第319話 【追加演目】業務引き継ぎの相談



「ごめんなさい、だらしないところ見せちゃって……」


呵ッ々カッカ!! 良い土産話に成ったではないか! 大神のヘソを拝んだヒトの子なぞう居るまいよ』


「もぉ、布都ふつのちゃん。……ごめんなさいね、せっかく来てくれたのに失礼な格好を……」


「「「いえいえいえ……!!」」」


「まぁ実際オレ見れてないたァ!!」




 ほんわかした穏やかな笑みを浮かべ、目の前でお上品にほほえむ、神官のような特徴的な衣服に身を包んだ女性。

 ……いや、なんていうか……もう色々とツッコミどころ満載なんですけど……とりあえず、こちらの『少女』にしか見えないお方こそ、この『囘珠宮まわたまのみや』の主であるモタマさまそのひとであるらしい。

 正式なお名前は『鼎恵かなえ百霊もたま世廻よぐりのみこと』。大願成就や商売繁盛や五穀豊穣などなど……恵みをもたらす系のご利益があるといわれている、万人に人気の神様だ。



 神様という存在の実力と横柄さを身をもって経験していたおれは、てっきりこちらの神様もそういう感じかと半ば諦めの姿勢だったのだが……急遽お目通しが叶ったモタマさまは、とても穏やかで優しげなお方だった。

 金鶏キンケイさんのセールストークも、あれ本当のことだったんだな。ほんの少しお言葉を頂戴した限りだが……なるほど確かに、半端ない包容力を感じてしまう。……見た目は霧衣きりえちゃんくらいの少女なのに。




「……百霊モタマ様は、普段は『神域』深層にて、我らの身を案じて下さっております。こちらのような幾柱もの写身うつしみに別れ、首都圏各地の結界起点を守り、人知れず我らの生活をお守り下さって居られるのです」


「う……写身うつしみ、なんですか?」


「ぇえ……この密度で……?」


写身うつしみが増えれば、本神ほんにんへの負担も増える。其故それゆえ百霊こやつは神界へと引籠り、情報収集や指示の殆どを『勾玉』で行っている訳だ。ワレソレを借りられれば……声だけ届けば、事は足りたのだがな』



 な、なるほど。普段はこの世に身体をもっていないから、姿を現したときには『すっぽんぽん』だった、と。

 普段であれば声のやり取りのみでコトは足りるし、わざわざこの世向けに身体を構築する必要もない。今回もそのつもりでフツノさまや金鶏キンケイさんは『勾玉』での通話を試みたが、盛り上がったモタマさまが(てっきり身内と友人だけの場かと思い)姿を現してみれば……おれたちがいた、と。


 そこであわてて――正式な場よりは幾分ラフな格好だとはいえ――お召し物を繕い……『変なもの見せちゃって、ごめんなさいね』などとしょんぼりしているわけだ。


 ちょっとかわいすぎやしませんか、囘珠まわたまの神様。ちょっとお近づきになりたくなってきたのですが、やっぱ入信……あの、えっと、すみませんフツノさまその目をやめていただけますか口は笑ってても目は笑ってないですごめんなさい大丈夫ですわたしはこれからも浪越の民です。信じていただけますか。ありがとうございます。ありがとうございます。フツノさまは寛大で寛容で頼りになる偉大な神様です。



「だ、だってぇ! 布都ふつのちゃんが囘珠うちに来るなんて珍しいし…………なのかなぁ、って」


呵ッ々カッカ! 相変わらず察しが良いヤツよな、話が早い。……飛びきりの『土産話』を持って来たぞ、百霊モタマ……いや、大神『鼎恵カナエ百霊モタマ世廻ヨグリノミコト』よ。面白い話と……面白くない話だ』


「あらあら。それじゃあ……面白くないほうから聞かせてもらえるかしら?」




 そう言うと……この国において屈指の信仰を集める、二柱の神様は。


 方や『にやにや』、方や『にこにこ』と……それぞれの神性がよくわかる表情で、おれへと視線を寄越したのだった。










呵ァッ々ッ々カァッカッカ!! 『龍をしたが夢幻ゆめまぼろしチカラの源とする童女わらはめ』と来たか!! 何処かで見覚えのある話よなぁ大神よ! コレは傑作も傑作、御誂おあつらえ向きと云わざるを得まいて!!』


