第339話 【企画撮影】せっかくとりっぷ・承


【#わかめ旅】新企画始動中!!

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――――――――――――――――――――



「……はい! やっとつきました、伊逗いず半島! わたしたちは今、道の駅『鹿野かののへそ』へお邪魔しています!」


「わ、わぁー!(ぱちぱちぱち)」


「かわいいなぁ」「かわいいねぇ」


「……っ!??」




 スタート位置から東越基幹高速をかっ飛ばすこと、およそ二時間半。

 おれたちは概ね予定通りにインターを降りてバイパスをひた走り、伊逗いず半島のほぼ真ん中に位置する道の駅へと到着した。


 今回の旅でお邪魔するエリア【82】は、おおむねここから南の範囲となる。残念ながら北方向の沼都ぬまづ壬島みしま伊逗永岡いずながおかは、今回の旅ではお預けである。

 今後【81】を当てたときのお楽しみというわけだな。



 というわけで、こちらの道の駅『鹿野かののへそ』……比較的新しめの道の駅で、すぐそこを流れる鹿野かの川を眺められるオシャレなレストランがイチオシらしい。山の幸と川の幸と海の幸を用いたお料理が楽しめる、って……なにそれ死角なしじゃん。

 ……鹿野のへそ。テグリさんのおへそかぁ。


 ま、まぁ、おれの煩悩は置いておいて。

 こちらの道の駅のレストラン、特にオススメだというのが、椎茸そば。名産らしい椎茸や山菜を甘辛く煮含め、温かいお蕎麦の上にたっぷりと乗っけて温泉卵を落としたもの……とのことで、なんというか聞いてるだけでも美味しそうである。



 …………の、だが。




「ぅえ!? た、食べちゃダメなんですか!?」


「ダメだよノワ。残念だけど今回のスケジュールに含まれてないから」


「す、スケジュール!? そ、そうスケジュール!! わたし知らないんですけど!!」


「大丈夫大丈夫。目的地は運転手してくれるマネージャーさんが知ってるから」


「わたしはぁぁぁ!!!?」




 あのねぇ、キミたちはボクを目的地告げずに連れてこうってかい。いいかいキミわかってるね、これは拉致だよ、拉致。

 運転手のマネージャーさんも冗談じゃないよそんな、人のよさそうな顔してえらいことしてくれるじゃないか本当にさぁ。大丈夫ですじゃ……だぁから『大丈夫です』じゃないんだよ本当にさぁ。こっちはどこ行くかまだ知らされてないんだぞぉ!?




「まあまあまあ。大丈夫だって。悪いようにはしないから」


「本当? 温泉入れる?」


「入れる入れる」


「………………」


「…………………………」


「それでは!! 次の目的地へ……いくぞッ!!(やけくそ)」


「い、いむぞっ!!」


「かわいい」「かわいい」


「……っっ!!!」




 はい、というわけで。

 小休憩がてら映像を挟むことができたので、再び車に乗り込んで移動開始だ。構想としてはこのあたりで行程案内を差し込む形かな。そのへんは後日編集するときに何とかするとして、とりあえず今のおれは何処に連れてかれるのかわからない。拉致だよこれは。


 ブーブー言いながらも車に乗り込み、とりあえず移動。今回はおれと霧衣きりえちゃんが後部座席、モリアキマネージャーさんが運転手を務めてラニがそのフォローに回る配置だ。

 なおナツメさんはおれの膝の上でくつろいでいる。僭越ながら撫でさせていただきますねナツメさま。お加減のほどは……あっ、よろしいですか。いい感じですか。恐れ入ります。ち◯~るをどうぞ。




