第280話 【東京一夜】ビール飲むエルフ
とてもすごい(クソザコ語彙力)ホテルならではのサービスとして、おれが謎の憧れを抱き続けていたのが……ずばり『コンシェルジュ』と呼ばれるサービスだ。
豪華ホテルに常駐しているコンシェルジュとは、要するに頼めばなんでもやってくれる存在(※語弊あり)……つまりは実質、執事さんである(※語弊あり)。
対応できるお手伝いの範囲は、施設の規模やユーザーのランクや宿泊プラン等にもよるのだろうが……幸いなことに、おれが望んでいた対応は問題なく行っていただくことができた。
おれの今回のお願い内容、それはずばり『完全個室のある料理の美味しい居酒屋を教えてほしい』というもの。
考え方によっては、いくつもの館内レストランを擁するこのホテルに喧嘩を売るかのようなお願いなのだが……例によって人当たりの良さそうな笑みを浮かべたナイスミドルのおじさまは、嫌な顔ひとつ見せずにシュババババッとお店を探してくれた。
タブレットを駆使して幾つか候補をピックアップし、おれへ幾つか質問を投げ掛け、おれが答えるごとに候補を絞り込んでいき……最終的にはお店に電話で問い合わせ、その場で個室席の確保も(もちろんおれの同意のもとで)済ませてくれて、お店の詳細をプリントアウトしてくれて、更にはタクシーまで手配してくれた。
……ここまで、ほんの五分そこら。おまけに追加費用は一切不要。ありがてぇ。
というわけで。おれたち四名(+姿を隠した小さな一名)の珍妙な一団は、宿泊しているホテルから程近い海鮮居酒屋『
タクシーの運転手さんにお礼を言ってお金を払い領収書を受けとり、『よかったら帰りもお声かけを』とお名刺も頂戴し……あっという間に到着しました『
ホテルからの事前連絡によって、お店の方々も前もって覚悟してくれていたのだろう。緑髪銀髪白髪ロリトリオを目の前にしても平静を欠くことなく、少なくとも表面上はにこやかに対応してくれていた。……なかなか見上げたプロ根性だ。
そうして通してもらった、お店の奥のほうの個室席。よくある可動間仕切りの個室ではなく、ちゃんとした壁で仕切られている、完全な個室だ。
本来は六人卓がふたつの十二人用個室のようだが……どうやらおれたちの意図をきちんと理解してくれていたらしく、一部屋全部お借りして良いらしい。……ちょっと申し訳ないが、ありがたい。
おれたちの……見るからに常識はずれの一団の会話は、ちょっとよそ様にお聞かせするわけにはいかない内容を多分に含んでいるのだ。
「はい、それじゃー……お飲みものは全員行き渡りましたかー?」
「「「はーーい」」」「は、はいっ」
卓に備え付けのタブレットで『ずばばばーーっ』と注文し……最初の飲み物が届けられ、全員の前にグラスやジョッキが立ち並ぶ。
おれとモリアキは堂々と生中、きりえちゃんが抹茶ラテ、ミルさんは……年齢的にはセーフなのだがあまり飲めないほうらしく、ウーロン茶と渋めのチョイス。……社会人らしい。
六人掛けのテーブルを囲み、各々の飲み物グラスを掲げ……なんとなく場の勢いで挨拶を請け負ってしまったおれは、開き直ってそのまま会食の火蓋を切った。
まぁさいわい、この場の面々は全員身内のようなもんだ。気恥ずかしさも気負いすることもそんなに無い。
「予定のひとつも無事終えて、あとは明日の『にじキャラ』さんとのミーティングが残ってるわけですが……まあ翌日に残さない程度に、楽しく騒ぎましょう! それでは……かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
「……っ、ぱーい!」
((((かわいい……))))
身体が
ウーロン茶を呷るミルさんは……小さく幼げな容姿でありながらその
一方で、抹茶ラテへお口をつける
入口からは死角になる位置で、おれのジョッキに顔を突っ込んでビールを盗み飲みしてるラニちゃんも……どうやら現代日本の生ビールはお気に召したようで、おしり丸出しにしながら身を乗り出して直飲みの構えだ。うーん豪快かつセンシティブ。
「失礼しまァす!
「あっ、ありがとうございます!」
「お嬢ちゃん可愛いねぇ! いっぱい食べてってねぇー!」
「はい! いっぱい食べます!!」
はきはきと感じの良いお姉さんによって、美味しそうな料理がドバババッと運ばれてくる。
なんでも
ちなみに魚介類以外も評価が高いらしい。なんじゃそりゃ無敵か。
「ヴッメ!! え、これブリっすかね……ウソでしょめっちゃ美味いっすよヤッバ」
「うわほんと、脂のノリすご……醤油皿に脂が融け出るって、相当ですよ」
「ねぇなにこのタマゴヤキ! めっちゃふわふわ! ふわふわ! ねぇなにこれ!」
「んんぅー……っ! お
あ、うん。無敵だった。
みんながみんな美味しそうにお料理をパクついていき、それに伴いニコニコ顔が広がっていく。
お料理をガツガツ掻き込みグイグイとビールを呷るモリアキと、いろんな種類のお刺身を順番に堪能しているミルさん、プロが作るダシ巻き玉子に感動しつつ舌鼓を打つラニに、そのプロの技を少しでも盗もうと真剣な表情で箸を進める
もちろんおれも、おいしいお料理と生ビールを堪能させていただいている。四膳のお箸がお料理をどんどん減らしていく様を眺めながら、おれ自身の頬が緩むのを自覚する。
やっぱり……気心知れる仲間と楽しむ酒の席は、とても楽しい。
「ゥお待たせしましたァ! こちら焼き物が
「アッ、エット、アッ…………ハイッ」
「なかなか勢いあるお姉さんっすね。てか先輩そんな頼んだんすか」
「い、いや、だって…………おッ、おいしそうだったんだもん……」
「まーまーモリアキ氏。ボクもいろんなお料理堪能したかったしさ? それにお腹いっぱいでも、ボクがちゃーんと持って帰るから」
「あぁーそういえば……そっすね。アッ、ビールありがとござます。……じゃあまあ、カンパーイ」
「うぇーい!」
おいしい食事と、おいしいお酒。まだ明日大事な予定が残っているので、完全にハメを外して酔い潰れることは許されないが……久しぶりの賑やかな酒の席は、とても楽しいものだった。
あっ、鮭ハラス焼きマジウッメ。
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