第341話 ボクがいるから大丈夫
番組の途中ですが…………
――――――――――――――――――――
厄介な事態になったのは確かだけど……しかしこれはこれで、嬉しい誤算というわけだ。
先日のノワの話にあった、戦闘力を追加された新型の敵兵……識別呼称『獣』。
地上での機動性と近距離での白兵戦能力にパラメーターを割り振ったそいつらは、しかし宙を
頭を振りながら立ち上がろうと試みているようだが……その半身は土のような色へと変色し、どうやらボロボロに腐食してしまっているようで。
「っ、よし……当たってる!」
「やっぱ……海の水? には弱いみたいだね、あいつら」
「そうですね。ぼくでもなんとか渡り合えそうで……相性が良かったみたいで、助かります」
「気を抜くでない。まだ敵は健在……数も減っておらぬ」
「……っ、すみません。集中します」
貝殻と白波をイメージした(らしい)白のドレスに身を包んだ、ノワの心強い協力者。太洋の支配者たる純白の美少女(※ただしち◯ち◯がついている)、ミルク・イシェル。
今回が初陣となる
…………話は、ほんの少し前に
順調に撮影を進めていった『せっかくとりっぷ』だったが……さすがにノワを虐めすぎたかなと反省した我々ディレクター陣は、本日最後のスケジュールを『単純に楽しいアクティビティ』に変更することにした。
その内容は……モリアキ氏いわく『若干季節外れ』らしいけど、一人用の小舟で海へと漕ぎ出す『シーカ・ヤック』とかいう移動手段らしい。
ここまでのホラースポットとスリルスポットに可愛らしくおヘソを曲げていたノワも、これにはニッコリ。あっという間に
こんなときに。こんなところで。
一切の遮蔽物がない海上の湾内で、水難事故を避けるためインストラクターさんが常に注視してくれている環境下で。
ボクの【
ボクの(借りたままの)タブレットが『緊急』の着信を告げ……鶴城神宮技研棟から『苗』の反応検知が告げられたのだ。
取り急ぎノワと思念を繋ぎ、モリアキ氏とも言葉を交わし、REINを用いてミルちゃんに相談を持ちかけ……結論として、ミルちゃんに『初陣』を飾ってもらうこととなった。
ノワ以外でも……魔力を備えたミルちゃんなら、ボクの持ち込んだ装備も幾らか役に立つはずだ。
『決して無理をしない』という大前提のもと、ボクとナツメちゃんはひっそりと【門】を開き……ミルちゃんと合流を果たし、『苗』の反応最寄りのアクセスポイントへと転移した。
そして……今現在。
ボクたちはつい先日までお仕事で来ていた、この樹海のような都市――この国の首都だという――にて……強化型敵兵、通称『獣』たちと大立回りを繰り広げているのだ。
……やっぱり、この街にも『種』をばら蒔いていたか。
モタマ様の協力を取り付けておいて……こうして『カクリヨ』を扱えるナツメちゃんを引き入れておいて、本当に良かった。
「我輩の【
「はい。ありがとうございます、ナツメさん」
「いーね。頼りになるし、強いし、トドメとばかりにメチャ可愛い。いやーナツメちゃん最高ー」
「……全く。……その蕩けた顔を、少しは真面目に…………
「まぁね。
人間大の手指を【
三本放った【
殺傷力や破壊力よりは、こうして単純に『動きを止める』ことに特化したこの槍は……まぁ、振りほどけない程度の相手であれば、非常に有効な妨害手段となり得るらしい。
こうして今現在、未だに敵対行動を取れるのは……先程ミルちゃんがぶっ飛ばし、片足を腐食させられている正面の『獣』のみ。
周囲を警戒してくれているナツメちゃんのフォローもあるので、実質的に一対一の場を整えられた形になる。
せっかくミルちゃんが……何やら集中して、大技を試そうとしてくれているのだ。邪魔させるわけにはいかない。
「……【
普段の控えめで優しげな立ち振舞いとは打って変わって、威風堂々たる声色(ただし声そのものは可愛らしい)で紡がれた……
ミルク・イシェルとして紡がれた設定を再現し、その力を自らのものとする……
「【
「「おぉーー!!??」」
ミルちゃんの目の前に現れた魔法陣から、巨大な影が唸りを上げて姿を現す。
大の大人よりも更に大きい……優に三
――――ばぐん、と。
不格好な『獣』の姿を真似た非生物の、その腹から上すべてを、ほんの一口で易々と喰い千切って見せた。
「……えっ? 待って、すっご……どういうこと!? 召喚式!?」
「よもや……
「えーっと……なんというか、ですね…………こっそり練習してたら、
「「?????」」
また『ミルク・イシェル』として設定されていた――本人がそう認識し、『そうありたい』と願っていた――プロフィールや能力が、そっくりそのまま再現されていたことに気づいたらしく。
そこへ来て……ノワの手助けとなることを決めて以降、『水棲生物と心を通わせる』『有事の際は自ら指揮を執る領主』という
「若芽さんなら解ってくれると思うんですけど…………その、『イマジナリーフレンド』っていうか……」
「そ、想像の力で……疑似生命を生み出すなんて……」
「……圧倒的であるな……獅子奮迅の如きよ。まぁ獅子ではなく鮫だが。……
「ふふふ……今度DVD持って遊びに行きますよ」
「……?? ぴー、ぶい、みー……?」
そんな会話を交わしている間も……ボクが縫い止めたままの『獣』たちは、一体また一体とミルちゃんの【近衛兵】に為す術もなく喰い荒らされていく。
落ち着いてよくよく見てみると、空を飛んでいるように見える【近衛兵】の周囲には流水の帯が流れており……つまり実質的には、ミルちゃんがあの巨体の軌道を操っているということなのだろうか。さすがは水魔法使いだ。器用なことをする。
「ぼくも、ラニさんを連れている若芽さんが羨ましくて。ラニさんほど万能じゃないですけど……戦闘時と待機時を使い分けられる【変身】と、進路となる水の帯を自在に操れる【水魔法】、この二つは持たせることが出来ました。自慢の我が子ですよ」
あっなるほどね、【近衛兵】くん自前の魔法なのね。
……本当に、本当に器用なことをする。
緻密な魔法紋様を描かずとも、永ったるい詠唱呪文を諳じなくとも……脳裏に思い描く『想像』の力でもって、自由自在に表現して見せる。
この世界、この時代、この国の人々の底力を……ボクはとても、とても心強く感じていた。
――――――――――――――――――――
「ねーぇ、
「あぁ……構わないよ、『リヴィ』。この世界の神とやらが介入したか、早々に異界に引き込まれたようだが……しかし僅かとはいえ、人目に付いたことだろう」
「んん……? なるべくヒトにバレた方が良い、ってこと?」
「程々に、だね。……限られた情報は考察の余地を生み、未知の現象に際した人々は様々な思いを巡らせるだろう? ……そうすれば、後は我々が関与しなくとも……」
「……
「その通り。……賢い子だね、『リヴィ』は」
「えへへぇー。じゃあさ、ご褒美にあの
「…………くれぐれも、やり過ぎないようにね。『リヴィ』に手を出すような、どうしようもない輩とて……まだまだ利用価値はあるのだから」
「はぁーい! えへへ……楽しみだなぁ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます