第358話 【公開遊戯】トレモを撮るもの



初心者狩りはよくないとおもいます!



――――――――――――――――――――




 おはようございます、みなさん。グッドモーニング、いい朝ですね。

 昨晩の生配信から一夜開けて、今日は二月一日の土曜日です。今日もいちにちがんばっていきましょう。



「……御館様、本日は生憎あいにくの雨模様にございます。『良い朝』と表現するには、いささ清々すがすがしさに欠けるかと」


「わぅぅ……しとしとでございまする。……これでは、お洗濯ものが干せませぬ」



 …………アゥン! ツッコミを入れられるまでにおれたちに順応してくれているようで、おれはとてもうれしいです!


 霧衣ちゃんの言うように、昨晩から降り始めたらしい雨は現時刻でもまだ降り続いており、まわりの木々をしとしとと濡らしている。

 大自然に囲まれたこの環境であれば、そんな雨音に耳を澄ますのも風流なものに感じられるだろうが……今日明日じゅうはこんな天気らしいので、ちょっと予定していた作業は日を改めるべきだろうか。



「……霧衣きりえ嬢、御心配は無用です。……当物件、脱衣場の天井には、室内物干の吊り金物が仕込まれて居りますゆえ


「な、なんと! ならばお洗濯も安心でございまする!」



 ……うん。やっぱりガレージはさすがにまた後日、日を改めることにしよう。

 屋根だけでも掛けてあれば色々と作業できただろうけど、まだ屋根どころか柱さえ立っていないもんな。

 特に納期が決まっているわけでもないのだ。しとしと雨を浴びながらの建築作業は……さすがにちょっと、避けたい。風邪引いちゃう。


 であれば、ぽっかり空いた週末……どうしたもんか。

 もちろん編集とかスパチャのお返事録音とか、おれがやるべきことはいっぱいあるので、いよいよ『週末の過ごし方』が思い付かなかったら取り掛かろうと思う。

 とはいえこのお天気模様が今日明日と続くのであれば、お出掛けするような気分には……ちょっとなれそうもない。




『――――家主殿よ』


「ゥオワァ! びっくりしたぁ!」


『す、すまぬ。驚かせてしまったか』


「えへへ、ちょっとびっくりした。……おはよう、なつめちゃん」




 おれがぼーっとしていた間に、いつのまにか猫ちゃん状態のなつめちゃんがダイニングへと姿を現し、猫ちゃんのお鼻をかわいらしく『すんすん』と鳴らしていた。


 じつはこの物件、ダイニングのちょうど真上に二階の和室、つまり霧衣きりえちゃんとなつめちゃんのお部屋があるのだが……ダイニングへと続くリビングの真上部分は吹き抜けとなっており、二階和室の小窓からリビングを見下ろすことができるのだ。


 小窓といっても、ふつうの腰窓くらいの大きさはあるものだ。解放感を感じさせ、また採光と通風の役割を担う内窓は……やはり転落防止の観点もあるのだろう、せいぜいが換気用にちょっとだけ開く程度。顔は出せても、肩は……縦にならなきゃ、通れない。

 しかしそこは可愛くても神使。生来の身軽さと強化された運動能力を遺憾なく発揮し、リビング部分のふわふわラグに音もなく着地してのけたのだろう。




「おはようございます、なつめさま。『かりかり』に致しますか? 『みるく』に致しますか? それとも……」


「(ン゛ン゛……ッ!!)」


「うむ、家主殿のような『ごはん』を頼む」


「はいっ! かしこまりました!」



 ほほえましいやり取りを見聞きしながら、よこしまなイメージ画像を思い描いてしまったことを心の中で詫びる。天繰てぐりさんが『何事か?』と小首をかしげ窺ってくるが、『なんでもないです』と愛想笑いを浮かべて返す。


 やはりなつめちゃん……先日のお泊まり以降はヒトの姿での食事にハマっているらしく、結構な頻度でおれたちと同じ朝ごはんを堪能している。

 椅子の上に重ねられた座布団の上に『きちっ』と正座して、それでいて目を輝かせながら待つその姿は……にこにこ顔で朝ごはんを準備する霧衣きりえちゃんと相俟って、ひたすらに微笑ましい。最高である。写真撮っとこ。




 しかし……うん、そうだな。そうしようか。


 いい『週末の過ごし方』……思い付きました。








ヘィリィこんにちわ! 親愛なる人間種諸君! えへへ……昨日ぶり、ですか? 皆さんはちゃんと早起きしましたかぁー?」



 みんなのあさごはんを終え、おれも【洗浄クリーレン】で後片付けに協力して、今日も今日とておしごとへ出掛ける天繰てぐりさんをお見送りして……その後三人揃って、二階の配信ルームへ。

 もはやおれのお家芸となりつつある(よくない傾向)、直前告知のゲリラ配信……まぁべつに新情報も新ネタ披露もするつもりはないので、ゆるしてとは言わないが気にしないでほしい。

 じゃあ一体、いきなり何をしようとしているのかというと……至極簡単なことよ。



「それでは……これより『よわめでぃあ』、大乱闘強化合宿を始めたいと思います。参加者はわたくし、最底辺だけど局長の木乃きの若芽わかめとー……?」


「ごはんがかり、霧衣きりえですっ!」


「む…………ひるね係、ナツメ


「かわいい」「愛らしうございます」


「……む、…………うむっ!」




 まぁ要するに……おれたち初心者三人がモチャモチャとゲームしている様子を、ただただだらだらと配信させてもらっちゃおうという作戦だ。

 とても好意的に解釈するとすれば……トレーニング回、つまりは修行回だろう。


 ちなみにリアル修行計画のほうも、計画そのものはちゃんと進行中だ。べつにけっして忘れてるわけではなく、天繰てぐりさんが色々と根回ししてくれているらしい。



 まぁ、おれたちの修行はおいといて。きょうの配信は要するに、『初心者狩りラニちゃんのいないところで低レベルどうし戯れよう』という催しだ。

 つぶやいたーでの投稿や配信概要欄でそのことは告知済みなので、スーパープレイや撮れ高なんかは期待できないはずなのだが……嬉しい誤算というべきか、それでも視聴者数はどんどん増えていっている。


 漫然とプレイするよりは、誰かに見てもらっていたほうが集中できるだろう。これはありがたい。




「ではでは、休日自宅の気楽なゲーム大会……はじめていきましょう!」


「「わぁー」」





 低レベルどうし、非常にユルい突発的ゲーム配信枠。

 平和な初心者集団『ひよこ組』の集落。


 それが……それがまさか、になろうとは。



 ゆるゆるプレイしようとしていたおれには、到底思いもしなかった。


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