第353話 【技能指導】初週の成果



 午前中は北陸ちほーへ飛んで、山代先生にマンツーマンでハープの手ほどきを受けて。


 レッスンが終わったら、お昼は一旦本拠地に戻って霧衣きりえちゃんのおいしいごはんを頂き。


 お昼を頂いたら今度は東京へ飛んで、『にじキャラ』配信者キャスターの皆さんの【変身】訓練に参加して。


 そして夜になったらまたまた拠点に帰って、おいしい晩御飯をいただいてからPCに向かって編集おしごとを進める。



 ……以上が、昨日および今日のおれの一日のタイムラインだ。

 ハープのレッスンは水曜と木曜なので……たぶんだけど、来週の水曜木曜も同じスケジュールになると思う。




 配信者キャスターさんたちの【変身】訓練のほうは……火曜日の午後にお披露目してから、今日で三日目。初日以降は自由参加という形になっていたのだが、アバターの姿になれるのが相当面白かったのだろう。配信の用事以外、みんな籠りっきりで【変身】を満喫している。

 三日目ともなれば、さすがに皆さんこなれてきたようだ。この感じなら、すぐにでも実戦投入できるだろう。



 ただその一方で……案の定というべきか、よく三日間持ったというべきか……どこからともなく噂を聞き付けたⅡ期生とⅢ期生の配信者キャスターさんたちから、『ずるい!!』とのお声が上がったらしい。まぁそれも当然っちゃ当然だろうな。


 幸い、ジェバ……もとい、鶴城神宮技研棟の清雪せいせつさんが一晩でやってくれました。

 待望の変身デバイス四号機と五号機がついにロールアウト、これで『にじキャラ』さんの各ユニットへ最低一台ずつデバイスが行き渡る形となる。



 おれの『にじキャラ』訪問および訓練補助業務は『火曜から木曜の午後』、という形で取り決めを行っていたのだが……さすがにこの状態で一週間待てとか言われたら不満が爆発しかねないので、急遽明日金曜日の午前中にお邪魔させていただくこととなった。

 ただし、会議室は別件で使うらしいので、事務所近くの貸し会議室(さらに広い)を押さえてくれたらしい。

 そして……どうやらその場に、時間的余裕のあるⅠ期生とⅣ期生の方々も来てくれるようで……なんなんですかね、お祭りですか。超豪華な顔ぶれが勢揃いじゃないですか。




「……っというわけでミルさん! 明日『にじキャラ』さんとこ行きましょう! 【Sea'sシーズ】のみなさんバッチリ【変身キャスト】使いこなしてますし……ですよ」


『…………っ、……すみません、わかめさん…………ほんと、ありがとうございます』


「なんのなんの。……わたしだって、ものすごい助けて貰ってますし。だって半分以上は自分達の都合でやってることなので……恩返しにさえ、なってませんけど」


『だとしても、ありがとうございます。……ふふ。夢みたいですよ』


「…………えへへ」




 明日はハープのレッスンが無い日なので、午前から配信者キャスターさんたちに付き合うことができる。

 貸し会議室も九時から押さえてくれているらしく、場所もREINで送ってもらった。Ⅳ期マネージャーの八代やしろさんが現地で待っててくれているらしいので、いきなり向かっちゃって大丈夫らしい。


 そこでⅡ期生ユニット【私立安理有あんりある高校】、およびⅢ期生ユニット【MagiColorSマジキャラ】の皆さんが待ち構えている……とのこと。

 ……大丈夫だよな。いきなり糾弾されたりしないよな。いざとなったらティーリットさまに助けを求めよう。




「それでは……明日の朝、八時半頃お迎えに伺いますね」


『はい。……何から何まで、ありがとうございます』


「いえいえ、お気にせず。……身体で払って貰いますので!」


『やーん。……ふふっ。……では、おやすみなさい』


「おやすみなさい」




 やーんじゃないんだよこのオトコは本当可愛いんだから。これでアレがついてるんだぞ信じられねえ。

 ……いやでも、中の性格的には以前の人格……有村ありむらさんなのか。なら立ち振舞いや言動が可愛らしくても、なにも問題なかったわ。


 しかし……なるほど、そうか。

 今までは『仮想の容姿を実在人物に投影する』形で【変身キャスト】を使用していたが……逆に、今のミルさんに以前の『有村ありむらさん』の姿を投影することも可能なのか。

 それができれば尚のこと、ミルさんは姿を気にしなくても良くなりそうだし……配信者キャスターさんたちの活動以外でも、色々と活用の幅は広げられそうだ。


 まぁ尤も、変身する姿を正確に想像しなければならないので……長年その姿を思い描いていた姿でもなければ、思うように【変身】するのは難しいだろうが。



 そう……あの【変身キャスト】の魔法は、決して万能ではないのだ。





「……ねぇ、ラニ」


「んん? どしたの?」


「えっとね……【変身】関連以外に、あのデバイスで魔法使うことって、可能? たとえばほら、【浮遊シュイルベ】とか」


「あぁー…………セラちゃん?」


「うん……」



 『にじキャラ』第Ⅰ期生【FANtoSeeファンタシー】所属、天使モチーフの配信者キャスターである『エメト・セラフ』さん。

 三頭身に可愛らしくデフォルメされた容姿の彼女は、今回の【変身キャスト】の魔法で一番『割を食った』配信者キャスターさんだろう。


 これまでの仮想配信者ユアキャスとしての活動は、フェイスリグやトラッカーを用いてアバターを操作する形式だった。そのため標準的人間体型から逸脱した容姿でも、可愛らしく動かすことが出来たわけだが。


 この【変身キャスト】魔法によって、その姿かたちそのものは、おおよそ完全再現できたといって過言ではない。

 ないのだが……再現できたのは、あくまでも『姿かたち』のみ。さすがに翼をはためかせ、あるいは魔法的な何かを行使して翔ぶことは出来ず……可愛らしくデフォルメされた肢体で、よちよちと歩き回るのがせいいっぱいだ。


 ティーリットさまやベルナデットさんに抱っこされてる姿は、それはそれで愛らしくもあるのだが……そもそも身長や手足の長さ・視点の高さからして、他の配信者キャスターとは全く違うのだ。

 椅子にも座れず、机に手が届かず、扉さえ開けられない。幼児並の背丈のままというのは、さすがに酷だろう。



「……うん、ボクも気にはなってたんだよね。……んー、少し考えてみるよ」


「ごめんね、ラニ。おれのわがままばっかで。……材料、ほとんどラニ持ちなんでしょ?」


「否定はしないよ。いちお霊木の欠片とか、縁起物の石とか、この世界の魔力素材で使えそうなモノは使ってるけど……やっぱり到底、足りない。……足りないけど、まぁ……他に使い途もないからね」


「…………ありがとうね、相棒」


「へへ。なんのなんの。……ボクだって、楽しませて貰ってるんだぜ」



 ミルさんとの通話を終え、編集作業を再開するおれの前方やや下方、机の下のあたり……膝の間あたりから、相変わらずな趣向を隠そうともしない相棒の声。

 昨日に引き続きタイツをはいているので、彼女の望むものは拝めないだろうに……しかしそれでも満足なのだという。上級者だこと。




「近付きすぎたら……膝で潰すからね」


「せめて太ももにならない?」


「そこまで近づいたらタイガーバ○ム(赤)の刑だわ……」


「なにそれ怖っ!?」



 まあ……見られて減るものでもないし、これが対価がわりだというのなら、おれは何も言うまいよ。


 ……見るだけなら、許そう。

 もっとも……さわったりスンスンしたら即しょすけどな。慈悲はない。


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