第266話 【共演配信】敵の敵は



『ぐぁーーーー畜生ォーーーー!! ムッカつくゥーーーー!!!』


『心中察するが台バンはめよ! ええいはしたない!!』


「はっはっは……ねぇノワ、あいつらに阻害デバフ魔法とか掛けれない? エッグイやつ」


「心中お察しするけど呪詛吐かないで!! ようせいさんでしょ!!」






 突然だが……視聴者の皆様は『漁夫の利』という故事成語をご存じだろうか。

 昔々の中国、さまざまな国が生まれては滅んでいく戦国時代のお話なのだが……とある国が生存のために講じたお話が元になっているワードである。


 いわく……川辺で一羽の鳥がハマグリを食ってやろうと啄んでいたら、ハマグリが殻を閉じて鳥のクチバシを挟んで……まぁ、バシッと白羽取りしてしまったと。

 状況は完全に膠着状態、食うか食われるかの瀬戸際なわけで、当然両者とも生死をかけた戦いなわけで、全力なわけだな。

 そこで鳥が『へいボーイ、疲れるだろ。無駄な抵抗やめちまえよ』と囁くと、ハマグリも『お気遣い痛み入るぜブラザー。そっちこそこのままじゃ餓死しちまうぜ。もっとチョロい獲物探し行ったらどうだい』などと互いに一歩も退かず火花をバチバチ散らしていた、と。

 そこへ漁夫ぎょふ……まぁ漁師さんだな。漁師さんが通り掛かり、『なんか知らんが逃げずにじっとしてる鳥おったから捕まえたった。お、なんかハマグリも付いとった。ラッキー』と、鳥とハマグリ両方を美味しくかっ浚っていった。



 まぁつまりは……二つの勢力が争って両者疲弊していたところに、これまで体力を温存していた第三者勢力が介入し、双方を滅ぼして唯一勝者となること。これがいわゆる『漁夫の利を得る』っていう展開なわけで。

 このときの二つの勢力……さきの例え話でいうところの鳥とハマグリが、うにさんミルさんとラニちゃんだったわけで。



『うぜええええご丁寧に屈伸煽りしてくんじゃねええええ!! ぶっコロすぞあいっつぅぅぅぅぅ!!!』


「ウニちゃんウニちゃん、ボクも付き合うよ。……ふふふ、初めてだよ。ボクをここまで虚仮コケにしたお角猿サルさんは」


「ランダムマッチングだし仕返しの機会なんてそうそう訪れないから! あきらめなさい二人とも!」


『その通りよ。ええい幼児おさなごでもあるまいに! みっともなく喚き立てるでない!』


『「ぐぬぬぬぬぬ(ぎりぎりぎり)」』


『「こわ」』



 いい勝負だったところに水を差され、お楽しみを邪魔されて……双方チームの強者ふたりは、こうしてマジギレなされているわけでございます。

 いやぁね。悔しいって気持ちもわからないわけではないけど……しかしこれは楽しいゲーム、楽しい配信なのだ。あんまりギスギスしてほしくないし……なにより、かわいい顔が台無しだ。



「じゃ……じゃあ、次そういうヤンチャな子が出てきても対抗できるように……四人組クアッドにしませんか? 協力プレイしましょう協力プレイ!」


『!! う、うむ。余としても異存は無い。いかがか? ご両人』


『「ノワのわっちゃんがそう言うなら」』


「おっ、おう……」



 うにさんの腕前は配信アーカイブである程度は知っているつもりだったが……実際に味わってみるとその身のこなしはすさまじく、正直敵に回したくないっていうのが本音だったので、この展開は嬉しいところだったりする。

 ラニちゃんとうにさんが切り込み、ミルさんが状況を俯瞰しながら狙撃銃で援護を掛け、そしておれが応援する。……うむ、完璧な役割分担だ。なにもおかしなところはないな。


 雨降って地固まる、じゃないけど……あの屈伸煽りボーイのおかげで、こうしてチーム四人が強い意思のもと団結することができた。

 そういう意味では……彼にも感謝すべきなのかもしれないな。










「前言撤回だ! ぜったいにゆるさないからなバーカバーカ!!」


「ああっ! ノワがやられた!! 畜生誰が…………あいつだッ!!」


『出やがったあの屈伸煽り野郎! オラッね!!』


『うにさん口調!! あんま乱暴なのは!!』


「追うよウニちゃん! 先行する!」


『オーケイ深追いすんなよラニちゃん! あたしが回り込む』


「絶対に生かして帰さない……!」


『おうよ! ここでコロす!!』


「『こっわ』」



 移動速度の早いハンドガンに持ち替え、ラニは襲撃者に猛追を掛ける。牽制射撃を行いながら『疾走』アビリティを発動、距離を縮めつつも逃げる相手には揺さぶりを掛ける。

 こちらに背を向け一目散に逃走を計る相手はラニの様子を伺うことが出来ず、発砲音と周辺に着弾する音から単純に『後ろから撃たれている』と思い込むことだろう。狙いを絞らせないように細かくジグザグに逃げざるを得ず、そうなれば一直線の『疾走』に比べて多少なりとも速度は落ちる。