「……真面目な話さ、なんであの人たちって喋ってるだけであんな面白いんだろうね。おれには到底真似られる気がしないわ」


「…………? あぁ、今オフレコっすか」


「ん。道中のタイムラプスは使うかもだけど、編集のときに音声つまむから」


「了解っす。…………まぁ、あの四人組は……不思議っすよねぇ」


「?? なになに、なんのお話? ボクら以外に四人組で旅してるパーティーがいるの?」


「いるんだわ、すげーひとが。……そだ、ラニちゃんこっちおいで。試験に出るシリーズ見せたげる」


「上映会は良いんすけど、オレ笑って事故っても責めないで下さいよ? 音声だけでも破壊力ヤバイんすから」


「安全運転で頼むよ!?!?」




 キャビン部に据え付けられたメディアターミナルに、もじゃもじゃ頭の男性タレントたちがはしゃいでいるパッケージのDVDを読み込ませる。

 運転中に立ち上がって移動するのは危ないので、視聴者のみなさんは席の移動は停車中にしましょうね。


 運転席やや後方の天井部分、バンクベッドの床下部分に内蔵されているモニターを引っ張り出し、おれはせかせかと準備を始めていく。

 前席に座っている人には申し訳ないが、このハイベース号であれば走行中でも映画上映会をおっ始めることが可能なのだ。

 まぁもっとも、今回視聴するのは映画ではなく……もとは北方ローカル局のバラエティ番組なわけだが。




「へぇー……円盤に動画が保存されてる、ってこと? この世界の記録媒体は本当いろんな形があるんだね」


「流通に乗って売買されてるのは、大体この形かな? ダウンロード販売とかもあるけど……いいや、全再生ぽちっと」


「ノワたちの動画もこんな形の……円盤で販売、ってできるの?」


「作ったところでなぁ……コストに販売数が見合わないだろうし、ショップも扱ってくれないだろうし。っていうかそもそも、ユースクで無料で見れるものをわざわざお金払って買おうとは思わないって」


「そっかぁ…………おぉ? 始まったかな?」



 パーカッションの音とともにタイトルロゴが表示されていき、特徴的なオープニングBGMが流れ始める。

 おれがひそかに目標としている作品……日本全国に多くの根強いファンを持つこの作品からは、企画の内容や演出の案や編集の手法などなど、学び取れるものが多くあるはずだ。


 おれとモリアキは……それこそ画面を見ずとも音だけで情景を思い描ける程度には繰り返し繰り返し履修した作品だが、初見となるラニちゃんと霧衣きりえちゃん(とナツメさん)は、いったい何を感じ取ってくれるのだろうか。




 願わくば……出演者いじめのところを、重点的に学んでほしいところだが。


 ……今回の拉致を見る限りは、残念ながら望み薄かもしれないな。






「先輩先輩。水着って持ってます?」


「お前は何を言っているんだ」


「ですから、水着ですって。湯浴み着でもいいっすけど」


「あー、えー、うー、…………バスタオルじゃ、だめ?」


「ちゃんと編集するなら、まぁ……それもありかもしれないっすけど。少なくともオレに撮影は期待しないで下さいよ? タオル一枚のわかめちゃんと場を共有するとかぴらゴメンっすからね? ラッキースケベは実在しませんし、させませんから」


「そこは、まぁ…………ラニに撮影お願いすればいいか。…………っていうか、入浴シーンって録って大丈夫なの?」


「ユースクには割とありふれてるみたいっすよ。先端を巧妙に隠した素っ裸をサムネにしてる女子だっていましたし」


「大胆だなぁ。おじさんびっくりだよ」


「まぁタオルならタオルで構わないんで、編集終わったら公開前に一応見せて下さ……あー、いえ、白谷さんに真面目にチェックして貰ってから見せて下さい。ヤバくないかどうかオレもチェックしますんで」


「うっす。おなしゃす」




 信号停車の隙を見計らい、おれはひらりと身を翻して助手席に収まる。

 大きなフロントガラス越しに映る光景を、愛用の小型カメラとともに目に焼き付けながら、青色看板をちゃっかり確認し目指しているであろう方向を推測・考察しながら……




「てんしちゃんの3D、本当ヤバかったっすね」


「ヤバイよな。あれは可愛すぎる何かだわ」


「……ああいう『非・人形ひとがた』? っていうかデフォルメ体型の配信者キャスターも【変身】ってできるんすかね?」


「そこは想像力次第っていうか……試してみるしか無いだろうなぁ。明日が楽しみでもあり、不安でもあり」


「今度はティー様と会えますかね? オレあのお方の声めっちゃ好きなんすけど」


「わかるーめっちゃ可愛いー」


「包容力ありそうで、それでいて幼げで」


「それな。ちょっとだけ舌足らずな感じな。自分のこと『わち』っていうのすき」


「わかる。舌ったらず好き」




 後部座席のお客様が、バラエティコンテンツのお勉強をしている間……前部座席のおれたちは、おれたちならではの会話に興じていった。



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