第326話 【復路騒動】到着そして一時帰宅



さいしょから【門】使えばよくね?


……とか言わない。おれとの約束だ。



――――――――――――――――――――




 思ってもみなかった寄り道だったが……思ってもみなかった幸運(神為的じんいてき)に恵まれ、おれたちは思っていた以上の『動画映えネタ』を獲得することができた。

 隆起する瞬間を捉えた映像なんて、よほどの幸運がなければ捉えることは不可能だろう。そもそもあんな時間に突然隆起が始まるなんて、かなり珍しいことなのだと思う。

 ……本当すみませんヤサカさま。フツノさまが御迷惑お掛けしました。また今度個人的にお礼に来ます。


 自由行動中は気ままに散策していたらしいなつめさんも、言いつけどおりきちんと戻ってきてくれていた。ミルさんはミルさんで地域限定マグカップを確保できたみたいで、ほくほく顔だ。かわいいね。


 そんなこんなで、だかも上々。テイクアウトフードもばっちりおいしく(一部だけ)頂いて映像もおさえ、満足のいく収穫が得られたおれたちは、全員揃って予定通りの時間に崇覇湖すわこサービスエリアを出発した。



 それからは、至って順調に行程を走破していった。丘屋おかやジャンクションで浪越なみこし方向へと折れ、未だ空気を震わせている崇覇湖すわこへと別れを告げる。

 何処か遠く背後の方角で、あからさまに『ほっ』とした雰囲気を感じたのは……たぶんだけど、気のせいじゃないと思う。




「そういえばフツノさまは……その、刀? に憑いてれば外へに出られるの?」


然程さほどの自由は無いな。もって模造格とは云え『神器』の一片ひとひらよ。龍影リョウエイめに勘付かれずに持ち出すは至難の技よな』


「ちょエ!?!?」


『『神域』の展開が叶うは、鶴城ツルギの敷地のみよ。鳥居から外へ出ずればヒトの子の街よな。武士もののふの死に絶えた時分にこんなものを持ち歩けば、たちまち警邏が飛んで来よう』


「ま、待って! 内緒で持ち出したの!? リョウエイさんたちに秘密でのお出掛けなの!?」


呵ッ々カッカ! 高々たかだか分体の一つよ、鶴城の役を果たすには何一つ支障は在るまいて』


『――――奔放にゃ……なのだな。鶴城ツルギの神は』


「ちょっとぼくもびっくりしてますよ」


「オレだって理解の範疇外っすよ」


「わっ、わたくしは大丈夫にございます!」



 運転中ゆえ背後を振り向くわけにはいかないけれど……ラニちゃんが自慢ドヤ顔でふんぞり返ってるのが目に浮かぶようだ。


 この世界この時代にはあり得ない、空間魔法の使い手と意気投合したフツノさま。楽しそうで何よりですが、お散歩はほどほどにしていただけたらなぁって。……無理な気がするなぁ。



 静かに景色を眺めている限りは、目付きの鋭い美少年であるフツノさま……そんな神様の横顔をチラチラと伺いながら(もちろん安全運転で)車を走らせることしばし。

 やがて車は浪越環状高速道路へと流入し……急遽予定変更された目的地へと到着が近づいたことを、陽の傾きと共に告げられる。



 ちょっと迷惑行為に片足を突っ込むかもしれないけれど……きょうはこの先の三納加模みのかもサービスエリアに移動拠点ハイベースを設置し、ラニちゃんの【門】で強行帰宅をさせていただく作戦である。

 明日の朝は自宅からこの車内へと【門】で転移し、三納オートサービスさんのところへ向かうわけだな。そのときはさすがにフツノさま(分体)やミルさんは同行しないので、ここでお別れする形となる。




「……はい、到着です。おつかれさまでした、皆さん」


「「「「お疲れさまでした」」」」


有無ウム。御苦労であった』



 道中の寄り道のせいもあって、三納加模みのかもサービスエリアに到着する頃には既にどっぷりと陽が暮れてしまっていた。

 フードコートなんかはまだもちろん開いているだろうが……そんなにのんびりしていては、それこそ帰宅は夜遅くになってしまう。各々ばんごはんはおうちで済ませることにして、いよいよ帰宅の儀を執り行う運びとなった。



