第285話 【東京一夜】約束から逃げるな
健全です!!!(挨拶)
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人々の持つ強い『願い』を糧として、負の感情に引き摺られやすい『欲望』に転化させ、歪んだ形でそれを叶えさせようと宿主を改竄し始める、悪意の『種』。
それを用いてこの世界を滅ぼさんと画策している『魔王』メイルスと、彼に付き従う(恐らく)三人の眷属。
その眷属の一人、
そして……先日ラニ(の鎧)の片腕をもぎ取った『つくしちゃん』と、今日名前だけ出てきた『シズちゃん』。
彼ら彼女ら『魔王ご一行様』が現在、このホテルに居るということは……残念ながら、ほぼ確定したわけだ。
「……そんなに……恐ろしい相手なんですか? その子たちって……」
「うん…………とりあえず、恐らく三人とも
「うわ恐ろしい」
そんなに長い時間じゃなかったはずなのに、妙なほど疲れた気がするおれたちは……『まぁもう一泊あるし』と自分達に言い聞かせ、お部屋に戻ることにした。
鍵を刺して扉を開き、ちょうどお風呂上がりのミルさんと遭遇し、男の子のはずなのに漂う色香に軽く混乱しながらも……とりあえずことの顛末を共有することが出来たのだ。
浪越市にいたはずの彼女たちが、いったいなぜ東京に居るのだろう……なんてことは、考えるだけ野暮だろう。
他ならぬおれたちだって、今朝八時には浪越市に居たのだ。公共交通機関が発達した現代日本においては、その気になれば一日で
不安なのは……いままでは浪越市周辺でしか活動が見られなかった『苗』が、その活動範囲を拡大してしまうのではないかという懸念。
よもやこの地で『魔王』一味と遭遇するとは思わなかったが……彼らとて何の目的もなく遠出するとは思えない。一行がこの東京に姿を表したのは、きっと何かの前触れなのだろう。
しかしながら……実際彼らと事を構えるのは、現在のところ分が悪いと思う。これはおれだけでなく、おれ以上に荒事に長けたラニが下した結論でもある。
ミもフタもない、はっきりとした言い方をしてしまうと……おれたちでは
ミルさんを仲間に引き入れたことで、単純な処理能力と順応性は桁違いに上がったのだが……しかしそれでもあの三人、特に【食らう事】に特化した異能を行使する『つくしちゃん』の危険度は底が知れず、おまけに『シズちゃん』に至ってはその何もかもが不明……全くもって未知の存在なのだ。
叶うならば、このまま鉢合わせすることなくやり過ごせればと思うのだが……果たしてどうなることか。
「荒事に対して、やっぱおれも慣れとかないとだよな。……今のままだと、いざ『魔王』とまた正面衝突したときに……正直、不安が残る」
「……オッケー、わかった。おうち帰ったらボクとシュギョーしようね。……ていうか、そもそも素材としてはこれまで見たことないくらい上等なんだもん。絶対優秀な魔法使いになれるよ」
「あ、あのっ! ……ラニさん…………ぼくも、お願いします」
「み……ミルさん……!?」
「……もう、他人事じゃないんです。若芽さんのがんばりを知っちゃったら、見て見ぬふりなんて出来ません」
「ぅうううぅぅぅ…………! ありがとぉぉ!」
「ふふふふ……もと勇者のシュギョーは厳しいぞ!? ついてこれるかな!?」
「あっ、あんまりつらくない程度でお願いします」
「そんなあ!」
一般の人々には決して見せられない『魔法』を交えた戦闘訓練であっても、おれの
奴らが今回東京で、こうして何かを画策しているということは……あんまり考えたくないが、おれたちにとっては嬉しくない
今後荒事も増えることだろうし……戦い慣れしておいて、損はないだろう。
まぁ、そんなわけで。
おうち帰ってからの新たな日課、トレーニングについて……いろいろと思いを馳せたところで。
「はいじゃあ……おやすみの準備するよ! 部屋割りを発表します!!」
