第245話 【途中迂回】にげられない!!
さてさて。
主目的であったグランドハープ(破損あり)の取引と、ついでのおためし車内泊という一大イベントを無事に堪能し終え、加えて強力な助っ人とのコネクションを得ることができた。
すてきな『助っ人』ことミルさんをおうちへお送りして、【
岩波市のお屋敷に拠点を移してからも、おれの前居である浪越市南区の物件はそのままだ。
市街地の拠点として色々と便利に使えそうだというのもあったし、なによりも戸籍上は
郵便とか各種通知なんかも
それに加えて……まるごと引っ越ししたスタジオスペースとは異なり、私室のほうはほとんどそのままだ。新居の私室も良い感じに整ったので、使えそうな家具類を少しずつ移しても良いかと思ったわけだ。
「じゃあモリアキ……いろいろとありがとな! 楽しかった!」
「コチラこそ! 旅行めっちゃ楽しかったすよ!」
「キリちゃんも気に入ったみたいだし、また行こうね! マネージャーさん!」
「っへへ…………楽しみにしてるっす!」
旧拠点ちかくのコインパーキングに車を停め、人目につかないその車内でモリアキ宅への【門】を開く。すっかりこのファンタジーな交通手段に慣れた彼は余裕さえ漂わせ、ラニに手を引かれて亜空間へと消えていった。
というわけで。おれたちもおうちに帰るにあたり、その前にパパッと寄り道を済ませてこようと思う。
戻ってきたラニに今度はおれの部屋行きの【門】を開いてもらい、
おれは【エルフ隠し】を纏った上で普通に入り口からマンションへ入り、集合ポストを確認したのちに部屋へと向かうつもりだ。
「じゃーね、ノワ」
「おう。すぐ行くー」
「おっ……お先に、失礼致しまする」
可愛い二人組の姿が消え、おれは『ひょいっ』と車から飛び出し鍵を掛ける。そのままぽてぽてと歩道を歩いて、ほんの数週間前までは毎日のように出入りしていたエントランスへ。
入り口すぐの集合ポストには、やはりというか郵便物がそこそこ溜まっていた。落とさないようにまとめて回収し、持ちやすいように整えてホールドする。
ひじでボタンを押してエレベーターの扉を開け、同じくひじで懐かしくもある階数ボタンを押す。がたがたと音を立てながら扉が開き、重力加速度を感じさせながら籠が上昇していき、やがて電子音と共に扉が開く。
エレベーターを出てから延びる廊下も、ずらりと並ぶ玄関扉も……引っ越ししてからそんなに長い期間経っていないはずなのに、どこか懐かしいような不思議な気分だ。
「ただいまー」
「おかえりー!」
「おっ、おかえりなさい……ませ」
自宅の鍵を使って、玄関扉を開けて……待ち構えていた家族二人にあいさつを投げ掛ける。当たり前のように返ってくる言葉に頬が緩むのを感じながら、靴を脱いで上がっていく。
殺風景になってしまったリビングスペースを素通りし、おれが長らく寝起きしていた私室へ。この部屋に置きっぱなしになっていた『使えそう』なモノを見繕い、ラニに運んでもらおうというのが、今回の寄り道の目的である。
「よしっ! じゃあ……始めよっか。じゃあまずは……テレビからおねがい!」
「てれび、てれび…………あの黒い硝子板だっけ?」
「そうそれ。今コンセントと配線引っこ抜くから…………いいよ! おねがい!」
「ほいほい! まかせたまえ!」
ラニの号令で開かれた亜空間に、やや大きめのテレビがずるりと引きずり込まれる。ついでとばかりにその下のテレビ台、およびゲーム機複数も合わせて仕舞って貰い、あっという間に大きなスペースが出現した。
時間にして……おれが『ただいま』してから、ざっと五分経ったかどうかといったタイミングだろうか。
さあ次は何を仕舞ってもらおうか……と考えていたおれの、長く尖ったチャーミングな耳に。
――――ぴーんぽーん。
「………………んん?」
「はえ?」
「えっと?」
おれにとっては聞きなれた……しかし、なぜか違和感を感じずにはいられない電子音が、唐突に届けられた。
