第360話 【誘客遊戯】ドキドキの選手入場


平和な初心者の村にレートガチ勢の群れが攻めてくるなんて……



――――――――――――――――――――




「こんばんしーっす。いやべつに昼間やしコンバンワやないねんけどな。村崎むらさきうにやよー」


「ウェーイみんな見テマスカー! カタナツルギ、若気の勇気! 刀郷とうごう剣治けんじでっす!」


「よぉよぉ、今日も励んでおるかな皆の衆。俺様こそが混沌の主、冥王ハデスである」


「ご機嫌よう、わちの可愛い王国民たちよ。わちが王女、トールア・ティーリットであるよ」


「………………へ、ッ…………ヘィリィこんにちわ、親愛なる…………い、いや、待ってこれ……無理、でしょ。……ここに並ぶの、無理でしょ……」




 初心者だらけのじゃれ合いが繰り広げられていたはずの、わが『のわめでぃあ』本拠点二階の配信おしごとルーム。

 そこには今や(カメラが回ってないのをいいことに)四名の超豪華ゲスト(のなかのひと)が押し掛け、このおうちの家主であるはずのおれを完全に圧倒してしまっている。


 この部屋に集った関係者はなんと、総勢八名にも及ぶ大所帯。おれとなつめちゃんと霧衣きりえちゃんと戦犯ラニと……そして超絶大人気配信者キャスターである、お四方だ。

 ……お四方よんかたって日本語合ってるのかな。お三方さんかたなら聞いたことあるんだけどな。



 ともかく……ラニの悪巧みとそれに悪ノリした鈴木本部長にじキャラ責任者によって送り込まれまれた刺客によって、おれたち初心者の平和な週末はあっさりと滅びを迎えた。平和な初心者の村になかよしゲーム部の群れが攻めてくるなんて。




「まぁーそういうわけで。あたしらが来たからには、もーのわっちゃんらに寂しい思いはさせへんのやで」


「い、いや、その…………あの、べつに寂しかったわけじゃ」


「わかめちゃんは、寂しくないの? わちと会えて……嬉しくないの?」


「アッ嬉しいです! はい! 寂しかったわけじゃ無いですけど、嬉しいです! ティーリットさまと、もちろんうにさんと、ハデスさまも。遊びに来てくれて、ありがとうございます!」


「あっ、あの……すみませんわかめちゃん。一人忘れてない……かな……?」


「いや俺様達もよ、ちょーっとでビビったけどなァ……でもま、面白そうだったしよ。な、若芽ちゃん!」


「こちらこそ! わざわざお越しいただき、ありがとうございます! ラニちゃん後で『おはなし』があります」


「ヒェッ」


「あのオレ…………一人忘れて……あの……」



 うにさん以外は、動画ではないラニの姿を見るのは――幻想種族『妖精フェアリー種』を拝むのは――初めてだろうに……そんなことは微塵も感じさせず、平然と普段通りのキャラクターで演目を進めていく。

 さすが大御所、さすが大先輩、さすが大企業。プロの風格が半端無い。

 たとえその姿が映らなくとも、言葉だけで周囲の観客を引き込んで魅せる。事実としておれたちも、そして当然のようにおれの視聴者さんたちも、これから何が起こるのかと楽しみでならない。




「えー……それでは。場も整ったので」


「ラニ!? えっ、待っ……えっ!?」


「それでは……これより、第二回『のわめでぃあ杯【局長争奪戦】』の開催を! ココに宣言します!!」


「ちょ「「「「うおおおおおお!!」」」」



『うおおおおお!!!!』『一般参加枠!!一般参加枠は!!』『なんなんだよこの顔ぶれwwwwww』『局長(賞品)ふたたび』『おい配信ジャックされたぞwwwwwww』『ウオオオオオオオwwww』『なかゲ部主力まるごと出張とかありえんwwwwww』『ラニちゃんひっでえwwwwすき』



「はい、ありがとうね。やーやーご声援ありがとうね。……ではさっそくルールの説明! この場に集いし選ばれし戦士八名で、こちらの『大乱闘スマイトブロス』にて己の技を競い合っていただきます!」


「ねえ! ちょっと! わたし聞いてな」


「ゲームは情け無用の個人戦! ボクと『なかよしゲーム部』の方々はストックライフ三つ、ひよこ組の三人はハンデとしてライフ五つで、しかしその他は同じルールで戦っていただきます!」


「あっ、ハンデたすかる。……じゃなくて! だから」


「試合の組み合わせはくじ引きでランダム! 各試合上位二人が決勝戦へと進出! そして栄えある優勝者には……本大会の主催である『のわめでぃあ』局長の木乃若芽ちゃんから、『(公序良俗に反しない範囲で)何でも言うことを聞いてあげる権利』が進呈されます!!」


