第242話 【試行運用】帰るまでが遠足



 その後は特に大きなイベントが起きることもなく……順々に女の子たちぎゃるずが起きてきたので、順次カップ麺をふるまっていった。

 ちなみに霧衣きりえちゃん、ミルさん、ラニの順だ。……おれの可愛い相棒は、相変わらずのねぼすけさんのようだ。


 女の子たちがカップ麺をすすっている間に、おれたちはテキパキとテントを撤収していく。中身を片付けてポールを抜いてシート類を畳んで……モリアキと二人声を掛け合い、なかなかのハイペースで片付いた。

 ……もしかしたら、おれにはキャンプ設営・撤収の才能があるのかもしれない。


 朝ごはんを食べ終えたら、あとの予定は帰るだけだ。

 カップ麺のカラをゴミ袋に詰め込み、車の外にゴミが落ちてないかを再度確認し、忘れものが無いことを確かめ……各々が最終確認を済ませたならば、準備は万端だ。




「支払いは別に良いんすよね?」


「そうみたい。好きなタイミングで帰ってくれ、って」


「ほいほい。じゃあ行きますよー」


「「はぁーーい!」」


「「は……はあい!」」



 のっぴきならない事情により寝不足気味のおれに代わり、運転手ドライバーを買って出てくれたマネージャーさんことモリアキ。おれの眠気は疲労回復魔法をぶっ放せば問題ないのだが……ここであえて『オレももうちょい運転してみたいんで』と申し出てくれた彼の厚意に甘えることにする。……甘えてばっかだな。


 こうしておれたちは複合キャンプ場『加賀白山の森』を出発し、初めて臨んだおためし車中泊は、まずまず……というよりは、なかなか良好な結果を見ることとなった。

 いずれ行う(予定の)撮影を視野に入れての本番が、いまから楽しみだ。





「ミルさん時間は大丈夫ですか? 何時までに帰らなきゃ、とか」


「大丈夫です。予定は明日の夜の配信くらいしか入ってませんので」


「じゃあこのまま車で、港区までお送りしちゃって良いですか?」


「大丈夫です。……むしろ、すみません。ぼくなんかに色々と…………本当に色々と、気を使っていただいて」


「いえいえいえ! むしろおれたちの弱点をカバーしてくれる存在がいてくれるほうが、おれは嬉しいですし。……まぁそんな打算無しでも、ミルさんと知り合いになれて嬉しいですし」


「わ……わかめ、さん…………すみません、ちょっと本気で狙って良いですか? 性的に」


「おごッ!? お、お、おとっ、おとこわ……おことわりします!!」





 おれやラニ、そして霧衣きりえちゃんの三人組……この弱点と言えるのが、ずばり『人手が足りていない』というところだろう。

 あの『苗』を感知し、対処できる人員が限られる上、おれたちはよりにもよって『配信者』という仕事を選択してしまっている。仕事がら生配信などの外せない用事は発生してしまうし……仮に配信中に『苗』が出現した場合なんかは、一旦配信を終了して『苗』の対処に向かうしか無いわけだ。

 一度や二度なら……視聴者さんにも『仕方無い』と目を瞑って貰えるかもしれないが、何度も続くようならさすがに配信者としての品性を疑われてしまうかもしれない。


 しかしそんな中で、おれと同様に『苗』に対処できるミルさんと出会うことができ、おれが対処できないタイミングで『苗』が出現した場合には協力してもらえることとなったのだ。幸いにしてミルさんも応用の利きそうな異能を獲得しているようなので、大きな助けになってくれるだろう。

 もちろん、危険が無いとは言えないのだが……『若芽さんが戦ってるんだから』と気合充分に、おれたちへの協力を表明してくれた。

 まぁこの仕様上、おれたちとミルさん両方が生配信をしていたらアウトなのだが……既に告知してしまっている今週末のコラボは仕方ないとして、なるべく被せないように立ち回れば良いだろう。

