第320話 【追加演目】専門スタッフの派遣要請



 鶴城神宮や囘珠宮の敷地内を警備する『まわかた』や、でのお勤めを果たしている神使の方々……彼ら彼女らは通常、それぞれの持ち場である敷地から外へ出ることができない。

 彼ら彼女らが超常の力を行使できるのは、ほかならぬ主神との縁を繋ぎ、その力を借り受けているからに他ならないからだ。


 神様の力が及ぶのは、せいぜい敷地内……神域結界の影響範囲に限られる。

 そこから外に出てしまうと、神様から神力を届けるための『パス』が切れてしまうのだという。



 かつて霧衣きりえちゃんが、依代シロとしてのお役目を務めるために『鶴城つるぎ神宮』から外へと飛び出し、フツノさまからのパスが失われたように。

 あくまでもへ適応してしまうというだけで、直ちに命が脅かされるわけでは無いとはいえ……神力のパスが切れてしまっては、業務に支障が生じてしまう。


 廻り方の纏め役である神使ネチコヤン、ナツメちゃんを手放すことは……囘珠宮まわたまのみやとしても、モタマさまとしても、さすがに許容できるものではないのだろう。




 しかしそんな折、今まで沈黙していたラニちゃんが声を上げた。

 しかもその口ぶりはまるで……敷地から出た神使でも、主神とのパスを失わずに済むかのような言い口だったのだが。



「セイセツさんに色々と協力してもらってね。キリちゃんとフツノさまのパスが切れたときの現象を、ボクなりに分析してみたんだけどさ? ……要するに『フツノさまの魔力を遠隔で送ることができれば、パスが切れない』わけじゃん?」


「そん…………そう、なの?」


「「「さぁ……」」」


「まぁ実際、そうだったんだよね。セイセツさんの紙人形で実験してみたんだけど、紙人形にその『フツノさまの魔力を受信する仕掛け』を施して、鶴城ツルギ神宮の外に放り出してみたところ……ちゃんと動いたんだよ。鶴城ツルギさんの外でも」


「まじで!? ラニちゃんそんな実験やってたの! すごいねぇーえらいねぇー!」


呵々々カカカ! 中々に興味深い見世物であったぞ! 居合わせた市井の子らも大層驚いて居ったわ!』


「ちょっと!? バレちゃったの!!?」


呵ッ々ッ々カッカッカ!!』「わっはっは!」




 えっと、つまり……ラニちゃんの宣伝文句を信じるのなら、そのラニちゃん特製の仕掛けさえあれば、神使の方々が敷地外でも――神様の神力の届く範囲外でも――パスが切れることなく活動できる、ということで。

 それはつまり……神使の方々にとっては、これまで出ることが叶わなかった敷地外を見聞する好機チャンスが舞い込んできた、というわけで。



『まァ、当然『全盛の状態』とは行かぬがな。神域と同じ様に立振舞える訳でも無い。神域外での荒事は……業腹だが、相変わらず此奴こやつに任せる他無い訳だが』


「なるほどねぇ。その悪鬼を退治するのは、ちょっと不安だけど……【隔世かくりよ】のを行うくらいなら問題ない、ってことなのね?」


『然り。……荒事の際に【隔世カクリヨ】へと引きずり込むことが叶えば、此奴こやつの負担も減らせよう』


「…………本当に……本当に、私となつめちゃんの『縁』は切れないのね?」


『百霊様!?』


「恐らくは、ね。……セイセツさんの紙人形は帰還後もパス繋がってたし、何度試しても問題は見られなかった。……けど、実際にシンシの方々で試したことは無いから……」


『万が一、と云う事態コトは……有り得ぬとは言い切れぬな。……まァその『万が一』が生ずれば、ワレの眼が曇ったと云うことだ。責任を以て『出雲』へと掛け合おう』


「……布都ふつのちゃんが言うなら……私は、良いわ。なつめちゃんはどう? 、興味あるんでしょう?」


『――――吾輩、は……』




 黄金色に輝く瞳を大きく見開き、その中に仄かな困惑と……ほんの微かに期待の『気配』を乗せて。

 しっとりふわふわの錆色の毛並みの、巡回警邏に並々ならぬ情熱を注ぐ――外界とそこに暮らす人々に並々ならぬ関心を寄せる――真面目でプライドが高い、錆猫の上級神使は。





「…………うん。じゃあ……ってことで、やってみましょうか。


われに連なる与力よりきが一柱、銘を八海山やつみやまなつめ其方そなたわれ鼎恵かなえ百珠もたま世廻よぐりのみこと』の名に於いて、此処なあきはしら木乃きの若芽わかめ』のもとへ…………えーっと、しばらくの間? えにしうつす……のを試してみることとする】っと」


! 何だその契約条詞は。ヨミに知れたら愉快な事態コトに成りそうだな』


「ここにいる子たちが告げ口しなきゃバレないわ。よみちゃんの常世視とこよみだって、さすがに『音』は拾えないもの。…………そういうわけで、なつめちゃん。お母さんからの『命令おねがい』です。……いい?」




『――――御意に』





 歯を剥いて心から愉快そうに笑う神様と、慈愛に満ちた暖かみのある笑みを浮かべる神様に見守られ。


 多分に実験的な要素を含む、前代未聞の『はじめてのおつかい』作戦へと……二柱の神様による完全バックアップ(技術提供:のわめでぃあ)のもと、満を持して挑むこととなった。




 おれたちの仲間に、神使ネチコヤンが加わるかどうかの瀬戸際なのだ。

 頼むぞラニちゃん、信じてるぞラニちゃん。きみならできる。むしろできなかったら覚悟しなさいよ。でんぷんのりの刑が待ってるぞ。


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