ご近所付き合いがほぼ死滅しつつある昨今、来客なんてあるはずもない。
心当たりがあるとすれば宅配便かそのあたりだろうが……ここ最近この住所に注文した品なんて、残念ながら思い浮かばない。
――――ぴーんぽーん
「あっ…………はぁーい!」
来客が誰なのかはよくわからないが、あまり待たせるのも良くないだろう。記憶に無いだけで結構前に何か注文していたのかもしれないし、実家とか友達から何か小包でも送られたのかもしれない。
とにかく話は出てからだ。善良な市民であるおれは『居留守を使う』なんて考えが浮かぶこともなく、ぱたぱたとリビングを通過し玄関へと向かっていき…………このあたりで、確か鍵を掛けていなかったことを思い出した。
そんなおれの目の前で――足音か何かで人物の接近を察知したのだろうか――鍵の掛けられていない玄関扉があっさりと開かれ、ドアノブに手を伸ばしたままの変な体勢で固まるおれの目の前に…………
大柄で屈強な、揃いの服を着た男性。
それが…………三人。
油断や隙が一切ない、まるで獲物を凝視すかのように揺るがぬ視線で、おれのことを注視していた。
「………………なん、です……か?」
「
「…………!!?」
出迎えたおれの……どう見ても少女でしかないおれの姿を見て、家主であると一発で言い当てた男。
思わず後ずさり距離を取ろうとするおれに対し、自らの懐へと手を入れ何かを取り出そうとする男。
(ラニ! 出てこないで! それと【門】用意しといて!)
(!!? 解った)
どう見ても配達業者ではないその様相……どういう経緯でおれの本名が知られたのかはわからないが、とりあえずここは逃げるべきだと判断を下す。
そう……どう考えても逃げるべきだ。こんな明らかに強そうな男性三人に捕まってしまえば、いったい何をされることか。きっと有無を言わさず捕まって運ばれて、どこかへ連れて行かれて大変なことをされてしまうに違いない。きっとこのマンションのエントランス付近にはそういうための車が停められているだろうし、きっとこの三人以外にも仲間がいたり後で増えたりするんだろう。
そういう展開だって知っている。おれは詳しいんだ。薄い本で勉強したし。
そうとも……こんなお揃いの服を人数分きっちり揃え、揃いも揃って身体を鍛え上げ、物々しい装備を吊るしたベルトを締めて、パスケースのような手帳のような黒色の物体を懐から取り……出す……ひとたち…………なん…………て?
「浪越中央署の
「まヒャぉ゜…………ッッ!!?」
(ねえノワ!? このヒトってノワがヒャッカテンで迷惑かけたヒトじゃない!? ケーサツだっけ!?)
「そ、そえォれ゛……!!」
「あの……押し掛けた我々が言うのも難なのですが…………大丈夫ですか?」
「へぁ゜!? ひゃ、はひュ…………ふ、ッ、ふャい゜!!」
(いや大丈夫じゃないわこれ)
『苗』によって引き起こされた事件に首突っ込むときは、身元がバレないように隠蔽魔法を張り巡らせていたはずなのに……ほんの微かに残してしまっていた足跡から、ついにおれの住所を特定されてしまったらしい。
現代日本の捜査能力あっぱれと言うべきか、自分の見込みが甘かったと悔いるべきか。
住所と本名を特定され、こうして『隠蔽していない素顔』を見られたということは、この日本国内において逃げきることはほぼ不可能ということだ。いったいどうしてこんなことに。
住所と本名……そして顔。
住所と……本名と……顔。
…………そして、警察。……
…………あっ!!!!
「免許証!! 更新したせいか!!!!」
そうだよあほだよ!!!
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【悲報】えるふわかめちゃん補導される
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