「ちょ「「「「うおおおおおお!!」」」」




 だ、だめだ……みんなだめだ。

 これはあれだ、場の空気に流されてとか、盛り上げるためにとりあえず歓声上げとこうだとか、そんなチャチなもんじゃ断じて無ぇ。もっとおそろしいものの片鱗だこれ。


 うにさんはじめ『なかゲなかよしゲーム部』の方々は、みんながみんなどういうわけか本気で優勝を狙っている雰囲気だ。

 いったいおれなんかに何を求めているのか気が気でないし、これでは『必要とされていて嬉しい』よりも『どうしてこうなった』感のほうがつよい。こわい。


 そして一方、われら『ひよこ組』……優勝商品を聞いてから霧衣きりえちゃんも謎のやる気に満ち満ちており、それに触発されてかなつめちゃんも気合充分。

 そしてそして、発起人でもあり災厄の元凶でもある『たのしい』中毒患者ジャンキーは……にやにやとした表情の裏に、これまた静かな闘志を漲らせている。こわい。



 そしてそして……こわいといえば、視聴者数とコメント数も非常にこわい。

 『心強い助っ人』の参戦以降、視聴者数はうなぎのぼりで急上昇。配信画面には相変わらず、ゲーム画面とおれの顔しか映っていないのに、視聴者さんがSNSつぶやいたーで『ヤベェことが起きてる』と拡散してくれたおかげでどんどんカウンターが回っていく。


 大慌てで以前頂いていた『にじキャラ』配信おたすけ素材集から皆さんの立ち絵バストアップを引っ張り出し、画面下へ『ずらーっ』と並べさせていただく。

 霧衣きりえちゃんとなつめちゃんとラニちゃんをちょっと右のほうに詰めて、その隣にうにさんとティーさまとハデスさまと……画面端ギリギリの半分見切れてる位置に刀郷とーごーさんを配置する。



 おれが必死に配信環境を再構築している間に、どうやらくじ引きによる組分けは決まったようだ。……おれ引いてないんですけど!!

 どうやら残った最後の一本にされてたみたいで、おれの出番は第二試合……対戦相手はティーリットさまと刀郷とーごーさんとラニちゃんだ。やばいわね!!




「……ていうか! 流されに流されていつの間にか状況整っちゃってますけども! わたしまだ納得してないですからね!? なんでわたしが賞品みたいな扱いなんですか!?」


「大丈夫やよのわっちゃん。のわっちゃんが優勝すればええねん。簡単やろ」


「簡単なわけないでしょう! さっき瞬殺されたばっかりじゃないですか! ヤですよわたし! どう考えてもわたしが大変な目に遭うやつじゃないですか!!」


「じゃあ…………期待してくれてる視聴者さんに『ごめんね』って言って、やめる? こんなにたくさん、スマブロ大会を楽しみにして集まってくれたのに?」


「………………………………なんですかこの数字はァー!!?!?」



『大乱闘から逃げるな』『わかめちゃんがんばって!!』『一般参加者枠をおおおお!!』『やめないで』『大乱闘から逃げるな』『賞品から逃げるな』『今北産業』『同接数えっぐwwwwwww』『大乱闘から逃げるな』『わかめちゃんの見せ場と聞いて飛び起きました!!』『局長せいぜいがんばって』『やめないで』『大乱闘から逃げるな』『つよつよなわかめちゃんなら余裕っしょ?』




 いつもの『生わかめ』の、二倍は優に上回っている視聴者数……目に見える形での『期待』の現れを、こんなにもまざまざと見せつけられてしまっては。


 せっかくの休日、わざわざおれの配信に、こうして駆けつけてくれた『なかゲ部』皆さんの期待とやる気を……こうも見せつけられてしまっては。



 ……そしてなによりも、おれがここで『やだ!』をゴリ押しした際の……おれ以外のの人々の悲嘆と落胆を、想像してしまっては。





「……ッ!! やってやろうじゃねぇかこのやろう! おしりの穴かっぽじって待ってろやオラァ!!」


「わーのわっちゃん! お下品! お下品はダメやって!」


「『耳の穴かっぽじって』と『首洗って待ってろ』が悪魔合体しちまった感じかね……」


「いや、おしりって…………青ちゃんじゃないんすから」


「青ちゃんは堂々と『けつ』言いはるからなぁ……つよい子やわぁ」


「いや……ティー様もあんま『けつ』とか言わん方が良いっすよ……」




 そうとも……おれは泣く子も笑う『のわめでぃあ』の局長だ!

 一人でも多くの視聴者さんを楽しませるためならば……おれは如何いかなる苦労も(※一部を除き)厭わない!


 のぞむところだ。第二回『のわめでぃあ杯【局長争奪戦】』……受けて立とうじゃん!!




 ちなみにラニちゃんはわかってるね。

 覚悟の準備をしておいてくださいね。


 ぜったいににがさないぞ。


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