第269話 【共演終了】驚縁の連鎖



『……はい。それでは……反省会を始めましょうか』


『もう深夜やからなぁー。お手柔らかにたのむわー』


「よ……よろしくお願いします」



 うにさんミルさんと一緒に楽しんだ、一人称視点シューティングゲーム『FPEX』コラボ配信。当初の予定ではおよそ二時間の予定だったのだが、一時間延長して零時まで継続するかたちとなった。

 これは直前のミーティングで選択肢として示唆され、実際に配信中の反応を見て我々に打診が行われ、途中Deb-Code会議通話のチャットでの折衝の上で変更となったのだが……すごいな、全体を見て舵取りをする人がいてくれるって。客観的な立ち位置から配信そのものの空気を俯瞰できるし、演者への伝達にしてもツールが上手く活用されてる。


 なるほど……チャットであれば配信に音声が乗ることもないし、演者からも意思の提示を行いやすい。特に仮想配信者ユアキャスであれば表情や視線全てが配信されるわけじゃないので……これならば極論、喋りながらでも打ち合わせは(ある程度)可能なのだろう。

 ……さすが大御所、経験の蓄積と効率化がものすごい。




八代やしろん、どうやった? いつもよりウケとった?』


『そうですね…………単純な数字比で言えば、最大同時視聴者数が『UNI'sOnAIRユニゾネア』平均のおよそ一.八倍、コメント数に至っては三.三倍程度ですね』


『「おぉー…………」』


『あの……ぼくのほうはどうですか?』


『『イシェルバレー広報課』は……最大同時視聴者数は平均の一.四倍、コメント数はいつものおよそ二.三倍ですね』


『『「おぉぉーー…………」』』


「す、すごい……そんな数値パパッと出せるんですね……」


『えぇ、まぁ。私以外にもバックアップ要員が居りますので』


「「おぉー…………」」



 配信直後に『いつもと比べてどうだったか』をすぐに聞かせてもらえるのは、配信者にとってモチベーションの向上に一役買ってくれることだろう。

 今回の配信がいつもより良かったのか悪かったのか……いち視聴者に比較的近い立場から配信を見ることができたマネージャーさんを交え、良かった点や反省点を洗い出すための『反省会』……この体制を確立し、実際こうしてフォローできているので、やはり『にじキャラ』さんは配信者を大切にしてくれてるんだということがよくわかった。

 さすが大御所事務所……参考にできそうなところがいっぱいだ。



『途中少々ところもありましたが、総合的に見て成功と捉えて良いでしょう。……若芽様、改めてご出演ありがとうございました』


「こちらこそありがとうございました! 軽く目を通した限りですが……こちらもがすごいことになってまして」


『それは良かった。……『コラボしなければ良かった』と言われるのは、さすがに堪えますので』


「いえそんな! うにさんやミルさんと共演できたのも嬉しかったですし……それに加えていろんなノウハウを見せていただいたので、こちらとしても得るものが多かったです。やっぱり有名事務所は……『にじキャラ』さんはすごいなぁって」


