第292話 【第二関門】では、こんな感じで



 改めて……軽く探知魔法を使ってみたり、指向性を持たせて聴覚感度を強化してみたりと情報収集を試みた結果……やっぱりというかなんというか、この会議室の外は結構な騒ぎになっているようだ。

 その騒ぎの内訳としては、実在ロリエルフ配信者キャスターであるおれわかめちゃんの来訪に関してのざわめきも(嬉しいことに)少なからずあったわけだが……しかしやっぱり一番大きなざわめきとしては、『ミルク・イシェル』さんが実在して(しまって)いたことに関してのようだ。


 普段からミルクさん(をはじめとする所属配信者キャスター)がどれほど大切にされているのかを窺い知ることが出来た反面……あの喧騒の只中を何食わぬ顔で『のほほん』と突破して来たくろさんの大物っぷりに、おれは驚愕を禁じ得なかった。





「……初めまして、玄間くろまくろさん。わたしは……新人仮想配信者アンリアルキャスター木乃若芽きのわかめと申します」


「………………ほぅん?」


「では、私から。実はですね……玄間くろまさんに、新しく共演コラボのご提案がございまして。そのお相手が、こちら『のわめでぃあ』の」


「あぁー…………あぁー! しっとるよ、うち」


「えっ!?」


「アメイジンググレイス。アカペラで歌うとった子やろ? 緑エルフの小ちゃい子。……うん、しっとるしっとる。見た見たうちも」


「あ…………ありがとうございます!」


「いぃーえー」



 初手のインパクトでペースを持っていかれるところだったが……本来の目的も忘れるわけにはいかない。

 おうたコラボのための顔合わせであるので、つまりは共演コラボ相手であるくろさんとお近づきになった方が後々スムーズに進められるのだろうが……しかし『人見知り』と聞いていたので、正直ちょっと不安だったのだ。

 しかしながらなんとくろさんは、おれのアカペラ歌唱を聞いたことがあるのだという。全くの未知・無関心からのスタートも覚悟していただけに、これはちょっと嬉しい誤算だ。……これはもしかすると、うまく行くのではないだろうか。



「でもそんなコラボいうても、うちなに歌えばええのん? そんなんいきなり言われても、なんも準備してへんし」


「あ、今日じゃないので大丈夫です。曲目は……まぁ、そこも含めて打ち合わせを行っていきたいのですが……若芽さん、ちなみに『カラオケ』はお好きですか?」


「えっ? あっ、アッ、はい! からおけ! 大丈夫です!」


「それでは、スタジオに機材を用意しての……いわゆる『オフコラボ』のような形式ではいかがでしょう? コメントやSNSつぶやいたーでリクエストを募って、目についた歌えそうなものを随時予約いれていって頂く感じで」


「ん。ええよ」


「ぅえ!? え、ちょっ……あの!? ……良いん、ですか? わたしなんかが共演コラボ相手で……」


「まぁ、八代ヤシロんが『やれ』言うたしなぁ。うちもかめちゃんの歌聞いて『ええなぁ』思うてたし、んにはんもにるにるも懐いとるみたいやし。ぜんぜんええよ。よろしうな」


「は……はいっ!! よろしくお願いします!!」


「おーおー。かぁいいねぇ。かわいいねぇ。……写真撮ってええ?」


「えっ? アッ……いい、ですよ。大丈夫です」


「んふゥー」



 ニコニコ笑顔でいそいそとスマホを取りだし、こちらへと向けてくる玄間くろまくろさん。どうやら気に入っていただけた……のかな。なんともマイペースなひとだ。

 正直いって、おれはここまでトントン拍子で進むとは思わなかったのだが……どうやら八代さんも六丈さんも、またうにさんやミルさんであっても、この展開は少なからず予想外だったらしい。


 独特の歓声を上げながら可愛らしくはしゃぐ歌姫(のなかのひと)を、おれたちはしばし唖然としながら眺めていた。







「んで? にるにるはどうしてにるにるになったん?」


「ふュご!?」



 ひとしきり写真撮影を堪能したらしいくろさんが、のんびりお茶をすすることしばし。

 ニコニコ顔からいきなり繰り出された、あまりにも事態の直球ど真ん中な質問に……当事者であり質問された側のミルさんが、不意を突かれておもしろい悲鳴を上げる。


 ……まぁ、説明しないわけにはいかないだろう。鈴木本部長がこの後どういう告知を出すのかはわからないが……同期生である彼女くろさんたちには、偽るような真似をしない方がいいだろう。

 そう思って八代さんへと視線を向けると……おれと同じ結論に至ってくれたのだろう。申し訳なさそうな表情ながら、大きく頷いてみせた。




 ……というわけで、おれは再び説明に入る。内容的には先ほど鈴木本部長に話したものと同じなので、ざっくりがっつりと割愛させていただく。

 くろさんは椅子に座ったまま、上半身をゆっくりぐーるぐーる回しながら……えっと……たぶん、真剣に聞いてくれていた。


 そうしてこうして、おれが一通りの説明をし終えた後、くろさんが発した言葉は……




「ぅん! わかったぁ!」


「……のわっちゃん騙されちゃあかんで。これわかってないやつや」


「全く思考時間なかったですもんね。多分途中からもう聞いてませんよ、くろさん……」


「んふゥーー」



 個性的な鳴き声(?)を上げながら、ニコニコ顔を崩そうとしない玄間くろまくろさん。うにさんとミルさんの指摘に対しても特に反論しないあたり……図星といったところなのだろう。

 おれとしては……せっかく熱弁をふるった説明をあんまり聞いてもらえてなかったという事実に、正直『ぐさっ』と来たわけだが……



「まぁ、にるにるがにるにるで無くなるわけでもないし。かわいいし。えっかなって」


「…………くろ、さん……」


「んふゥー。かぁいいねぇ。前のモシャモシャしたにるにるもかぁいかったけど、今のサラサラのにるにるも、うちは好きやで。写真撮ってええ?」


「んん゛ッ! ……わかり、ました」


「そっちの可愛かわい子ちゃんもええ? せっかくやし、白ロリふたりで」


「はひゅ!?」


「んふゥーー初々しいなぁカワエエなぁ。よっしゃろたで」


「す、すみません……きりえさん……」


「ひゃわわわわうわうわうわう」



 おっとぉ……くろさんのことを『仲間思いのいいひとだなぁ』と見直した直後、霧衣きりえちゃんにタゲターゲットが向いたぞ。

 こいつぁちょうどいい。どうやらただの『かわいい子好き』らしいくろさんに……わが『のわめでぃあ』の誇る最高ファンタジーかわいい戦力を、今こそお見舞いしてやろうではないか。ラニちゃんやっておしまい!



「はいはーい! ボクもいれていれて!」


「んん? なんやまた可愛カワい子ふえたな。ええでお嬢ちゃんおいでおいで。はーいポーズ」


((………………んん???))


「おー可愛カワい。ええなぁお嬢ちゃんノリノリやね。ほなもいち枚」


「う、うん? うん……いぇーい」


「んふゥーお嬢ちゃんなかなかきわどいねぇ。かわいいねぇ」


「…………あの、クロ? ちょっと……何も疑問に思わんの?」


「……んー? ………………なんかある?」


「えーっと……」


「……あぁ! たいへんや、パンツはいてへんやん!」


「「「「「そこじゃなくて!!」」」」」


「…………んー?」




 いやぁ……いやぁ、マイペースだ。

 話に聞いていた以上に、ほんっとマイペースだ!



 もう、まったく……かわいいなぁ!!


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