっしょに遊んだほうが楽しいかもな。

 せっかくコントローラー四つあるんだし、やっぱCOM抜きで四人対戦やりたいな。



 ……なんてことを願ってしまったから、ってわけじゃ無いんでしょうけど!




「うーーん……やっぱCOM相手だと微妙っていうか。霧衣きりえちゃん早く帰って来ないか……っと、帰ってきたかな? おかえンヘェ!!?」



『COM相手におれつえーするわかめちゃん10さい』『対人経験積もう』『なにその変な声』『オンラインはまだ早いか……』『あへぇ!?』『どうした局長、しっこか』『ンへェって鳴いたか今』『すごい顔wwwwwwなにがあったwwwwww』『対戦相手募集しようぜ』『きりえちゃん??』『どうした、何が起こった』




 そんなおれの、他愛のない願いが届いたわけではないのだろうが。

 配信ルームの扉を開け、おれの願いを叶えてくれる『心強い助っ人』が……今まさに、そろりそろりと入室してきまして。



 突然の事態に困惑し、硬直するおれの目の前で……いたずらっぽい笑みを浮かべ、我先にとコントローラーを手に取る

 おまけに……唇の前に人差し指を寄せ、可愛らしく『しーっ』なんてされてしまっては……流されるしかない。




「…………えっと、はい。……心強いが来てくれたので……四人対戦だよ! やったねなつめちゃん!」


「うむ。昨日のような無様は晒さぬ」


「めっちゃ肝据わってますね。わたしは今すぐにでも平常心を喪失しそうなんですけど」




 ……というわけで、おれ対なつめちゃん対なぞの助っ人お二人。


 昨日よりはいくらか大乱闘慣れした(と思っている)おれたちの成長を確かめる一戦が、いま幕を開けた。






 …………のだが…………いや。





「勝てるわけないじゃん!!!」


「ぐ、ぐぬぬ……またしても……」




 わかってたけどね。知ってたけどね!


 まったくもう、一体この子はどういうつもりなのか……いや『どういうつもり』って聞いてもどうせ『ボクに黙って楽しそうな配信コト始めたことへの意趣返し』とでも言うつもりなのだろう、あの妖精ぷに○なは!



 だからって……だからって、こんなことをするか!?

 こんな吹けば飛ぶような、おれみたいなクソザコ配信者キャスターのぐだぐだ生配信に……をいきなり連れ込むか、普通!?




「わかめさまぁー、お洗濯終わりましてございまする! 大変お待たせ……致し、て……おりぅ…………ひゃえ……」


「あっ、霧衣きりえちゃん! おかえり!」


「お、おっ……お客様! わがやに……わがやにおきゃくさまでございまする!!」



『きりえちゃんの声』『きりえちゃん帰ってきた』『のわちゃんのぱんつ干してたきりえちゃん』『いやじゃあマジ誰なんだよwwwwww』『お客様!!』『きりえちゃんじゃないんか』『らにちゃんじゃないの』『えっラニちゃんじゃねえの!!?』『だれなの!!ねえ!!』




 ほんわか身内プレイに甘んじてたおれたちを突如急襲し、おれのフェイスカメラ以外にカメラが回ってないのをいいことに、おれたちのすぐ隣で先程まで大乱闘を繰り広げていた……


 配信をハブられた腹いせにと、空間を跳躍する【繋門フラグスディル】を使いこなす相棒イタズラ妖精によって送り込まれた……一筋縄ではいかない、刺客。


 必死に口をつぐみ、視聴者さんたちに正体を気取られないようにしながらも、おれとなつめちゃんをコテンパンに叩きのめして見せた……大乱闘つよつよ配信者キャスターズ。




「…………ぷっ、……ッははは! のわっちゃんその顔反則やって! その『プクー』顔やめーや! そんなん可愛すぎやん!」


「いやぁー、まぁそれもだけどよ? 反則ッつったら霧衣きりえ嬢だろ。俺様実際お目に掛かったの初めてだけどよ、マジで完璧な和服美少女じゃねーの」


「それよかこの子っすよ、なつめちゃん! 昨日の配信見ましたよ! ちょっと、どういうことなんすか若芽ちゃん! なんでこんな可愛い子が次々出てくるんすか『のわめでぃあ』は!」


「とーごーくん、解っとるどす? よその子には裁判飛ばして即火刑どす」



(……ラニ、鈴木本部長さんは)


(話通してあるよ。許可もバッチリ)


(ならかっ…………いや全然良くねぇわ。覚えとけよぷにあ○勇者。今晩メ○ソレータムの刑すっからな)


(し、釈明の機会を!!)




 おれたちの悲鳴と歓声を拾うために設置した高精度マイクが、聞き覚えのあるひとのほうが多いだろう御四方のお声を拾い上げる。

 そのお声が届いたのであろう視聴者さんの混乱は、これまたわかりやすくコメント欄に表れており……うんうん、よくわかるよ。正直おれもその中に加わって『は!??』ってコメントしたい気分だし。




 というわけで、本日のお客様……順に、村崎うにさん、ハデスさま、刀郷とうごうさん、ティーリットさま(のなかのひと)。


 東京の『にじキャラ』さん事務所から、岩波市のわが拠点へ……距離の壁と常識の壁と所属の壁と配信者ランクの壁を四枚纏めてブチ抜き送り込まれた方々。



 人呼んで……『にじキャラ【なかよしゲーム部】』の皆さんである。




――――――――――――――――――――



自信無いからぴょこぴょこ練習してたのにベテランに乱入されていきなり本番させられるやつ!!!!


なんてかわいそう!!!!!


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