第321話 【追加演目】これで『龍』も怖くない



『――――正直……半信半疑だったのだがな』


呵ッ々カッカ! 無理も在るまい。此迄これまでに成し得た者など居るまいだろうし、な』


「わっはっは!! これぞ【天幻】の勇者の実力よ!!」


「す、すごいよラニ! 見直した! 本当にやっちゃうとは……!」




 結論から申しますとですね……ご覧の通り、実験は無事成功したわけでございます。



 ラニとセイセツさんが試作していた、くだんの『神使用神力遠隔受信デバイス』とでも表現すべきだろうステキアイテム。それは幾重にも編まれた紅白の紐に、白木の木片と水晶のような石があしらわれた……えっと、身近なもので例えるのならば『ペット用の首輪』だった。

 思わず『それでいいの!?』という視線を送ったおれとモリアキとミルさんの現代日本人三人組に対し……この世界と異世界のファンタジーの民一同は『何か問題でも?』と言わんばかりだった。

 えーっと、あの…………ハイ。なんでもありません。


 しかしながらその見た目に反して……肝心の効果のほうは、ばっちりしっかり狙い通りだった。ひと安心だ。

 気になるその使用方法だが、先ず装着者へと神力をもたらしている神様(今回のナツメちゃんでいうところのモタマさま)に手に取っていただき、神力を注いでいただくことで……なんか波長とか色とかパターンとか、そういう感じのものを首輪に記憶させるらしい。ブルートゥースのペアリング作業みたいだな。

 しかるのちに、ペアリングを完了させた首輪を対象者……外界で活動したい神使へと装着するだけで、準備完了。あとはペアリング登録された神力に効力を限定した【門】の派生魔法を経由し、モタマさまの神力が送られ続けるのだという。



 注意点としては……フツノさまからの説明でもあったように、装着者が外界へ出ても十全の実力を発揮することは出来ない。

 これは主神から送られてくる神力のうち一定の割合を、例の【門】の派生魔法で浪費してしまっているからだという。神使の位なんかの個体差にもよるが、外界活動時の……まぁなんだ、パラメータとかステータスとでも評する値は、通常時の二割から三割程度にまで低下しているのだという。

 しかしその一方で、神様の負担を(ペアリング作業を除き)特に増やすこともなく、また神使本人の神力を食い潰すこと無く、半永久的な動作を確立することができたのだ。……これは快挙と言えるだろう。


 また……残念な点としては、ラニちゃん秘蔵の異世界産鉱物素材を使用しているため、生産・供給数には限りがあるだろうということ。

 同等の『魔力の性質を記憶する』『魔法式を記録する』効果を持つ素材でも見つかれば話は別、とのことだけど……神秘の薄れたこの世界において、それはあまりにも難易度が高いと言わざると得ないだろう。



 まぁそんなこんなで、懸念事項や改善箇所も幾つかあるものの……当初の目的であった『外界での活動』そのものは無事に果たされたわけで。




「あの……じゃあ、改めて。……わたしたちに、協力して……仲間になって、もらえますか? なつめさん」


『――――ふん。……勘違いするでにゃ……ないぞ。……だが百霊モタマ様の御命令と有らば無下にもできぬゆえ、仕方にゃく……仕方なく! ……貴様らの力になってやろう』


「「「ウ゛ォォォォォォ!!!」」」


『(ビクゥッ!!)』



 おひげをぴくぴくと動かしながら『ふいっ』とそっぽを向き、激シブのバリトンボイスでそんな可愛らしいセリフを吐く錆猫の神使。

 その可愛らしすぎる姿に、その美しい毛並みに、その自信満々な態度に……おれたち現代日本人三人組は盛大に雄叫びを上げ、叫び声こそ上げずともラニちゃんは満面の笑みを浮かべ、元わうわう系神使の霧衣きりえちゃんも新たな仲間かぞくの出現に嬉しそうな笑顔を浮かべている。


 神様と、一部の神使が扱える【隔世カクリヨ】の術、それの使い手を仲間に引き入れることが出来るのなら、心強いことこの上ない。

 昨晩の中で『龍』との試験に臨んだときだって……周辺への被害を防ぐことを念頭に置いた立ち回りを、終始余儀なくされていたのだ。

 昨年末の神宮東門駅前での、フツノさまの大暴れっぷりを思い起こす限り……【隔世カクリヨ】による助けさえあれば、攻撃面でも防御面でも好きなように動くことができる。

 効率の悪すぎる奥の手に……【『創造録ゲネシス』】による【勇者召喚】に頼る必要も、無くなるのだ。





『さて……義理は果たせた、と思うて良いな? 『天幻』の小娘め』


「何一つとして不満は無いよ。心からの感謝を、偉大なるツルギの神よ」


「え、ちょ……ふ、フツノ、さま……?」


呵ッ々カッカ! ァに……例の『首輪』を一つ工面する代わりに、な。……七面倒な悪鬼共を相手取るならば、【隔世カクリヨ】は在って困るモノでもあるまい』


『――――身柄を引き渡される吾輩としては、誠に複雑な心境にゃの……なのだが』


「……もう、なつめちゃん……機嫌なおしなさいな。……ねぇ若芽わかめちゃん、この子ささみが好物なんだけど」


「キロで買って帰ります!!! カ○ガンもアーテ○スも、あとち○ーるもいっぱい買って帰ります!!」



 自分のスキルをうまく活用して、おれの手助けをしてくれるばかりでなく……フツノさまの協力を取り付けてくれていただなんて。

 本当にラニには頭が上がらないし……ご縁を繋いでくれた神様がフツノさまで、本当によかったと思う。


 フツノさまは寛大で、寛容で……とっても頼りになる、偉大な神様です。






『…………さて! 『面白く無い話』はもう良かろう! ……さァ百霊モタマよ、待ちに待った『面白い話』と洒落込もうではないか!』


「でも布都ふつのちゃん、わりかしいっつも『面白い』とか『愉快だ』とか言ってるから……」


『んぐっ。…………まぁ、その…………有無ウム。……しかし、此奴こやつの演目は中々に見物みものだぞ! 百霊モタマよ、貴様は『きゃすたー』と呼ばれる演者を知って居るか?』


配信者キャスター? うーん、えぇーっと……まぁ、それなりに?」


『えっ』


金鶏きんけいちゃんとおおとりちゃんにね、教えてもらったの。『いんたーねっと』とか『ゆーすくりーん』とかを使った『てれび』みたいなやつでしょ? この前も囘珠うちで『さつえい』してる人がいる、ってもみちゃんたちが騒いでて…………布都ふつのちゃん? どうしたの?」


『…………………い、いや……』






 えーっと、うん。さすが大都会東京を見守るモタマさまは……つよかった。


 フツノさまのあんな、しょんぼりしてる顔……初めて見たわ。


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