第286話 【東京一夜】べっどいん(意味深)




ぼくはわるくありません!!!




――――――――――――――――――――




 なにも間違ったことは言っていない。


 なにも間違ったことはしていない。



 おれは……木乃若芽きのわかめは、今晩ついに。

 やんごとなきお方より預けられた、この可愛らしい狗っ娘と……ベッドを共にするのだと、そう心に決めたのだ。







「あぁーーーー! だめーー! これだめーー! かわいいーー! やだーー! もうすきーー! だめーー!」


「わふっ! わふっ…………きゅぅん! くぅん!」


「アアッ! あっ! がわいいよぉ! きりえちゃん可愛いよぉ! よーしよしよしいいこいいこアアッがわいい!! アア!! ふかふか!! アアー!!」


「くぅん……きゅん!」




 おれに対し、長らく秘めてきた心情を吐露した彼女と……おれは確かに『いっぱいなでなでしてあげる』という約束を交わした。


 公共の場であるあのスパゾーンで、水着白ビキニ姿の霧衣きりえちゃんの全身を愛撫する度胸までは、さすがにちょっと持ち合わせてなかったのだが……折衝案としておれが持ちかけた提案に、霧衣きりえちゃんは満面の笑みで同意してくれた。



 そうとも。なにも姿必要はないのだ。


 何を隠そう、彼女は神使『白狗』の一族だ。主神たるフツノさまとの縁は断たれたとはいえ、このおれと縁を繋いだ彼女にとっては【変化】のまじないなど朝飯前。

 いつぞやガチでヘコむおれをやさしく慰めてくれた、凛々しくも可愛らしい『白狗』の姿……ふかふかでモッフモッフの姿に身を変えた彼女であれば、美少女の身体を撫でさする気恥ずかしさも生じない!


 少女の姿ではなく、神使『白狗』の姿となったキリエちゃん……その姿はその名の通り、真っ白な日本犬といった面持ちだ。どこぞのお父さん犬みたいだな。

 その顔つきは目鼻立ちもスッと整っていて、お目目もぱっちりとしている美人さん。そしてその体つきは柴犬などに比べてかなり立派で、寝そべったおれ十歳児よりも少し小さい程度……なかなかに立派な体躯だ。


 そして気になるお召し物だが……よくわからないがこれも【変化】のまじないの応用だかなんだかで、一時的に存在を消してしまっているらしい。

 おれが認識しやすいイメージとしては、着衣専用の亜空間格納魔法……俗にいう『アイテムボックス』とか『ストレージ』といった感じのアレだろうか。あくまで着ていたものを一時的に格納する程度らしく、ラニの【蔵守ラーガホルター】のような利便性は無いみたい。

 まぁ……【変化】を解除したときに素っ裸になるわけじゃない、ということがわかったので……とても助かった。




(まぁ……こんなことだろうと思ったけどさ)


(な、なによお……なにが不満ってのよお)


(ついにセンシティブ解禁かと思ったんだけどなぁ)


(AVであることには変わり無いからいいじゃん)


(いえ、あの、そうは申しましてもですね)




 AVはAVでもアニマルビデオだけど。とうぜんだけど。アニマルビデオじゃないAVなんておれが許可するわけないですけど。


 いやでも実際のところ、霧衣きりえちゃんの欲求を解消する手段としては、これはこれで最適解だと思うわけで。

 和装美少女である霧衣きりえちゃんの身体におさわりしようとすると、この場にはいないハズの春日井おまわりさんの姿が脳裏にチラつくが……『白狗』であるキリエちゃんと戯れる分には、余計な呵責は生じない。

 肝心のキリエちゃん本人も全身全霊で喜んでくれているので、フラストレーションの解消手段としては何の不満も無いらしい。


 いやぁでも……そっか。そうだよな。

 今までろくに遊んであげられず、お散歩にも連れていってあげられず、おれがビビって恥ずかしがっていたばっかりに接触も最小限……『白狗』の権能だけでなく、その性質をも少なからず継いでいた彼女にとっては、それはあまりにも酷な『おあずけ』だったのだろう。

 …………だって……普通に考えて『事案』だし。和服美少女jcに三十代一般成人男性がするとか、まじめに絵面がやばすぎるし。そりゃ『逮捕』の二文字が脳裏をよぎるのも仕方無しだし。



 だが、ならば。『白狗』の姿を取り戻したキリエちゃんを、存分にモフるのであれば。


 ただのスキンシップにしか見えないし、実際その通りだし、つまり絵面的にも問題ないし……

 よって、完全に合法なのだ!



 ……ちなみに、こちらのホテルは当然ながらペット連れ込み禁止だ。キリエちゃんはペットじゃない、家族だ……とか余計な抗議をするつもりは無いが、要するに抜け毛やにおいなどの証拠が残らなければ問題ないわけだ。

 その点エルフってすげーよな。清掃も消臭も魔法で一発だし。まあ『白狗』のキリエちゃんは少しもくさくないんだけど。フローラルなシャンプーのにおいだけど。すんすん。





「おれ……わんこと暮らすの、昔っから夢だったんだよね」


「くぅーん……?」


「庭付き一戸建て買ってさ、休日とか公園に一緒に散歩にいったりしてさ、リビングとかでわんこと一緒にお昼寝したりもしてさ」


「くぅん……あふっ! わふ!」


「……うん、まぁ……正体は霧衣きりえちゃんなんだって、解ってはいるんだけど……ある意味『夢が叶った』っていうのかなって」


「きゅぅん!」


「おぉ、てぇてぇ…………うん。写真はこんなもんでっかな」



 周囲をひらひらと飛び回りながら、なにやらおれたちの様子を窺っていたラニちゃんだったが……正直いって彼女の言動に気を配る余裕が無くなるほどに、おれの意識は限界が近づいていた。


 温かな体温と、さらさらの肌触りと、ふかふかの感触を全身で感じ……これまたふかふかなベッドの上でキリエちゃんに抱きついていたおれは未だかつてない程の安らぎを感じていたらしく、つまりとてもねむみがすごい。




「ねーえ、のわー、きりちゃんー……ボクもぉー」


「ん。ラニちゃんもおいで。いっしょに寝よ?」


「わぅっ! はふっ!」


「わぁーい!! 二人とも好きー!!」



 霧衣きりえちゃんの求めによって、思ってもみなかったやすらぎを得ることに成功したおれは……都心高層ホテルでの一日目の夜を、とても幸せな気持ちで過ごしたのだった。







 ……翌朝。


 とても清々しい気持ちで目が覚めたおれの、すぐ隣……それこそ文字通りの『吐息が掛かりそうな程』の至近距離に。


 襦袢を所々艶かしく肌蹴させた、とびきり可愛い白髪狗耳美少女が、すやすやと健やかな寝息を立てており……



 起き抜けのおれの理性が、危うく跡形もなく消し飛ばされるところだったのだが…………まぁ、落ち着いて考えれば予測できたとこだったか。

 やっぱり危機管理がなってなかったというか、慣れないことをするときは落とし穴に気を付けないといけないなというか。




 ……あれは、まじで、あぶなかった。



――――――――――――――――――――



健全です。



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