 最悪の最悪……ラニ単独でに当たってもらうことも、不可能ではないみたいだし。



 まあそんなわけで。

 おれたちにはゲームふうに言うところの、心強いPTメンバーが仲間になったわけだ。






 石河いしかわ県を出発したおれたちは行きと同様、日本海側ルートを順調に南下し……途中福居ふくい県と志賀しが県でそれぞれサービスエリアでの小休憩、またおれとミルさんに【エルフ(等幻想人物ファンタジー)隠し(改訂版)】を掛けた上でのお昼休憩を挟み、神々見かがみ湾岸道路へと戻ってきた。

 その名の通り神々見かがみ湾に沿うように、浪越市を東西へ突っ切るように走るこの道を東進すれば、おれたちの住む岩波市まではあと少しなのだが……ミルさんのおうちがあるのは浪越市港区の埠頭近郊エリア、水族館近くの高層マンションとのこと。


 なので……ミルさんをお送りするためには、途中で一旦高速道路から降りる必要があるわけだな。




「ミルさんスマセン、この次の……『とびねずみ』? インターで降りれば良いんすか?」


「『飛烏とびくろ』はくだりしかインターがないので、その次の『浪港ろーこー中央』インターで降りていただいて……そのあとは『おおなぎ線』に沿ってしばらく進んでいただければ」


「ヨッシャまかせとけ! あとは水族館探して、スマホのナビでおれが案内するよ」


「『カラス』と『ネズミ』を読み間違う幼女にドヤ顔されても不安なんすけど」


「な……ッ!? じ、じゃあモリアキは読み間違えないっていうの!?」


「まぁ…………見慣れてますし。『烏森かすもり』のかすの字ですんで」


「……………………」





 指示通りに『浪港中央ろーこーちゅうおう』で降りて、一般道に入る。現在の暫定目的地である浪越港水族館は結構な規模の施設なので、そこへ目掛けてナビで進めばおっけーだろう。

 軽くディスられた(※思い込みです)鬱憤を晴らすかのように、おれは的確にナビゲーションを進めていく。するとどうだろう、おれの指示のおかげで(※思い込みです)われらがキャンピングカーはすいすいと市街地を進み、順調に水族館へと向かっていく。




「その先の……コンビニの角を曲がってください。踏切越えてすぐの側道を抜けるとつぎのかどが駅なので、そこを左に曲がってもらえば、すぐです」




 ミルさんに導かれるままにたどり着いたそこは、しっかりとしたエントランスを備える高級志向のタワーマンションだった。

 いちおう部屋ごとに駐車場も備わっていたようで(しかしミルさんは自家用車を持っていなかったらしく)……おれたちの車が、記念すべき初の駐車車両となったようだ。

 ミルさん(のおうちの駐車場)の初めて……もらっちゃいました。




「……本当に、ありがとうございました。……楽しかったです」


「いえいえいえ! こちらこそ!」


「それでさぁ、ミルちゃん……さっき言った『お願い』の件なんだけどさ? いや、ほんのちょっと。ボク一人だけでいいから。ほんの先っちょだけ。いやいち往復ピストンだけでも」


「ねえラニ何いってるの」


「……先っちょとか一往復は、ちょっとぼくもよくわかんないですけど……例の『マーカー』ですよね? 構いませんよ。……せっかくですし、皆さん上がっていきますか?」


「ヨッシャァ!!」


「ま、まじですか……! ありがとうございます!」


「ちょ、っ……良いんすか? オレも?」


「もちろんですよ。この二日間いっぱいお世話になりましたし」



 おれたちのおうちに帰る前に、せめて【座標指針マーカー】だけでもとお願いしていたおれたちに……まさかのまさか、ミルさんのおうち訪問の権利が降って湧いてきた。

 この身体になってから供給不足に喘いでいた、おれの『他人のお部屋見たい欲』……それが満たされるチャンスが現れたのだ。



 終了目前にこんな目玉イベントが出てくるなんて。この一泊二日に『うれしい』が盛りだくさんの、今回の金早かなざわ旅行。



 さすがに気分が高揚しますね!



 加賀だけに!!!


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