第338話 【企画撮影】せっかくとりっぷ・起



おまたせ!!!待った!?!?!?

(※まってない)



――――――――――――――――――――




 晩御飯と、お風呂と、そして夜はそれぞれのお部屋(モリアキは一階客間)でグッスリ眠って疲れを取って。

 そして迎えた翌朝、本日は一月二十七日の月曜日だ。


 ……いや、ハイベース号で過ごす夜も嫌いじゃないんだけど、純粋な男性であるモリアキにとってはなかなか気が重い状況らしいからな。

 大仕事終わりでゆっくり休むのなら、自宅へ帰って休んだ方がいいと判断したわけだ。

 幸いなことにおれたちには、それができる手段・助けてくれる相棒がいるので……ラニちゃんに感謝しつつ、ありがたく助けてもらうことにしたのだ。




「おはようございます! 視聴者の皆さん! 魔法情報局『のわめでぃあ』たび部のお時間ですよ! 昨日の夜は『すきやき』でした、部長の木乃若芽です!」


「おっ、おはよう、ございますっ! すきやきを、つくりました! 霧衣にございますっ」


「アーかわいい」



 オープニングの撮影場所となったのは、昨晩車両ハイベース号を停めさせてもらった首都圏港湾区画の某パーキングエリア。

 車の外に二人ならんで、カメラマンであるモリアキ先生に撮影をお願いして、霧衣ちゃんとオープニングトークを……この企画の概要を、改めて説明する。




一、この企画は『のわめでぃあ』視聴者参加型企画である。


一、無作為にダーツで選出された目的地付近の視聴者の助けを得て、旅程を決めるものとする。


一、視聴者さん一名につき一点まで、提案を承認できるものとする。


一、目的地付近以外の視聴者さんの指示・支援は受けることができない。


一、万が一現地視聴者さんの助けが得られない場合は車中泊となる。




 ざっくりとこんな感じの内容を、きゃいきゃいとかしましく述べていく。このへんはあとで編集のときにでもテロップで入れようと思う。


 一応このレギュレーション、以前の配信で軽くお伝えしてあったわけだが、もちろん挑戦するのは初めてだ。

 正直どう転ぶかはわからないので、そこが少し怖くもある反面……とても楽しみでもあるわけだな。




「それではそういうわけで……さっそくSNSつぶやいたーでですね、救難信号を打診してみようと思います!


『【《color:#0096ff》#わかめ/color】実施中!

 本日の目的地→→→【伊逗半島南部】

 せっかくなら素敵なトコに行ってみたい!

 【名勝】【グルメ】【レジャー】【宿】

 《color:#0096ff》#わかめ/color 付けてリプお願いします!

 現地の視聴者さん、助けてください!』


…………っと。送信ーー……おっけー! さぁ、どうなりますかね! どうかよろしくおねがいします!!」


「わ、わくわく、でございます!」



 観光地も薦めてもらえなければ立ち寄れない。ご当地グルメも薦めてもらえなけらば食べられない。アクティビティだって挑戦できないし、宿だってどうなるかわからない。

 最悪のパターンは白おにぎりで車中泊だ。


 すべては……すべては、おれのフォロワーさんと視聴者さんに懸かっている!



「今日今現在の視聴者のみなさん、頼みましたよ! それでは、『のわめでぃあのせっかくとりっぷ』……スタートです!!」


「わあー(ぱちぱちぱちぱち)」



 あとで編集のときには、派手めのエフェクトとBGMが入るとこだな。タイトルロゴも入れるとしたらここだな。目的地の情報なんかもチラッと入れてみて『果たしてこれらの名物を堪能することはできるのか』とかナレーションしてみてもいいかもしれんな。


 ……などなど演出案をアレコレ考えつつ、オープニング場面の撮影は完了。

 みんなをせかして車に詰め込み、移動中のタイムラプスを押さえるべくフロントへ向けてカメラをセット。

 行き先も、動画の出来も、果たしてどうなるかわからないのだが……だからこそおもしろいのだ、こういうのは。




「はいでは出発しまーす!」


「これ移動中は音入ってないんすよね?」


「入ってないっていうか、入れないつもり。よっぽどおもしろいトークでも拾えたらテロップと一緒に出そうと思うんだけど、どうでしょうって感じで」


「あー……どうでしょうか。把握っす」




 目的地の選定に関しては、さっきのつぶやきの拡散を祈るしかないわけで。

 加えて……まだ現地にさえついていない現在、特に移動中なんかは、ただ車を走らせることしかできないわけで。



 となれば……車内での会話くらいしか、動画に使えそうなネタは無いわけだよ。




「編集するとき映しちゃダメなやつ、ちゃんとカットしてよ?」


「え? ダメなやつ……ラニちゃんのお姿とか?」


「ノワのパンツとか」


「わたし脱がないからね!? われドライバーぞ!!」


「こらノワ前! ちゃんと前見てほら!」


「理不尽じゃないこの扱い!?」



 当然、出演者たちのトークの技量なんかは全く異なるわけだけど……(当人たちにとっては)普通に喋ってるだけなのにあそこまで面白くなるなんで、あのおじさんたちは本当にすごいと思う。

 ヨーさんは本当すごい。同じおじさんとして尊敬する。いや『同じ』とか比べるのもおこがましいが。



「歌でも歌った方がいい? 海とか見えたら」


「さすがに楽曲は権利関係厳しくないっすか? 歌ってどうせ1/6でしょ?」


「そりゃそうよ。……きびしいかー」




 ともあれ、車内はわりとのんびり穏やかなものだ。


 おれもなかなかハイベース号の運転がこなれてきた感じがあるし、ナツメさんも居心地の良い壁面収納を見つけたらしい。

 助手席の霧衣ちゃんはキラキラ顔で行き交う車を眺めており、モリアキとラニのディレクター陣ふたりはセカンドシートでテーブルに向かい、各々おれのつぶやきに対するリアクションを探ってくれている。


 二人のリアクションを窺う限りでは……どうやら、白おむすび車中泊は避けられそうだ。




「あっ、これ良いっすね。都合よく貸切やってるみたいっすよ」


「モリアキ氏モリアキ氏、こっちはどーよ? ロケーション的にも良い感じじゃん?」


「あー良い感じっすね。多少騒がしくしても大丈夫そうですし」


「あとせっかくなら絶叫系も入れたいよね、こんなに寄せてもらってるし。銅貨帯の繁忙期ってヤツだよ」


「…………? あぁ……『よりどりみどり』みたいな感じっすかね」


「よくわかんないけどそんな感じ。ホラホラ、どれがいちばん『ウケる』と思う?」


「先輩どっちかっていうと『高いところ』よりかは『ホラー』系のが弱いんで……コッチなんかどうっすかね?」


「うわなにこれ怖」


「わたしは二人の会話がこわい!!!」




 ……うん。色々と現地視聴者さんが知恵を貸してくれているのは、とってもよくわかった。

 ツアーの行程はディレクター陣に委ねるとして、おれはとりあえず車を走らせることとしよう。


 東越基幹高速道路を浪越方面へと進み……目指すは鎮岡県、沼都ぬまづインターだ。

 そこで高速を降り、あとは南伊逗方面へとバイパスが伸びているはずなので……その途中の道の駅で、ディレクター陣が立てたプランを拝見しようと思う。



 視聴者さんたちも気にしてくれているらしいし……どうやらいろいろと、旅になりそうだな!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る