第327話 【前夜放送】無線環境テスト



 いやぁ、不思議ですね。

 東京から引き返して、崇覇湖すわこに寄り道して、三納みの加模かもサービスエリアに車を置いて一時帰宅したのが、まるで昨日のことのように感じられますが……


 なんと本日、一月二十四日の金曜日。ただいまのお時間は二十時というわけでですね。

 そう……二十五日と二十六日、土日で行われるキャンピングカーフェスの前夜にして、われらが『のわめでぃあ』定例生放送の時間が近づいているわけですね!




「……はい、みなさんこんばんわ。魔法情報局『のわめでぃあ』が、二十時をお知らせします。…………んー、っと……げんざい、てすと、ほうそう、ちゅー、です。……えへへ、テストなんですよ。びっくりしました? ごめんなさいね」


「大丈夫そうかな? ノワ、ちょっと軽く踊ってみて。映像のラグ見てみたい」


「んウー!? お、踊るって……で!? ちょっと無理がありゃしませんか!?」


「アッ、おっけー。ラグもほとんど無さそうだね。大丈夫そうだよ」


「な、なんか解せぬ! 釈然としないですが!」




 明日は朝九時前に東京入りしなきゃならないので、起きてから出発したのでは間に合わない。おれたちだけで飛んでいくならまだしも、当日はこのハイベースも会場入りさせる必要がある。

 なんでも、この車がそのままおれたちの控え室となるようで。会場で展示される兄弟車両の並びに入れて、実機として外装バリエーションのアピールに使うほか……当日は小型カメラゴップロ片手にリアルタイムでライブ配信を行い、その際のスタジオとして居住性の高さをアピールする作戦らしい。


 あぁもちろん、控え室としておれたちが休憩するにあたって、一般のお客さんはハイベース号の中に入れないようにしてくれるらしいので……おれたちもあんしんだ。



 まぁ、つまりですね。イベントにはハイベース共々会場入りする必要があって、もちろん朝の三時とかにおうちを出れば良いんでしょうけど、やっぱり安心安定の前日入りを狙いたくてですね。寝坊とかしたらやばいし。

 でもそうなると、金曜夜の定例配信がネックになってきまして……定例配信が終わってから車を走らせるとなると、それこそ夜通し走り続ける必要があったりで、それはちょっと疲れそうなので。



 そこで、おれたち思い付きました。


 どうせ当日、ライブ配信のスタジオとして使うなら。


 前日金曜日の『のわめでぃあ』定例配信も、からお送りしてしまえばいいじゃないか……と!





「本放送は、このあと午後九時……二十一時、いつもの時間からお送りします。……ご覧いただいてわかるかもしれませんが、本日はちょっと趣向を変えてですね、カメラ近めでお送りしますよー。現在テスト放送中、現在テスト放送中。こちらはインターネット放送局『のわめでぃあ』です。……なんちゃって。えへへ」


「は? かわいいが? 何なのノワ誘ってるの? テストついでに雑談タイムいっとく?」


「べつに誘ってな……あー、いいかもですね。ちょっと今回、こういう体制なので。みなさんからのコメント、タブレットに流れてるので……タブ見ながらでごめんなさいね、決してSNSつぶやいたー中毒じゃないですからね」



 事前に告知してあった予定には無かったテスト放送だが……おれのチャンネルの配信開始通知を設定してくれている視聴者さんが、いち早く駆けつけて情報を拡散してくれたようだ。

 視聴者数も徐々に徐々に増えていき、タブレット上のコメントも少しずつ流れる速度が上がっている。


 本来ならば十分そこら回線強度と送受信速度をテストしてみて、早々に切り上げようかとも思ったのだが……どうやら喜んでくれているらしい視聴者さんに『ばいばい』するのも、それはなんかもったいない気がする。どうせ数十分後にはまた『ヘィリィこんにちは』するんだし、じゃあ繋ぎっぱなしでもいいかなって。



 というわけで、せっかくなのでラニの提案に乗っかり、一問一答形式での雑談枠を設けてみよう。

 いつもの『放送中』スタイルのようにキチッとシャキッとキメた『わたし』とはひと味違った……ユルくてラフい雰囲気の、いろいろと『距離が近い』雑談枠。たまにはこういうのも良いだろう。よーしおじさんカメラ回っててもお茶飲んじゃうぞー。



「『きりえちゃんはいないの?』……ん、大丈夫。ちゃんといますよ。テスト放送はわたし一人……とラニちゃんで、霧衣きりえちゃんは本番に備えて待機してもらってるですね。やほー霧衣きりえちゃん」


「わ、わほー……!」


「は? かわいいが」「すきだが?」


「き、恐縮でございまする……」


「んふふふ。じゃあ次ー……『東京に来てたって本当?』えっとですねー、これは……言って大丈夫?」


「普通に大丈夫じゃん? フェーズⅢまで」


「おっけー。えっとですねー、じつは……ミルさんと、うにさん。先日のコラボ以降、ありがたいことに仲良くさせて貰っててですね……えへへー。……そうそう、『にじキャラ』さんの。Sea’sシーズ】さんですよ! なんとデートに誘ってもらいまして!」


「かわいかったよねぇ、二人とも」


「うん……めっちゃてぇてぇの。それでですね…………まだ具体的には明かせませんが、近々ちょっとした……ここは言ってもいいのか。コラボをですね、予定してましてですね!」


「そのための仕込みと打ち合わせと、ハイベース号の試験走行も兼ねて、だよね?」


「そうそう! みなさん見てくれました? われらがスポンサー『三納オートサービス』さん提供によるハイベース号の紹介動画をですね、投稿していましてですね! ……そう、そうです! 霧衣きりえちゃんかわいいのやつです!」


「わ、わうぅ!?」


「そしてなんと、その『三納オートサービス』さんも出展する『ジャパンキャンピングカーフェスin東京』がですね! 東京臨海展示場ビッグボックスにて、いよいよ明日開催されるんですよ!」


「ねぇノワ、それ本放送で話す内容だからね?」


「アッ!!!!」





 ま、まぁ……なにはともあれ。

 途中読み込みで止まったりブツ切れになったりすることもなく、放送そのものは問題なく行えているようだ。

 カメラの死角である反転こっちむき助手席シートに座って、自前のタブレットで配信を見てくれている霧衣きりえちゃんも、特に問題無さそうだと太鼓判を押してくれた。


 ごきげん光回線が引かれたいつもの自宅拠点ではなく、出先での無線回線での配信なので、正直回線強度に不安はあったのだが……これは今後も、ハイベースからの生配信に大いに期待が持てそうだ。



 というわけで、その後はもう三十分ほど突発雑談枠を設けて……名残惜しまれながら四十五分頃にカメラとマイクの入力信号を切り、配信待機画面を表示させる。このまま二十一時からの本放送に備える形だ。

 運転席で配信管理用のPCに向かっていたモリアキからもオッケーサインが出たので、今のうちにほんの数分だが休憩を取ることにする。お茶を飲んだり、小腹を満たしたり、おしっこを出したり……準備は万端だ。




 屋外活動拠点ハイベースからお送りする、記念すべき第一回目の『のわめでぃあ』定期活動報告配信。


 その幕が今……ついに上がるのだ。



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