第238話 【試行運用】たのしい料理(易)
王者もすきですが、個人的には55番のゴリラ派です(よくわからない注釈)
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車内のギャレーやシャワーなんかで使う上水は、リアハッチ開けてすぐのところに収まっている上水タンクから引かれている。
そこの中身は今回でいえば、昨日のうちにおウチの外水栓から汲んでおいた水道水だ。当然日本国内の、しかも天竜川水系を水源とするわが家の水道水は、そのまま飲んで『うまい』と感じるくらいには上質なものだ。
であれば当然、お料理に使っても全く問題ない。今回はシャワーも使っていないので、お水はまだまだ余裕のよしこちゃんである。
というわけでまずは、大きめの鍋でお湯を沸かします。
底の深い寸胴鍋に水を張り、カセットコンロの五徳に乗せて
良い感じにお湯が沸いたら、ここへゴリラ印の魔法のパウチ(三キロ)を
「すー、はー…………よしっ。範囲指定、出力指定……ん。【
「……当たり前のように並列詠唱使うんだね。しかも料理に」
「んへ? おれまた何かやっちゃいました?」
「…………いやあ、なんでもないよ」
まあ、気にせずお料理の続きだ。
ぐつぐつと湯を沸かす鍋の周囲を大気断層で覆い、その大気層内部の圧力を鍋もろとも高めていく。
通常一気圧であれば水の沸点は摂氏百度、湯がそれ以上の温度に上がることなど無いのだが……【
これによってより高温での煮込みや湯煎調理が可能となり、調理時間を短縮させることができる。これがいわゆる『圧力鍋』における時短の理屈だ。
「んんー、温度は…………もう少しかな?」
「えっ!? 早くない!? もう!?」
「温度低めのトコはピンポイントで座標指定して【
「うーわ、『ちーと』だ『ちーと』。ボクは『カレー』ってよくわかんないけど、ノワがズルっこしてるのはわかるよ」
「がははは! これがおれの
続いて取り出したるは、スーパーマーケットにてこれまた人数分(※ただしラニ用の分はおれといっしょ)を購入しておいた、お総菜のロースカツ。
揚げられてから時間が経ってしまっており、心なしか衣が湿気ってしまっているようにも見える
四枚のロースカツを油切りバットに乗せ、【
高温の風を循環させて加熱調理を行うコンベクションオーブンを模倣したものだが、その効果のほどは狙い通り。余計な水分を吹き飛ばし、余剰な油分は振り落とし、衣をカリっと生まれ変わらせることに見事成功したのだ。すごいぞおれ。
「いや、あの……四重…………いや、温度計測とピンポイントの【加熱】合わせると……六重並列以上……?」
「なんか出来そうだったんで、やってみました。できました」
「お、おう」
美味しそうに甦ったロースカツは、四枚とも幅八ミリくらいにカットしていく。
そうしている間にもお鍋のほうが良い感じなので、ここで【
お次はほかほかに仕上がった小分けごはんの封をピリピリっと開け、カレー皿にこんもりとよそっていく。
モリアキは多めに、
ここまでくれば、あとは
車内は濃厚なカレーのいい香りで満たされ、嗅覚を刺激されたおれのおなかが、反射的に物欲しそうな音を立てはじめる。
こうしてほぼ全ての工程を終え、仕上げにゆで玉子の殻を剥いているところで、ギャレー横のスライドドアがガラリと開く。
「先輩ー! めっちゃいい匂いするんすけどー!!」
「いいとこに来たな! 今仕上がるぞー! テーブル用意してー!」
「ほいほーい!」
セカンドシートが食卓モードに姿を変えていく様を横目で見ながら……おれはごはんの上にカレーをいい感じにかけて、
「カレー準備できたよ! どーだうまそーだろ!!」
「「おおおおおお!!」」
「うーわ、おいしそう……キャベツも乗っかってるの、ちょっと変わってますね」
「わふ…………いいにおい、に……ございまする……」
わかめちゃん特製カレーが盛られたお皿が、順番に食卓へと並べられていき……四人分のスプーンとフォーク、そして調味用のソースとマヨネーズ、紙コップとよく冷えた緑茶のペットボトルが出揃った。
屋外作業を行っていた面々もそれぞれ手洗いを済ませ、広いとは言いがたいダイニングに座っていく。
おれとラニが、反転した運転席。モリアキが同じく反転した助手席部分に。
広々、とはお世辞にも言いがたいが……それでもこの『秘密基地』感は決して不快じゃない。ワクワクする『非日常』感を満喫するには、充分すぎる設備だろう。
「よし……じゃあ全員揃ったな! ソースとかマヨネーズとか、お好みで掛けていいやつだから。じゃあそういうわけで……美味しく頂きましょう。……乾杯!」
「「かんぱーい!!」」
「「か、かんぱい!」」
冷え冷えのお茶が注がれた紙コップが、音もなく打ち合わされ……楽しい旅行の楽しい夕食が、こうして始まった。
業務用レトルトを温め、トッピングを乗せただけのお手軽メニューだったとはいえ……そもそも環境からして楽しさに満ちているのだ。
肩肘張らずに済む面々との食事、みんな大好きなおいしいごはんとあらば、楽しくないハズが無かった。
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