第328話 【前夜放送】波瀾万丈人生遊戯
「わ、わかめさま! ふたごが!
「き、きりえちゃんの……きりえちゃんのあかちゃん……(ゴクリ)」
「ノワ起きて。家なしノワちゃん早くルーレット回して。未だに子どもが一人もいないノワ早く次進めて」
「わ、わかってまひゅ! そんなに言わなくてもいいじゃんかぁ!!」
「旦那様さえ見つかってないもんね……かわいそうに」
「憐れまないでもらえますか!? かなり泣きそうなんですけど!!」
『きりえちゃんのあかちゃん……』『あらやだおさかんですこと』『もう車いっぱいじゃん』『【¥10,000】出産祝』『子宝に恵まれないエルフだっているんですよ!!』『臨場感溢れるじゃれ合いてぇてぇ』『子だくさんきりえちゃん解釈一致』『大家族わうわう』『のわちゃんはなんでそんなに残念なの』『きりえちゃんおかあさん!!』
はい、みなさんこんばんわ。本日は
とりあえずは本放送も順調に進み……現在は、いよいよ明日開催される『ジャパンキャンピングカーフェスin東京』のイベント内容・タイムスケジュール等の告知を終え、当日参加メンバーそれぞれの意気込みを公表し終えたところですね。
まぁなんというか、このあたりは一方的なおしらせとなるので、ざっくりばっさりと割愛させていただきましょう。
……そして、今。
「あっ! またあかちゃんが産まれましてございまする!」
「オアア!? えっ、お祝い金!? ちょ、ちょっ……子どもの人数×三万円ってエグ過ぎない!? 子ども何人いるの
「七人目にございまする。霧衣は幸せ者でございまする……えへへ」
「かわいいねぇ。まぁまぁお金くらいいーじゃん。ノワお金だけはあるんだから。家無いのに。お金だけは」
「わーーん! わたしもおうちほしいーー!!」
『なかないで』『わかめちゃんかわいそう』『家なしエルフかわいそう』『ウチにおいで……』『【¥500】ホテル代』『神待ちエルフときいて』『ホームレス女児エルフ……』
車という括りでは当然広いが、かといって部屋として捉えるにはお世辞にも広いとはいえないこの
テーブルの上で完結する遊びであれば、配信にはこのテーブルの上さえ映しておけば問題ない。非常にお手軽に楽しめるし、種類も豊富。ネタ切れの心配も薄いだろう。
というわけで、今回おれたちが挑戦しているのは『人生遊戯』。波瀾万丈な人生をスゴロク形式で疑似体験できる、ロングセラーの定番ゲームだ。
アームとホルダーで固定した
ヘッドフォンを使っている人には、たぶんおれたちの声が左右から聞こえる感じになるので、なかなか面白いことになってると思う。ふひひ。
気になるゲームの進捗具合に関しては……まぁ、うん。おれたちの歓声と悲鳴からなんとなく察していただけるとありがたい。
伴侶に恵まれ、多くの子宝に恵まれ、大きなマイホームでしあわせいっぱいな人生を送る
「『こども、てあて』? 『子ども一人につき、五万円を受け取る』……わ、わ、わっ、わうっ! おかねがいっぱいでございまする!」
「あっ! 念願のオウチだ!! …………うん? ……『欠陥住宅を買わされる。任意の物件をキープできるが、補修費用として売値の百パーセントを追加で支払う』…………お金ならあるし!!(半ギレ)」
なんだか嫌な雲行きだなあ!
お金を得る代わりにそれ以外を失う『試合に買ったが勝負には負けた』みたいな人生を暗示されているみたいで、なんだかとっても気が気でないが!!
だが……なかなか悲惨な人生を送っている自分の(コマの)生涯を憂いていたところ……ふと、どこかこそばゆい空気の揺らぎを、おれの長い耳が捉え。
思わずそちらへと視線を向けると……そこには、にっこりと楽しげに微笑む
「すてきなご主人さまに恵まれて、立派なおうちにも住めて、
「……きりえ、ちゃん」
「若芽様、
「…………ヴゥ、ッ! ぎりえぢゃ……(ずびずび)」
きめた。おれ、この子をぜったいしあわせにする。
こんないい子が悲しい顔をしなくて済むように、ひもじい思いをしなくて済むように……この子の、そしておれたちの平和を脅かすモノは、このおれが全力で取り除いてみせる。
おれをこんなにも慕ってくれるこの子と、いろんな遊びで楽しいひとときを過ごし……そしてそれを視聴者の皆さんにお裾分けさせてもらい、霧衣ちゃんの『かわいい』を摂取してもらえるように。
おれたちの活動が、健やかに続けていけるように。
「キリちゃんゴーーール!! やったね!!」
「わ、わふっ! やりました! やりました、若芽さま!」
「よーしよしよし! いい子だねぇ! ……子だくさんだねぇ」
『【¥10,000】ゴールイン(意味深)おめでとう!』『てぇてぇ』『そのまま夜のゴールインしようぜ』『【¥10,000】のわちゃんこづくりしよ』『きりえちゃん充実しまくりの人生』『俺の子かぁ』『デレデレのわちゃんかわいいねぇ』『うにたそおるやんけ』『うにちゃん……』
多くの視聴者さんたちに見守られ、また祝福され……もはや勝負とかどうでもよくなってきた。というか、こんなに
とにかく……ほぼ真上からテーブルを映すこのアングルであれば、ボードゲーム配信なんかも問題なく披露できることがよくわかった。超人気声優さんが闇のゲームをやってる感じのアングルだな。
ただし、リアルタイムともなればもちろん編集は挟めないので、状況の変化なんかはしっかり声に出してアピールしなければならないだろうが。
「今日はお試しなので……いろいろやってみましょうね。じゃあ次は……こちら! 『誰じゃ彼じゃ』です!!」
「……これはまた面妖な面持ちの……
「――――!!?」
(あっ)(あっ)
思わず呻き声、というか鳴き声をこぼしてしまった
カードをシャッフルしているおれが見つめる先、タブレットに表示されるコメントには『ねこ』『ぬこ』の単語が溢れ始める。
うーん……まぁ、特に秘密にする必要もないか。人語を喋らなければ何も問題ないわけだし。
「んー……バレてしまっては仕方無いですね。ナツメちゃん、こっち。テーブルおいで?」
「――――――(ふいっ)」
不承不承、を気取りながらも……しかしおれの観察眼はごまかせない。この子がカメラやマイクやタブレットに興味津々なのを、おれたちはバッチリお見通しなのだ。
オーバーヘッド部分のミニベッドから軽やかに飛び降り、
……なるほど、やっぱみんなどうぶつ好きなんだな。そうだよな、おれだって好きだもん。
「えー……それでは、ギャラリーのナツメちゃんも交えて、『誰じゃ彼じゃ』をやってみようと思います! えっとまず、このゲームはですね……」
伝えるべき告知もちゃんと伝えたし、いろんなボードゲームを一緒に堪能したし、新メンバー(?)ナツメちゃんの紹介も(一方的に)したし……そして、回線強度の試験も無事に済ませることができた。
二十三時を少し回った頃に、だいたい予定通りにクロージングも済ませ……一月二十四日の『生わかめ』は惜しまれながら、つつがなく終了のときを迎えた。
大都会東京の湾岸地区某所、夜景のすてきなパーキングエリアにて……おれたちは確かな手応えを感じていたのだった。
……明日も早いぞ。
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