第265話 【共演配信】さっそくの見せ場





 がんばるぞ!!!!!



――――――――――――――――――――




 生まれかわっ(てしまっ)たおれの身体は、体力こそまぁひかえめであるものの、生身での能力そのものは決して低くない。視覚エルフアイ聴覚エルフイヤーは人間種族の何倍も鋭敏だし、強化バフ魔法を纏えば運動能力だって桁外れ。

 つまるところ、高水準・高性能。様々な観点で『強い』といえる、才色兼備の美少女エルフなのだ。


 一般的な『人間』相手はもちろん……たとえ世界屈指のアスリート選手相手だろうと、本気を出せばぶっちぎりで下してしまえるだろう。



 まぁ、要するに……おれのスペックは『つよつよ』ってことなのだ。ふふん。







「ぐわーーーーー!!!」


「ああ! ノワがしんだ! この人でなし!!」


わりぃなのわっちゃん! 悲しいけどコレ対戦なのよね!』


『う、うにさん……大人げな…………大人げない奴よな』




 試合開始して早々、降下直後でもたもた武器を探していたおれのプレイヤーキャラに、早々に火器を拾得したうにさんが強襲を掛けてきた。

 敵ながら見事な一撃離脱によっておれは早々に退場させられ、おれの悲鳴と銃声を聞いたラニが駆け付けたときには時既に遅し……うにさんの操る速度特化キャラは、障害物の彼方へと消え去っていた。



 ……ということで。現在四人で仲良く楽しんでいるこのFPEX一人称視点STG……記念すべき(?)第一試合目。現在の対戦モードはペアでのサバイバル戦――五十名のプレイヤー、二十五組のペアが広大なフィールド内で撃ち合うモード――だ。

 降下地点がすぐ近くだったのも不運だし、そもそもうにさんたちがすぐ近くに降りたことに気づけなかった時点で、完全に後手に回ってしまっていたようだ。……まだまだ経験値が足りてないな!




「おのれウニちゃん……お友だちとて容赦しない! ノワのカタキ討たせて貰う!」


「ラニちゃん……」


「ノワをいじめてはずかししめて泣かせて良いのは……ボクだけだ!」


「ラニちゃん……?」



 ちょっと引っ掛かるところはあったが……きっときのせいだろう。ダウンし応援するしかできないおれが見つめる先、ラニは獅子奮迅の大暴れをしてみせる。

 戦闘中の他プレイヤーを背後から奇襲し、バッチリ狙い済ましての射撃によって一人目を瞬殺。もう一人に狙いを定めさせることなくジグザグちょこまかと走り回り、相手が障害物に引っ掛かり足を止めた一瞬を狙い、その頭部へと掃射。

 野良マッチングのプレイヤーたちを、瞬く間に二人キル。足を止めることなく走り続け……恐らくはうにさんペアを探して、さらに他のプレイヤーを蹴散らし続ける。



『ちょ、っ……キルログがエグいことになっとんのやけど!? こわ!!』


「はははは! ノワのカラダはボクのものだ!」


『か、カラダ……っ!?』


「ねえなにいってんのラニ!? ちょっとねえ!?」


「待っててねノワ! 勝利の栄光をキミに!」


「わたしもう死んで負けてるんだけど!!」


「大丈夫負けノワもかわいいよ! っていうか抵抗できないノワって正直ソソる」


「へ、変態だーーーー!!」



『なかよし』『忠犬ラニちゃん良い……』『そわそわきりえちゃん』『へんたいだー!!』『キリちゃん画面ガン見』『【¥4,545】やっぱエッチなことしたんですか』『のわちゃんのからだ……ウッ』『ラニちゃんが羨ましすぎる』『俺もノワちゃんのカラダ堪能したい』『仲良いなぁ』『刀郷くんしねどす』『きりえちゃんのみみの動き可愛すぎる』




