第272話 【遠足計画】どっちにしようかな
ミルさんの怯えようが気にならないわけではないのだが……そうはいっても、もう夜は更けに更けている。
最終的にはミルさんも『いつかは……話さなきゃいけないことですもん……ね』と納得してくれたので、今日のところはお開きとなった。
……というわけで、とりあえずおれはミルさんと一緒に『にじキャラ』さんの事務所へお伺いすることになりそうだ。
とはいえミルさんにとって、その行程は決して容易いものではない。あんなに日本人離れした容姿をもち……しかもあの見てくれで身体は男の子、しかし魂は女の子なのだ。
新幹線や航空機を使おうにも、駅や空港なんかでは物凄い注目を浴びてしまうことだろうし、公共施設でのお手洗い問題とかもあるかもしれない。……いやまあ逆にあの外見なら、逆に堂々と女の子用お手洗いを使える気もしなくはないがな。逆にな。
しかしお手洗い問題がどうであれ、移動中や休憩中や食事中も含めて四六時中注視され続けるというのは、さすがに堪えるだろう。
加えて……それが全国的に知名度も高い
ある日突然思い描いていたキャラクターに変身してしまい、不馴れな身体と周りの目が気になって遠出ができない……そんなお悩みを抱える、そこのあなたに朗報です!
そんな懸念を一気に解決できるのが、こちらの商品。老舗自動車アクセサリーメーカーである『三納オートサービス』さんの手掛けたキャンピングカー、その名も『ハイ・ベース』です!(※宣伝ノルマ達成)
最大乗車定員八名、就寝定員大人四名+子ども一名。コンパクトながら温水シャワーとトイレ、調理用水栓と冷蔵庫と電子レンジをも備え、移動可能な拠点として申し分のない性能と居住性を誇る逸品。
まさに『自走する部屋』といっても過言ではないだろう。これさえあれば誰の目も気にすることなく遠出でき、東京まで三百五十キロにも及ぶロングドライブだって問題ないのだ。
…………本当マジで、三納オートサービスさんには頭が上がらない。
来週末のイベントでは精一杯恩返ししなきゃならないし、
「じゃあ……寝て起きて、またがんばろう。おやすみ」
「そだね。おやすみー」
「はふ…………ほやすみなさいませ」
ねます!
「おはよぉございまぁーす(小声)」
おきます!
はい。あっという間に日曜日の朝……時間帯的には変身ヒーローが怪人に飛び蹴り叩き込んでる時間ですね。
昨晩はちょっと夜更かししてしまったとはいえ、おれと
……おれよりも早起きして朝ごはん用意してくれるとか、やっぱ家事力と女子力が半端ないわ
まぁそれはそれで良いとして。
問題なのは……朝ごはんの時間が終わり、ヒーローの
なので……今度こそ、寝込みを襲ってやる(※誤用)しかありませんね!
昨晩は眠る前に、ラニちゃんがちゃんと服(というか装飾布)を身に付けていることは確認済だ。今朝おれが起きたときにも(申し訳程度に)身に纏っていたので、すっぱだカーニバルが幕を開ける心配はない。
なので、今度こそ、ねぼすけラニちゃんの天使のような寝顔を寝起きドッキリしようとしてるわけでして…………
「なんでおれのパンツ握りしめてんの!? さっきそんなの持ってなかったじゃん!!」
「んへぇー…………いゃぁー……ノワがさっき起きたあとに……ね」
「あのとき起きてたの!? じゃあなんで起きなかったのさ!!」
「えへへぇー……ほら、ボク二度寝……すきですし? それにこれ、肌触りが良くて」
「気持ちはわかるけど! わかるけど!! だからっておれのパンツ握って…………まって、どっから取ってきたそのパンツ!? ねえちょっと!!?」
「んー……ちょっとまえに干してたやつを拝借して、それを【蔵】に」
「えっ?」
「あっ」
あははははは。そうかそうか。まったく、懲りないなあニコラちゃんは。
はぶらしの刑よりも
リサーチしておかないと。薄い本とか読んで。えち絵師のフォロワーさんとかにも聞いとこ。
……と、ちょっとした事件は起こったが。
そんなこんなで日曜日の朝(といってもそろそろ十時)。とりあえずミーティングに赴くのは良いとして、ここからだと日帰りするのは少々無理があると思われる。
つまり必然的に泊まりがけでの行程となるのだが……ここでおれたちには、二つの選択肢がある。
ひとつ。北陸旅行と同様、東京近郊でRVパークを探し、わがハイベースで車中泊をするパターン。
そしてもうひとつは……みんなで朝食バイキングつきの、ちょっとよさげなホテルに泊まること。
「ほてる、というものは……西洋ふうの旅館? 朝食をいただけるのでございますか?」
「ボクは宿屋がいいなぁ、色々と
「うふふふふ……それはね、バイキングっていうのはね。ブッフェともいうんだけどね……」
やはり現代日本の経験があまりない二人は、首都東京のお宿に興味津々なようだった。
おれのおうちともハイベースの車内ベッドとも異なる、非常に近代的で洗練された客室インテリアのスライドショーに、二人とも目を輝かせて興味津々だった。
そんな中で目についた(というか検索条件としておれが追加したのだが)『朝食バイキング』の文字列。
朝食ならまだしも『バイキング』とはなんぞや。朝食にバイキングが出てくるというのか。朝食に海賊がでてくるってのか。なんて日だ。
……とかいってボケるのではなく、二人に『朝食バイキング』というものがどういうものなのかを、至極真面目に教えていく。
「食べ放題!? 好きなだけ食べていいの!? なんでも!?」
「さ、三十種類……!? あさごはんに三十種類のお料理でございますか!? す、すさまじい手際にございまする!!」
「これは……腸詰? すごい整った形の……あっ、ねぇねぇキリちゃん! これタマゴヤキだよね黄色いの! こんな
「きれいなたまごの色……この柔らかさは、いったいどういう手法でございましょう……彩りも大変美しくございまする……」
いくつかのホテルをザッピングして見てみたのだが……カッコいいインテリアと、大きなベッドと、きれいなお風呂と、大都会東京ならではの景色。そしてなによりも朝食バイキングに、彼女たちは夢中のようだった。
これはもう……採決を取るまでもなさそうだ。
首都東京の『ちょっとよさげなホテル』ともなれば、ピンからキリまでさまざまだろうけど……とりあえず『朝食バイキング』があって、見晴らしが良くて、都会的なカッコいい客室で……それでいて二部屋、そこそこお値打ちで泊まれるお部屋。
土地勘も知識も少ない状況で今から理想的な宿を探すのは、おれ一人では少々難儀するかもしれないが……かわいい二人が目に見えてテンション上がってるのだ。その期待には応えたい。
「よっし。じゃあ…………ホテル! 泊まろっか!」
「イェーイやったー!」
「や、やったー……っ!」
実をいうと……心当たりがひとつ、思い浮かんだのだ。
実際におれの思うとおりに
やっぱ最終的には……その道に精通した方の力を借りるのが、いちばん確実なわけですよ。
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