第267話 【共演配信】対戦ゲームの心得




「いいですか。自分がされてイヤなことは他のヒトにしちゃダメです。わかりましたか?」


『「はーい」』


「確かに……わたしも悔しかったり、腹立たしかったり……そういう気持ちになることもあります。ニンゲンですも…………エルフですもの。気持ちはわかります」


『「はーい」』


「でもでも……ゲームっていうのは、楽しむために作られたものですから。ゲームの勝敗で生計を立ててるプロの方ならまだしも……せっかくゲームで遊ぶんですから、楽しく遊ばなきゃ損じゃないですか」


『「はーい」』


「ストレス解消のためのゲームで逆にストレスを溜め込むなんて、本末転倒です。……負けても何も損しないですし、心にゆとりと余裕をもってあそびましょう。……わかりましたか?」


『「はーい」』


「………………今の気持ちを一人ずつ、正直に言ってください。わたし怒りませんから、いいですか? 正直に、です」


「背伸びしてお姉さんぶろうとするノワはやっぱ可愛いよなぁ」


『おこおこぷんぷんなのわっちゃんはいちゃくて可愛かわえぇなぁ』


「うがァーーーーーー!!! ギャオオオオオオオン!!!!!」


『わ、若芽さん落ち着いて! 若芽さん!?』







 波乱の第二試合、四人ひとチームでのクァッド戦を終え……おれたち『のわめでぃあ・にじキャラ【Sea'sシーズ】』有志連合は、視聴者さんと一緒に反省会の真っ最中である。

 幸いなことに、おれたちのチームが勝利を収めることができたのだが……その試合はなんというか、いろいろと反省すべき点が多々々々見受けられたためだ。


 特に……一部プレイヤーによる、非マナー行為。ゲームの楽しさを伝えるための配信においてのは……さすがにちょっと、褒められたもんじゃない。

 なのでおれは心を鬼にして、威厳のある年長者として……ことはのだと、このイタズラっ子妖精さんにしっかり理解わからせてあげる必要があるのだ。




『のわちゃん先生……』『でもよわちゃん真っ先に落ちたからなぁ』『【¥4,848】よわちゃんまじめにやって』『よわちゃんに腕前は期待するな』『【¥4,848】よ……のわちゃんがんばって』『上手くないのに見てて楽しいって何か変だな』『よわちゃんやっぱのわのわだわ』『せんせーラニちゃんがパンツはいてません』『笑いの神と寝た幼女』



「ぐ、ぐぬぬぬ……」


「(爆笑)」



 …………も、もちろん……おれにも非があることくらい、よーくわかっている。ほんとです。わかってますとも。……わかってるってばあ!


 今回ラニたちが暴走した一件だって、元をたどればおれがぶざまにも瞬殺されたからこそ生じた事態なのだ。

 おれがつよつよであればみんなストレス無くプレイできただろうし、煽られて二人がムカ着火ファイヤーすることもなかった。おれに責任が無い、だなんて無責任なことは……服が裂けても言えない。

 ……なんか違う気がするな。まあ良いか。




 そもそも、おれは正直いって……ゲームはそこまで上手じゃない。


 脳トレゲームのように、単純に知識や知能や頭の回転がモノをいうゲームなら、それこそ世界ランキング百位以内に入れるくらいには自信がある。

 ポーカーとか麻雀とか、運が絡むゲームはその限りじゃないけど……あんまりやったことないけど、チェスとかリバーシとかそのあたりもいい線行けるのではないだろうか。


 だが……その一方で。

 アクションゲームやシューティングゲームなど、この身体の『設定』によるアシストが充分に得られない分野においては……悲しいかな、その技量は以前の俺と大差無いようだった。

 いやむしろ……随所でポンコツ化したりするぶん、幸運の値はガックリ下がってる可能性さえあるかもしれない。



 おれ自身は先に告げたように『べつに負けても楽しめればオッケー』なスタンスなのだが……そのせいでおれのチームメイトが迷惑を被ったり、ゲームを楽しめなくなってしまったりするのは……それは、絶対に良くない。

 せっかく共演コラボを持ちかけてくれて……一緒に遊んでくれようとするひとに迷惑を掛け、心を曇らせるのは……おれの主義に反する。



 だから……迷惑を掛けないように。みんなで楽しく遊べるように。

 …………うまく、なりたい。




『まー、時間もまだまだあるし。練習しよっか?』


「ふふ……そだね。気楽にいこう」


「…………!!」


『ミルものわっちゃんも、見込みはあるからね。場数さえ踏めばとっさの判断が出来るようになってくるっしょー』


「ミルちゃん狙撃上手じょうずだったし……ノワも真似してみる? エルフなら得意そうじゃん?」


『ぼ、ぼくなんっ…………など、まだまだ。……ただ、共に研鑽を積めるのであれば…………それは、とても嬉しく思う』


「な、なるほど……わたしも、やってみます」


『「んふふふ」』



『エルフの狩人(スナイパー)……』『狙撃銃エルフ!』『森の中だと無敵なやつじゃん!』『FPEXに弓があれば変わったのかもしれん』『局長かっこいいとこみせて』『リアル狙撃なら得意そうなんだけどなぁ』『のわちゃんがんばえー!』



 いくら『上手くなりたい』と思っても……ひとりぼっちで延々とキルされ続けるとなれば、決して長続きはしないだろう。

 好きなだけ練習に付き合ってくれて、助言やなぐさめの言葉を掛けてくれて、そして一緒に楽しんでくれる。そんな仲間と一緒に遊べることができ、また多くの方々にあたたかい応援を送ってもらえることが……こんな幸せな環境でゲームを遊べることが、おれは非常に嬉しい。




「がんばります……!」


『オッケー! じゃあま……存分に死んでくか!!』


「ノワ、好きなだけ悲鳴上げていいからね。ていうかみんな欲してるからむしろ上げて」


「そんっ!? あげにゃいよ!!?」


「(爆笑)」


「むきーーーー!!」




 全ては……気心知れた間柄の子たちの応援に報い、みんなで楽しくゲームで遊ぶため。


 おれはウデマエを高めるべく、ほっぺをぺちんと叩いて気合を入れ直した。




『……ねぇのわっちゃん、そのカワイイムーブって、? やっぱ天然?』


「ホア!?」


「天然だね。わりと普段からこんなんだよ、この幼女」


『可愛い……』


『何それくそかわやん』


「な、っ……!? ヴゥーー!!」




 気にしない。絶対に、気にしない!

 おれは気合を入れたんだ。おれの鋼の意思は……こんなことで絶対に掻き乱されたりしない。





 そう思っていた時期が、おれにもありました。


 平常心を保つトレーニングも、おれにはたーーっくさん必要だということが……よーーーくわかりました。


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