「「わーい!」」「「わ、わーい」」
そうだ、おれたちは今リゾートホテルに来ているのだ。
ずーっと先のことばかり見てないで、いま目の前に迫っていることに、まずは全力で取り組むべきなのだ。
つまりは……
「えーっと、じゃあ……ダブルベッドのお部屋をミルさん、ツインのベッドルームを……おれと、ラニと、
「……あの、モリアキさん……本当に、良いんですか?」
「いやー全っ然大丈夫っすよ。……ていうか教えてもらったんすけど、このソファ普通にエキストラベッドになるらしいんすよね」
「えっ!? そうなんですか!?」
「そうなんすよ。んで、こっちの…………ウォークインに、エキストラベッド用の寝具があるって。コンシェルジュさんが」
「お、おぉ……すごい」
そういえば確かに、このお部屋の最大収容人数は五名って書いてあった。
ダブルベッドに二人、ツインルームに二人として……もう一人ぶんが、このリビングのエキストラベッドだったということだ。
これならば……モリアキも少しは寝心地が良いだろうし、おれの良心の呵責も控えめで済む。……いや、ベッドルームのベッドには劣るだろうけど。やっぱり申し訳ないな。
「気にしないで下さい先輩。今回の遠征では先輩とミルさんがいちばん大変なんすから。……いちばんが二人居るってなんか変っすけど、まぁとにかくオレは本当遊びに来た程度でしかないんで、一緒に騒げるだけでも嬉しいっすよ」
「モリアキ…………おまえ本っ当中身イケメンだよな……」
「が、外見もイケメンでしょう!? ねえ!? ミルさんもそう思いますよね!?」
「えっと、そのぉ………………はい」
「めっちゃ間が気になりますがありがとうございます!! 救われました!!」
彼の心配りとミルさんの気配りに助けられながら、おれたちは各々の寝床へと赴き、眠りの支度を整える。これより先は自由時間……各々好きに過ごしてもらい、好きなタイミングで眠りに落ち、朝食の時間にまた集合する作戦だ。
ミルさんもモリアキもおれたちも、
個室に引きこもれるおれたちと違い、リビングスペースのモリアキはちょっと落ち着かないだろうが……まさかそんな素っ裸になるわけでもあるまいし、大丈夫だろう。今日のところは我慢してほしい。
というわけで、おれたちが使わせてもらう寝室。このツインタイプのベッドルームは、ゆったりシングルベッドが二つ並んだ贅沢なつくりだ。テレビや小型冷蔵庫まで備わっており、居心地も非常に高い。
またダークトーンで纏められた室内インテリアに、寝具の清潔な白色がよく映え……なんていうか、こう、オトナっぽくて非常にいい感じのお部屋だ。ぐぬぬ、語彙力よ。
試しにベッドによじ登ってみると、これがまたすごい。ほどよく沈み込む低反発のマットレスが、とても気持ちよい抱擁を返してくれる。
新居のベッドはちゃんと厚手のウレタンマットレスを敷いているので、寝心地はむしろ良いほうのはずなんだけどんだけど……このベッドの気持ちよさは桁違いだ。
……うん、やばいわこれ。
「ぎぼぢいい~~~~~~」
「えっちな声たすかる~~」
大の字うつぶせでノビるおれと、茶化すような声色のラニちゃんと……どこかそわそわした様子で、しっぽをばたぱたとはためかせている
なにかを期待してるかのようにこっちをちらちら窺うその様子はぶっちゃけメチャクチャ可愛いんだけど……あんまり『おあずけ』するのもかわいそうだもんな。
そろそろ……あの子のお願いを叶えてあげるとしよう。
「……きりえちゃん」
「わ、わかめさま……!」
「…………こっち、おいで」
「はいっ!!」
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健全です!!!(真実)
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