「えっ!? これじゃない!? えっと、あの……フツノさま!? 『おもしろくないほう』って『魔王』ネタじゃないの!!?」


『くくっ……いや、合っておるよ。……っ、く呵々々カカカ! あの『王』を名乗りし不届き者め、姿を眩ませたかと思えば……ワレもとを離れ、斯様かように愉快な事態コトを企てて居ったとは!』


「……えっと、その……意外でした。てっきりフツノさまは……あの『魔王』たちの動向、全部把握できちゃってるのかな、って」


呵ッ々ッ々カッカッカ! 知らぬ知らぬ! ワレとて所詮しょせんは『浪越』の神よ! 神々視カガミの『闚魔のぞきま』でも在るまいに、他神タニンの治界すべてをる事など出来ようか!』




 そういえば……あたりまえだが、神社にはそれぞれ祀られている神様がいる。

 鶴城つるぎ神宮のようにフツノさまを……『佐比さび布都ふつの天禍尊あまがつのみこと』を祀っている神社もあれば、この囘珠宮まわたまのみやの『鼎恵かなえ百霊もたま世廻よぐりのみこと』のような神様をお祀りしている神社も、当然あるわけだ。

 なんていったって……そこは日本、八百万やおよろずの神々が住まう国である。日本全国津々浦々、その土地土地に根差した神様の治める領地は、さすがにその神様たちのものだ。


 以前聞かせてもらった限りでは、神様は基本的に『自前の神社の敷地から(本体は)出ることができない』らしいので、つまり『ご自身が治めている領地の外では、振るえる力が限られる』のだと予測できる。

 よその神様の領地の中を覗き見たり、よその土地で暴れたり……なんかは出来ないわけだ。



「うふふ。私達ってねぇ、いうほど全知全能じゃないのよねぇ。……そりゃあ、私は治める土地と影響力は大きいほうだけど……数多の神々のひと柱でしか無いわけだし」


呵々カカ! 佳く云うわ『大神』めが。貴様一柱で何柱分の務めを果たして居る。……呑気に無駄話に興じる余裕なぞ在るのか? 早々に切り上げ、『微睡観マドロミ』に移るべきでは無いのか?』


「やぁよ。せっかく金鶏きんけいちゃんがお茶会開いてくれたんだもの。私だって混ざりたいし……『面白い話』まだ聞いてないもの」


「えっ!? あの、でもまだ『魔王』の……面白くない話のほうが……」


布都ふつのちゃんが応援してるんでしょう? なら私ももちろん協力するわ。何でも言って頂戴な。金鶏きんけいちゃん、お願いね」


「は、はいっ! 承知致しました!」



 げに凄まじきは、圧倒的な『コネ』のちから。モタマさまと旧知の間柄であるフツノさまのお陰で、囘珠宮まわたまのみやの協力を取り付けることに……ほんの数分で成功してしまった。

 今後この東京で『苗』の被害があった際は、この囘珠宮まわたまのみやがおれたちのフォローを請け負ってくれるらしい。

 具体的には……隠蔽工作や、報道規制や、超法規的措置などなど。


 率直にいって……あのテのワイドショーのコメンテーターには辟易していたので、そのあたりもフォローしてくれるというのならとてもありがたい。



『後は……くだんの『龍モドキ』だがな。……百霊モタマよ、貴様のもとで【隔世カクリヨ】の代演が叶うモノは?』


「んーっと……金鶏きんけいちゃんと、なつめちゃんと、若竹わかたけちゃんと、おおとりちゃんと……あと末広すえひろちゃんと蓬莱ほうらいちゃんね」


鶴城ツルギに於いては、ワレを除けば龍影リョウエイしか居らぬ。ゆえに、恥を偲んで問おう。……の者らの中で『囘珠マワタマ』の運営に直接絡んで居ない者は?』


「んー…………なつめちゃんね」


『!!?』


『……単刀直入に問おう。の者を、此処な『あきつ柱』へと預ける心算つもりは?』


「うぅん…………力を貸してあげたいのは山々なんだけど……この子とが切れちゃうのは、ねぇ」






「……っとお困りの、そこの神様あなた!!」


「えっ?」『呵々カカ!』


「そのお悩み……この【天幻】の万能アシスタントが、解決してみせます!」




 ………………えっ!!?


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