『そう言って頂けると、こちらとしても幸いです。……実を申しますと、最近弊社においても『わかめちゃん』の話題がじわじわと増えて来てまして』


「えっ!? 弊社、って……『にじキャラ』さんです、か?」


『そうなんよ~! ティー様とハデ兄ぃと……あと刀郷トーゴーのデコあたりがな、積極的に布教してる感じで』


「しょんっ!? あ、あえ…………ひゅッ」



 な、な、な、なんという……なんという、驚愕の新事実。

 先週麻雀をご一緒させていただいたのは確かなのだが……まさかそこまで、話題にしてくれるほどにまで、おれたちのことを覚えていてくれたとは。


 ティーリットさまと、ハデスさまと、刀郷さん。……いいひとだなぁ。



『ですので我々『Sea'sシーズ』としても、若芽さんをいち早く……表現は良くないかもしれませんが、出来たということで……その、鼻が高くて』


「そ……それは、それは…………恐縮です」


八代やしろ八代やしろん! ラニちゃん最初に見っけたのはあたしだからね!』


『解ってますって。感謝してますよ、村崎さん』


『ふふん』




 本当にその通りだ。生まれたての弱小放送局を、数多あまた溢れる配信者たちの中から見つけ出してくれて……そして、こんなに大きなチャンスを与えてくれた。

 今日のコラボで話題にしてもらったのはもちろん……先だっては霧衣きりえちゃんの麻雀お勉強会に、雲の上大御所の方々をお招きすることができた。

 あのときの麻雀コラボだって、村崎うにさんが場を整えてくれたおかげで成立した一席だ。あのコラボのおかげで『のわめでぃあ』のチャンネル登録者数も一気に跳ね上がり、SNSつぶやいたーとかでおれたちの話題を目にする機会も、あからさまに増えたのだ。



 つまりは……この独特なホンワカなまりがチャームポイントなガチゲーマー系ダウナー美少女仮想配信者アンリアルキャスターちゃんには……おれは足を向けて眠ることが出来ないのだ。



 おれが話題になプチバズる切っ掛けを与えてくれて、大躍進する道筋を切り拓いてくれた美少女。

 それと………誰にも助けを求められないと思っていた裏家業を、公私共に支えてくれる美少女(※ただしついている)も。


 以前から好きだった『にじキャラ』の二人だったが……おれの人生に大きな影響を与えてくれた『恩人』と呼んで差し支えないだろう。




「あの…………うにさん!」


『んん? なんや?』


「あと、ミルさん!」


『えっ!? は、はいっ!』



 おれは……ひととの調和を重んじる、心優しいエルフの少女なので。


 恩義には、誠意をもって報いるべきだし……

 つまり恩人には……誠意をもって、恩返しをすべきだろう。




、わたしに良くしてくれて……とても嬉しく思います。なのでわたし、そのがしたいです。わたしにして欲しいことがあったら、(※公序良俗に反しない範囲で)何でも言って下さい!」


『今なんでもって言うたかのわっちゃん!!?』


『な、なんっ、なんっ、なっ……なんでもっ!?』


「言いました! わたしがお力になれることなら(※公序良俗に反しない範囲で)何でもお申し付け下さい!」


『ウォォォォォォ!!』


『あっあっあっあっあのっあのっ』


『ぇえ、いいなぁ……』




 人脈も、知名度も、おそらく貯蓄額も、お二人には遠く及ばない。

 そんなよわよわなおれが『恩返し』しようと思ったら……この身体で払うしかない。


 背景でも、エキストラでも、引き立て役でも、道化でも、もしくはただの通訳やBGM演奏係としてでも。

 おれが役に立てることがあるのなら……このお二人のためなら、(※公序良俗に反しない範囲で)何だってやってやる。


 ……八代マネージャーさんが物凄く羨ましそうな声を漏らしていたようだが……彼にもいつか、何らかの形でお返ししよう。お世話になってるし。




『じゃじゃじゃじゃじゃじゃあさ! のわっちゃん! 早速お願いがあるんやけど!』


「は、はいっ! なんでしょう!?」



 恩人の一人である、うにさんからのお願い。


 こんなに勢いよく出て来るのだ、いったい何を持ちかけられるのかと思ったら。




『のわっちゃんの『本気マジの歌』! 聞かせてほしくてな!』


「う……歌、ですか?」


『そうそう! それでな…………あたしがちゃーんと仲介するから、『クロ』とコラボしてくれん!?』


『『おぉーーーー』』


「………………ま、まじっすか!?」




 持ちかけられたのは、まさかの『おうた』コラボ。


 しかもそのお相手(候補)は……よりにもよって、『クロ』さん。


 Ⅳ期生【Sea'sシーズ】どころか『にじキャラ』屈指の歌唱力を誇る女の子、この春にはグループでのメジャーデビューも決まっている……超超期待の仮想配信者アンリアルキャスターである。


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