 まず妙にスッキリした笑顔のフツノさま(分体)を鶴城つるぎ神宮の畳の間へとお返しし、つぎにミルさんを港区の自宅マンションへとお送りする。

 二人とも今回の出張にはなんだかんだ満足してくれたようで、特にミルさんには満面の笑顔でお礼を言われてしまった。かわいいが。

 フツノさまは……うん。リョウエイさんにたっぷり絞られて下さい。



 そうしてこうして……残るはおれたちだ。

 大活躍のハイベース三納加模みのかもサービスエリア駐車場の隅っこへと置かせて貰ったまま、まずはその車内に【座標指針マーカー】をセット。コンティニューポイントをしっかり確保した上で、岩波市山中のお屋敷へと向かい【門】を開いてもらう。


 一瞬の暗転の後、おれたちの足元はタイル調のアプローチへと様相を変え……目の前には大きな大きなおうちと、メイド服姿の天狗半面美少女が、一礼と共に出迎えてくれる。



「ただいま、天繰テグリさん」


「……御帰りなさいませ、御屋形様。……おや? ……これはこれは……珍しいお客様で」


『――――これは……驚いた。……さぞにゃの在る御方と御見受けする。……我輩は囘珠マワタマ百霊モタマ様より仰せつかり、暫しの間こちらへ厄介とにゃる……名を八海山ヤツミヤマナツメと申す』


「……これは……ご丁寧に。手前は姓を狩野カノ、名を天繰テグリ。御縁在りて此方こちらの館の管理全般……等々などなどを請け負って居ります、天つ走狗の一翼に御座います」



 なつめさんと天繰テグリさんは、どうやらうまくやってくれそうだ。お互いに敬意をもって接してくれているので、見ていてとても安心感があるな。



 ……というわけで、自宅へ帰ってきて一段落ついたおれたち一行だが……これから色々と準備しなければならないので、ちょっとばかし忙しくなる。


 おれは作業部屋でPCに向かい、崇覇湖すわこサービスエリアの映像を吸出して編集準備をしなければならない。

 せっかく『御神渡り』なんていうレア現象が(フツノさまのお陰で)撮れたのだ、旬を逃すわけにはいかない。おれが手ずから編集を施し、今日明日中には公開したいものだ。


 モリアキとラニは、毎度便利に使ってしまって申し訳ないが、買い出し係だ。

 行き先はいつものシオンモール浪越南、主として晩御飯……なつめさんの歓迎会を開催するにあたってのお総菜の類いと、他でもないなつめさんの寝床ベッドとかおトイレとか、あとおもちゃやフードやおやつ等々。

 モタマさまいわく『ふつうの猫ちゃんと同じように可愛がってあげて』とのことだったので……もしかすると失礼かもしれないが、猫可愛がりさせてもらおうと思う。


 そしてそして、本日の主賓であるなつめさんは……霧衣きりえちゃんと天繰テグリさんに、おうちの中とお庭の一部を案内してもらう作戦だ。

 家事全般担当の霧衣きりえちゃんと敷地内警備保全担当の天繰テグリさんがいれば、抜かりなく案内してくれることだろう。

 ラニたちの帰還を感知したら戻ってきてくれるとのことなので、安心である。天繰テグリさんぱねぇっす。




 以上、ばたばたと慌ただしくも夜は更けていく。やることはいっぱい、それでいて明日は大切な打ち合わせ、そのあと週末にはビッグイベントが待っているのだ。

 忙しいのは確かだけど……しかしそれでも確かに『楽しい』のだから止められない。止められるわけがない。


 新メンバーを迎え、さらに賑やかに慌ただしくなっていく『のわめでぃあ』。

 わたしたちの今後の活動を……どうぞ皆様、お見のがしなく!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る