第271話 【緊急会談】飛んで火に入る



「どっ、どど、どどうど、どっ、ど、うど……どうしましょう、わかめさん!!!」


「と、とりあえず落ち着いて下さいミルさん……又三郎またさぶろうみたいになってるから……」


「又三郎……宮沢先生、でございましょうか」


「??? ……タマ、サブロー??」


「「またさぶろうだよでございます」」





 うにさんと、マネージャー八代やしろさんを交えての反省会(兼ミーティング)は……若干名に対し大ダメージとなる爆弾をぶん投げたまま、しかしさすがに夜も遅いということでお開きとなった。

 会議通話が終了して……まぁそんな気はしていたけど、五秒と置かずに着信メロディが鳴り響き……



『お願いです!! たすけてください!! わかめさん!!』


「ミルさん心からの一句ですね。……夜分で恐縮ですが、今からも大丈夫ですか?」


『……? えっ、うちに来られる……ってことですか? ……ぼくは構いませんけど……でもこんな夜じゃ、電車もバスも』


「「こんばんわァー!!」」


「うわァーーーーーー!!!?」


「おっ、おじゃま……します……」




 家主の許可を得たのでラニに【門】を開いてもらい、岩波市のおれの自宅から浪越市港区の某地点まで一瞬で移動する。

 ミルさん宅のリビングに現れたおれたちは隣室との扉を開き、半泣きでPCデスクに向かっていたミルさんとご対面を果たしまして。


 そしてみんな揃って場所をリビングスペースへと移し、ダイニングの椅子に失礼したところで……そこで冒頭のような又三郎またさぶろうを披露された、というわけ。




「いやぁ、まぁ…………いい機会チャンスだと思う……思いますよ? おれ……あっ、いえ……わたしは」


「……楽な話し方で大丈夫ですよ。ぼくも取り繕う余裕無いですし」


「んぅ……じゃあお言葉に甘えて。…………正直なところ、ミルさんだって『嫌いじゃない』んでしょう? うにさんたち『にじキャラ』のみんなが」


「それは…………はい。間違いなく……好き、です」


「ですよね」




 現在ミルさんが抱えている葛藤……それはつい先程、おれと『玄間くろまくろ』さんとの打合せの場を設けるついでに、『ミルも事務所おいで』『久しぶりに【Sea'sシーズ】のみんなで集まろう』という爆弾が爆発したことによる。


 以前のであれば、特に不安に思うことなく同意していたことだろう。

 しかし今のには、そうすることができない理由ができてしまった。


 『ミルク・イシェル』というキャラクターのを演じる日本人の女の子『有村悠菜ありむらゆうな』さんとしてではなく……日本人離れした容姿の男の娘『ミルク・イシェル』となってしまった、今の

 容姿からして『何かとんでもないことが起こった』ことがひと目でわかってしまうので……職場にじキャラの方々と顔を合わせるということは、イコール詳細を説明する必要が生じてしまうということであって。



 良好な関係を築けている同僚だからこそ、いつかはこの秘め事を打ち明けなければならない。

 ならば多くの同僚が一同に会する場であり……そして、この事態の詳細に少なからず精通しており、多少はフォローができるであろうおれが同席できる場であれば、彼も少しは気が楽だろう。




「……大丈夫ですよ、ミルさん。部外者のおれから見ても、【Sea'sシーズ】のみんなはいい雰囲気じゃないですか」


「そ、そうなんですけどぉ……! 実際であの子らとの会合に行くのは気が引けるっていうかぁ……!!」


「大丈夫です。心配しないでくださいミルさん。……おれもいっしょに、ちゃんと皆さんに説明しますから」


「それはとても心強いんですけどぉ!! 若芽さんだからこそ宜しくないっていうかぁ!!」


「…………? えっ、と……? す、すみません、おれにどこか至らぬところが……? やっぱ生粋の女の子どうしの場だから……」


「ち、ちがうんです! そうじゃなくて!」



 東京への……『にじキャラ』さんの事務所へ赴いての、くろさんとの顔合わせと大規模な打合せ。

 おれも一緒だから大丈夫だよ、などと必死に鼓舞してみたのだが……それでも二の足を踏んでしまっているミルさんの、いちばんの懸念。……それは。




「っ、その……の子が! …………ああもう! いいですか若芽さん! 【Sea'sシーズ】にはですね! 性別問わず小さくて可愛い子が大好きな……やつがいるんですよ!!」


「…………つまり、その…………ミルさんが狙われちゃうかも、ってこと?」


「ははは何をいってるのさノワ。『性別問わず小さくて可愛い子』でしょ? キミもじゃん」


「そうです!!」


「ヒュっ」





 そのひとのお名前は……当たり前だが、おれも聞いたことのあるひとだった。

 ミルさんの同期【Sea'sシーズ】の一員であり、彼いわく『本格的に手遅れな患者』。



 その子の名前は……『花笠はながさ海月みづき』。

 中性的な容姿と落ち着いたハスキーボイスが特徴的な、【Sea'sシーズ】いち『声がいい』女の子配信者キャスター


 朗読劇や雑談枠やASMR自律感覚絶頂反応など、その『いい声』を十全に活かした配信枠には男女問わず根強い人気がある、にじキャラ公式実力派美少女劇団員配信者キャスター……である。




 普段の活動を拝見している限りでは、海月みづきさんの立ち振舞いはとてもスマートでカッコイイのだ。……ヅカ系、というやつだろうか。

 そんな彼女が、そんな病気……もとい、おれと近い趣向の持ち主だなんて……そりゃ確かに、配信者キャスターとかでも小さい子相手には、ものすごく紳士的に接していたようだったけれど……



 …………え、つまりその『紳士的』な対応って、つまりこと?


 まって、おれもしかして……めっちゃヤバい内部事情聞いちゃった?



―――――――――――――――――――――



にじキャラⅣ期生『Sea'sシーズ』メンバー

(※一部抜粋)


玄間くろまくろ】

超マイペース歌謡少女配信者キャスター。イメージカラーは黒銀。

母親は温泉旅館の大女将。四姉妹の末っ子。

立ち絵や各衣装の全てが和装(テイスト)。

異様に高い歌唱力と、独特の喋り口が特徴。


花笠はながさ海月みづき

公式実力派美少女劇団員配信者キャスター。イメージカラーは赤と黄。

女声ながらよく通る声は、幅広い層に人気。

人当たりが良く、基本どんな相手にも紳士的。

だが小さな子相手には少々らしい?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る