第340話 【企画撮影】せっかくとりっぷ・転
――『せっかくスポット』そのいち。
「これもしかしてアレですか!? 期待しちゃっていいやつですか!?」
「えーっとね……つぶやいたーネーム『ワンワヤ』さんからの『せっかく』スポットだね。【
「やったーー!! 最高! すき! ワンワヤさんありがとう!!」
「若芽様……まるで
「撮影交渉はちゃんと自分でやるんだよ。四人席おねがいね」
「ガッテン承知! いって参ります!」
(あの、こんにちわ。……すみません、四名で……入れますか? あっ、あとですね、じつはわたし
幸いにして、快く許可を頂くことができた。なんでも実際いろんな
……というか、むしろ『わざわざ許可を取りに来てくれる人の方が珍しい』とか言われちゃったんですが……あの、同業者諸君よ。
まぁ、なにはともあれ。
おれたち非常に目立つ三人組(+姿を隠したラニちゃん)は海鮮食堂【
緑髪ロリエルフと白髪狗耳美少女との同席ということで、モリアキが非常にいたたまれない顔してたけど……仕方無いね。
顔は一般の皆さんの印象に残らないようラニちゃんが魔法で誤魔化してくれてるから、ちょっとだけ辛抱してね。
「うっわ、
「んんゥー……っ! 新鮮なお刺身を、こんなにも……
「ナマのお魚って、こっちの世界で初めて食べたけど……この独特な食感がくせになるね。ショイユとかいうソースがまたよく合う」
ラニちゃんは例によって、カメラとまわりのお客さんの死角でおれがこっそりおすそわけしながら……おれたち三人(+ラニちゃん)はそれぞれが美味しいご飯に舌鼓を打っていた。
撮影係のモリアキも満足そうな顔して、刺身と米を掻き込んでいる。……カメラ回してるからな、あんまり喋れないんだよな。
「「「ごちそうさまでした!」」」
目の前のマリーナを眺めつつ潮風を感じつつ、たいへん優雅なお昼御飯を堪能し終え……おれたちは【
なお生魚のにおいを感じ取った棗さんに無言の圧力を受けたおれは、おみやげとして買っておいた鯵ジャーキーを無条件供出するハメになった。
ともあれ、大変満足度の高いおひるを堪能できたわれわれ。
行き先を告げずに拉致られたときにはどうなることかと思ったけど……この調子なら今回の旅は良いものになりそうだなぁと、このときおれは大いに期待していた。
甘かった。
――『せっかくスポット』そのに。
「えー、っと……あの、その、えっと…………ここ、ですか?」
「はい。到着しました。こちらつぶやいたーネーム『パラグッド』さんからの『せっかく』スポット、
「あの、あの、あのっ、あの……っ!?」
「ひとことコメント紹介するね。『直接的なホラー表現やグロテスクな演出こそ(あんまり)無いものの、展示のラインナップと配置によって得体の知れない恐怖を感じさせる、底知れない実力を秘めたスポット。『手まねき博物館』っていう施設名と相まって、マジでどっかに連れてかれるんじゃないかっていう不安が半端無い。なお同行者は帰宅後体調を崩し数日寝込んだ模様(
「ガチホラースポットじゃないですか!?
「やだじゃないんだよ!! パラグッドさんに申し訳ないと思わないの!? いきますって言って! せっかくノワのためを思って勧めてくれたんだよ!?」
「わたしはだまされませんよ!? どうせみなさんわたしの泣き顔とか怯えた表情とか悲鳴とか期待してるんでしょう!?」
「よくわかってるじゃん。なお今回は局長であるノワおひとりで、自撮り棒持って突撃して貰います。……視聴者さんの期待には応えてくれるよね? 局長だもんね?」
「んグ、ッ、痛いところを……いいですか! わたしがそう簡単に悲鳴上げると思ったら大間違いですからね!?」
「ヒィッ!? あっ、す、すみません……あのっ、おとな一枚…………えっ? アッ、は、はい、大人で…………いえ、あの、おとな……わたし…………あっ、すみません……ありがとうございます…………うう……あっ! あの、わたし実は
入場券売り場もなんていうか、無駄に雰囲気出てるっていうか、入り口に辿り着くまでに既に色々とヤバそうっていうか……その上スタッフのおじさん(?)の佇まいが只者じゃなくて、危うく悲鳴上げてしまうところだった。
しかし、これでだいたいの怖さは想像がついた。館内に入ったところでたかだか展示物、しかも『ホラーやグロテスク表現が(あんまり)ない』って言われてる以上、もはや恐れることはない。おまけに館内の撮影許可も頂けたし、これは実質的勝利と言っても差し支えないだろう。
わっはっは。残念だったな、おれをいじめる視聴者諸君!