 もちろん、脇目も振らずに直進するラニは……他のプレイヤーにとっては、格好の獲物だろう。

 しかしそこはラニの背後へと続くプロ級プレイヤーが、また彼女から狙撃の手解きを受けた鋼の心臓アイアンハートの持ち主が、頭を出した先から逐一丁寧に処理していく。



「くッはっはっはっは! どこへ逃げようというのだね!?」


「その身体で迫力あるのすごくない?」



 『にじキャラ』ペアのバックアップを受け、ラニはなおも襲撃者との距離を縮める。ついに襲撃者の逃走先が戦闘エリア外縁部に阻まれ、さすがに振りきれないと判断した襲撃者は反転……迎え撃つ構えをとる。


 しかし敵とて、ここまでただただ闇雲に逃げていたわけではないらしく……ラニの右斜め後方、障害物の影より新たな敵影が姿を現し……



『オラァねェェ!!』


『うにさぁん!!?』



 ついに追い付いたうにさんの、怒りのアサルトライフル掃射を受け……一瞬で退場する羽目になった。



 ダウンしたプレイヤーは他生存者の視点を盗み見ることができるので、おれの画面では現在の戦況がよくわかる。

 今現在この周囲にいるプレイヤーは、ぜんぶで八名……うち敵方は三名、こちら側が三名。残る二名はやや遠く、この戦闘とは直接関わり無さそうな立ち位置だ。とりあえず置いといて良いだろう。

 ラニたち三人と、おれの仇たち三人……三対三の直接対決だ。



 この場を決戦の場と定め、まずラニが突っ込む。正面奥の遮蔽物に隠れる敵(おれを瞬殺したやつ)へ手榴弾ボムを投げ込み牽制しつつ……まずは横の建物の二階から狙う敵を片付けるべく、爆発音を背景に建物へと突っ込む。

 速度重視のピーキーなキャラクターに振り回されることなく、建物内を迅速にクリアリングしつつ階段を登り、ほんの五秒そこらで敵の潜む二階の部屋へ。これまた室内へと手榴弾ボムを投げ込み揺さぶりを掛け、爆発の直後部屋へと飛び込む。

 爆発から距離を取ろうと窓際へと寄っていた敵の胴体に、窓の外から撃ち込まれた狙撃銃の弾丸が突き刺さる。衝撃で敵が硬直したところへ、至近距離から容赦なくハンドガンが叩き込まれ……これで敵の残りは二人。


 しかしその直後……狙いづらい二階の室内を屋外から狙撃するため、障害物の上へとよじ登っていたミルさんが襲撃を受けて体力を全損。

 発砲された方角を察知したうにさんが処理に回り、正面からの撃ち合いの末になんとか競り勝つ。

 これで残る敵は一人、対するこちらは二人。ただしどちらも無傷とはいかず、当たりどころによっては一発退場してもおかしくない。



『出るよ!!』


「オーケー!!」



 敵とて黙って待っているわけも無く、まずは手負いのうにさんに狙いを定めたようだ。一方のうにさんも撤退は選ばず、削られた体力ながらあえて打って出る。

 それに応じるようにラニも飛び降り、こちらを見ていない敵の背後を狙うべく接近し……ようとしたところで、何かが転がるような音に反応し、強引に進路を真横へと変える。


 直後、ラニが踏み込もうとしていたまさにその地点で、こっそり投じられていた手榴弾ボムが炸裂する。

 ダメージを抑え目にした代わりに衝撃力を高めた手榴弾ボムによって、ラニは大きく吹き飛ばされる。体力はほとんど削られていないが、空いた距離と生じた隙は決して無視できるものではない。



「っ! くっそ……上手いなぁ!」


『ナっメんなァ!!』



 一時的に動きを封じられたラニを尻目に、敵は手負いのうにさんへと襲い掛かる。

 遠距離からの銃撃戦で互いに互いを削り合い、しかし体力の差は覆しがたく……ついにうにさんが皮一枚まで追い込まれる。


 ……しかし、あと一歩というところで敵が弾切れを起こしたらしい。物陰に隠れてリロードを行うが……その物陰へ、山なりに投じられた手榴弾ボムが投げ込まれる。

 炙り出された敵がうにさんの潜む物陰へ、リロードが完了した銃の狙いを向けた……そこへ。




「ッッしゃぁ当たったァ!!」


『ナイスやラニちゃん!!』



 胴体ど真ん中に突き刺さった一発……長射程・超衝撃の狙撃銃による一撃が敵の体力を削りきり、ついに戦闘不能ダウンへと追い込んだ。




 他のエリアではまだまだ生存プレイヤーも残っており、当然これで優勝が決まったわけでもない。


 しかしそれでも……激闘を制した二人、仮想配信者ユアキャスきってのゲーマーと元異世界勇者の妖精は…………





『は~~~~ざっこ。ざっっっこ! ねぇねぇ今どんな気持ち? 煽ってた相手に煽り返されるのってどんな気持ち??』


「不意打ちで初心者狩っていい気になってたら逆に狩られるのってどんな気持ち? ねぇねぇ! やり返されるのってどんな気持ち??」


『「………………」』




 倒した相手の……無抵抗に横たわるプレイヤーキャラの目の前で、執拗に反復横飛びを繰り返すという……たいへん大人おとなげない、モラルの低い行動に手を染めていたのだった。




『身内以外への不愉快な言動はマナー違反です! ……である!!』


「煽り行為ダメ絶対!! ゲームはたのしくプレイしましょう!!」



――――――――――――――――――――



※ゲームはたのしくプレイしましょう!!


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