 早々にダウンしたおれの画面は、相棒バディであるラニの背後からの視点を映している。おれのかたきを討つべく無双するラニの神プレイをまざまざと見せつけられ、そのすさまじさに呆気に取られることしかできない。さす勇。

 加えて……お隣に座るきりえちゃんが興味津々の様子で画面を覗き込んでいるので、そのかわいいお顔がおれのフェイスカメラにチラチラと映り込んでいるようだ。めっちゃかわいいが。あといいにおいするが。



 おれがいろんな意味でドキドキする試合運びだが……この後さらにドキドキが加速するというか、むしろ一周まわって意味不明な事態へと突き進んでいった。

 仲よさげなおれたちのやりとりを聞かされていたうにさんが、いきなりとんでもないことを言い始めたのだ。




『チキショー自慢かよ! 乳繰り合ってんじゃねェェ!!』


「うにさん!!!?」


「ハッ、掛かってきなよ! 臆病者にノワは抱かせない!!」


「ラニちゃん!!?!??」


『ミルええな!? 落ち着いて狙いや! ノワちゃんとイチャコラするチャンスやぞ!』


『任せよ。仕留める』


「ミルさん!?!????」



 待って、なんなのこの状況。いまのぼくには理解できない。


 なんの変哲もないタッグ戦のはずなんだけど、聞こえてくる会話内容がいちいち不穏だ。これではまるで、わたしおれ(のカラダ)を巡ってみんなが争っているみたいじゃないか。わたしのために争わないで、とか言っても良いところなのだろうか。

 ラニがおれ(とおれのカラダ)を好いてくれてるのはよく知ってるけど……うにさんとミルさんは一体どうしたというのだ。どうしてこうなった。しょうきにもどって。



『これはヒロイン』『のわちゃん完全に賞品でワロタ』『悪女かな』『のわちゃん争奪戦と聞いて』『チャンプなればのわちゃんとデートできるってマジ?』『わかめちゃんヒロインか』『野良マッチング狙うしかない』『デート権(ガタッ』『局長ついにメンバーじゃなく賞品に成り下がったか……』



「し、賞品呼ばわりはひどくない!? わたし局長ぞ!? いちばんえらいんですよ!!?」


「大丈夫だよノワ! ボクがノワの尊厳守るから!!」


『あたしだってちゃんと大事だいじにするし! 毎日お風呂だって一緒に入るし!』


『ぼ、っ…………余の伴侶となれば存分に甘やかしてくれようぞ! 生活に不自由はさせぬ!』


「なんてやつらだ! ノワの貞操が危ない! ボクが守護まもらねば!!」


「むしろラニが直接の原因だと思うんですが!? どうしてくれるんですか!! 責任とってほしいんですが!!」


「いいよ。結婚する?」


「アッだめだ! この子全然こたえてない!!」




 信じられるか……こいつらこんなやり取りしながら撃ちヤリ合ってるんだぜ。


 ついに接敵したラニとうにさん……遮蔽物に身を隠しながら中距離で打ち合う二人を、そのやや後方からミルさんのスナイパーライフルが睨んでいる。

 前衛のうにさんが動きを止め、ミルさんが仕留める作戦なのだろうが……予測しづらい挙動で絶えず動き回るラニに翻弄され、ミルさんの狙撃はなかなか標的を捉えきれない。

 そうこうしているうちに、前衛のうにさんもじわじわと体力を削られていく。ラニはこれまでに仕留めたプレイヤーからくすねた回復剤を多用し、二対一でありながらも互角以上に渡り合っているのだ。



 それにしても、すごい戦いだ。なんという白熱した一戦、これは名勝負と呼んで差し支えないのではなかろうか。おれは居ないけど。即死したけど。




 そんな名勝負だったが……やはりこのゲームは大人数での直接的対決ゲームだ。


 戦況の膠着状態は……ざんねんながら、そう長くは続かなかったのだ。





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