しかし……まぁ、おもしろそうな施設を教えてくれたことには、感謝してあげようじゃないか。わたしは寛大なので!
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ゆるしてゆるしてゆるしてゆるしてゆるしてゆるして…………ヒッ!? やだもぉ、やだぁ……なんでこんな……やだぁぁちょっとぉおぉぉ……もぉぉぉぉラニぃぃぃぃぃ」
(ボクは居ないものとして考えてね。がんばってね、実質的勝利を収めた局長さん)
「やだぁぁぁぁぁあやまるからぁぁぁぁぁ…………うぅぅ……なんで…………やだぁ……えっ、ちょっ……なんであんなでっかい太子がいるの……もうやだ……わけわかんない……」
(確かになかなか賑やかなことになってるね。明るい大空間……集会場の跡地かな? 草木が元気に生い茂ってて、いろんな……像? を呑み込みつつあって……遺跡か何かみたいだね)
「遺跡に巨大聖徳太子は居ねぇよバカぁ!! ヒッ!? ごめんなさいバカっていってごめんなさいゆるしてゆるしてゆるして……やだぁごめんって言ったのにぃ! わーんあの像こっち睨んだぁ!!」
(睨んでないし……少しも動いてないし……)
「いや……これ…………一段と不気味な……」
(剥製、みたいだね。獣に鳥に……なかなか見応えがありそう)
「……ちょっと、これカメラ映さないでおきますね。ショックが大きそうな…………えっと、何があるかっていうと……胎児の、模型が、いっぱい」
(うわビックリした…………え、つくりもの? 血の匂いもしないし……ねぇノワ、生首がめっちゃ並んでるんだけど)
「うわビックリした…………あー、えー……確かにこれは………この数は……夜見ると泣く。昼なのに泣きそう。もうやだかえりたい」
(もう少しがんばって。まだ半分くらいじゃん、どんどん行こ)
「………こわい、ここ…………こわい……」
(すごいね……なかなか独特な感性だよ)
「うぅぅ……なんか、せなかのあたりがムズムズするような……寒気のようなゾクゾクっていうか、底知れない不安感っていうか…………ぅうー! も、もう……だめ……! やだぁぁぁぁぁあ出してぇぇぇ! あやまるからぁぁぁぁぁ!」
(た、確かに……ヒトの形をしてるのにヒトじゃないモノだったり、ぱっと見た感じはヒトなのに当然のように欠損してたり……これは不安になるね)
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、出して、だして、やだ、やだやだやだ、この中やだ、外にだして、おねがいします、おねがいです、そとにだして……」
(うーーん限界かな。ノワ、こっち。非常口のマークついてる。……手、引っ張るよ?)
「うぅ…………ぐすっ、ひっく……ふぇぇ、ラニぃ……」
(大丈夫。ボクはここにいるよ。……大丈夫)
「ラニぃ……ひっく。グスッ。……ぜったいゆるさないからな」
(ヒェッ)
――『せっかくスポット』そのさん。
「潮のにおいするんですけど……もしかしなくても海ですよね?」
「ご明察。つぶやいたーネーム『ジロデーム』さんからのオススメポイント。今度はキリちゃんも一緒に行けるビュースポットだよ」
「う、うみ! わたくしもうみを拝見できるでございますか!?」
「
「うんうん。じゃあノワはこれ持ってね。ちゃんと紐むすんで、しっかり握っててね」
「えっ? これ……自撮り棒? えっ? 自撮りしてろ、ってことですか? ……なんで?」
「そういうことか!! そういうことか!! アッ、ゆれゆれゆれやだやだやだ……ちくしょう恨みますから!! ぜったいゆるしませんから!!」
「す、すごい迫力にございまする! 水しぶきが、ぐばーっ、ごばーっ、て…………ひゃわっ! こ、ここまでしぶきが届いてございまする!」
「き、きき、きりえちゃん! きりえちゃ、きり、きりえちゃん!! おちついて、ゆれ、ゆれる、おちつ……っ……、ッスゥー…………ッ。……きひえちゃん、よかったね。たのしひ?」
(せいいっぱい取り繕おうとしたんだろうけど声震えてるね)
「はいっ!
(あーそっか、フツノ様が
「な、なるほど! なるほどなるほヒャァッ!? ゆ、ゆ、ゆ、ゆら、ゆれ、ゆるぇ、っ!!?」
「……? 若芽様? まるで産まれたての仔鹿のようでございまする」
「ごめんなさい足腰きたえるから! 輪っかサボんないから! だからゆらさないで! ゆるして!!」
「わ、若芽様、落ち着いてくださいませ。風のいたずらにございまする。
「も、もう撮れたよね!? 風景撮れたもんね!? もうかえるからねいいよねかえるからね!! ちくしょうバーカバーカ!!」
(女児かな)
(うるさいきちくげどう!!)
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