第237話 【試行運用】たのしい設営(易)
「あっ出てきた。先輩ー生きてますかー」
「わあああんモリアキーーーー!!」
「お、おぉ…………どうしたんすか先輩、そんな幼女みたいに泣き叫んで」
「ちがうの! おれは幼女じゃない! 幼女じゃないの!!」
「………何があったんすか白谷さん」
「それはもう……可哀相なことだよ」
「?????」
……言いたくない。言えるわけがない。
日ごろからここに通っているマダムたちに目を付けられ『お嬢ちゃん可愛いわねぇ』『小さいのにお利口さんねぇ』などと明らかに女児相手の対応をされ、さらにたまたまお母さんとお風呂入りに来ていたリアル女児にもまるで同年代であるかのように絡まれ……おまけに密着されたり敏感な耳をさわられたり、しまいにはあんな恥ずかしい声を上げさせられただなんて。
さすがのラニも感じることがあったのか、珍しくおれに同情的な立場を表明してくれた。しかし一方で
自分から進んで(確固たる意志で)申し出てくれただけのことはあるのだろう。その手つきと手際は申し分なく……はっきりいって、これまたへんな声が出ちゃうほどには、非常に気持ちよかった。
なんでも聞くところによると……神使候補生たちの合宿所のようなところでは、下級生の子たちが上級生の子のお世話を色々としていたらしい。
背中を流したり、お着替えを手伝ったり、お荷物を持ったり、
ていうか、
……ともかく、そんな出来事はおれの心の奥底にしまっておこう。わざわざ吹聴する必要もあるまい。
そんなことよりも、おれには先ほどから……それこそおれたちが入浴しているときから、ずっと気にかかっていたことがあるのだ。
「おれはもう、なんていうか、たいへんな目にあったんだけど……ミルさんは大丈夫だったの? その……全裸の男性っていうか」
「あははははは…………まぁ、そうですね。さすがにまだちょっと、男性の……えっと、他人の
「でしょう? じゃあもしかして……お風呂入れなかった?」
「いえ、堪能させて頂きました。個室の貸切風呂が空いていたので、お金払ってそこを」
「ぇはェ!? な、ちょっ……ずるい!!」
「いや、ずるくはないでしょノワ。……へぇー、個室の貸切オフロ。そんなのがあったんだ?」
「あー。だからミルさんの姿、風呂場で見かけなかったんすね」
なるほど……貸切風呂。部外者が入ってこれない個室の時間貸し浴場ならば、確かに突飛な見た目であろうとも衆目を気にする必要はなくなるわけだ。
もと女性であるミルさんにとって、男性用浴室に突入するというのは……なんていうか、おれが味わったこと以上に敷居が高いことなのだろう。
なにせその容姿といったら、ぶっちゃけ控えめに言って美少女なのだ。これでち〇ち〇がついてるなんて信じられない。……本当についてるんだろうか。ちょっと目視もしくは接触確認したほうが良いんじゃないか。
まあともかく、そんな可愛らしい子が男性用の浴場に現れれば……仮に、仮に本当に
そう考えると……やはり個室のお風呂を利用できたのは幸運だっただろう。よかったねミルさん。ぶっちゃけおれも使いたかったけど。ずるいぞミルさん(※ずるくないです)。この恨みいつか晴らしてくれようぞ(※逆恨みです)。
「じゃあまあ……色々あったけど、みんなさっぱりできただろうし」
「そっすね。キャンプ場……サイト戻って、晩御飯の準備っすか」
「なんかノワが自信満々だったけど……本当に大丈夫?」
「お世話になってばっかですし、ぼくも手伝いますよ?」
「わたくしも、なにかお手伝いできることは……」
「ほんとに大丈夫だから! おれだって大丈夫だから!!」
まったくもう失礼な。みんなして心配性というか過保護なんだから。そんなにこのおれが……魔法放送局の敏腕局長が、頼りないとでもいうのだろうか。
やはりここらでひとつ……おれの有能っぷりを、改めてアピールしておいたほうが良いのかもしれない。
「サイト帰ったら、すぐに晩ごはんつくるわよー。みんな楽しみにしててねー!」
「「わあーい!!」」
「「わ、わぁい!」」
「ちなみにわかめちゃんママ、今日の晩御飯は何です?」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれました」
そう……みんなが気になるのは、今日の晩御飯の献立だろう。
おれが見事な手際でパパっと仕上げる、きょうのごはん。老若男女みんなだいすきなキャンプのごちそう。……それは。
「ずばり! カレーです!!」
「「おぉーーーー!!」」
「「…………?」」
盛大に歓声を上げるモリアキとミルさん。一方で『きょとん』としているのは、きりえちゃんとラニ。……なるほど、どうやら『カレー』というお料理を味わったことが無い模様。
まぁみてろって。いまにその不思議そうな顔を、ニッコリ笑顔に変えてやろうじゃないか。
というわけで戻ってきました、キャンプ場『加賀白山の森』。……まぁ車で五分のすぐ隣なんですけど。
あまり遅くなることもなく戻ってこられたので、エンジン音で眠りを妨げる恐れも無いだろう。おまけに幸運なことに、本日このオートキャンプサイトを利用するのはおれたちだけらしい。お隣さんもご近所さんもいないので、(常識の範囲内で)にぎやかな夜を過ごせそうである。……まぁそんな突飛なことはしないけど。
お得意のバックで車庫入れを行い、パーキングブレーキをカッチリと掛ける。これで明日の朝まで車を動かすことは無いので、キャンプ設営に取り掛かることができるのだ。
「ほいじゃあオレはテント広げてきますね」
「おう頼んだ。……あー、きりえちゃん……と、ミルさん。わるいけど、モリアキ手伝ってもらっていい?」
「了解です。任せてください、漫画とアニメで予習済ですから!」
「あー、『ふわきゃん△』ね。そりゃあ心強い。……あー、
「……!! は、はいっ! お任せくださいませ!」
「うん。じゃあおれはその間にゴハン作っとくから……みんな頼んだ!」
「「はいっ!!」」「っす!!」
こうして……テント(モリアキ用)設営要員三人を車外へと送り出し、おれはおれの分担作業へと取り掛かる。楽しい思い出にはおいしい食事が欠かせない。おれの責任は重大なのだ。
おもてなしの達人わかめちゃんの働きっぷりを、とくとご覧いただこうではないか。
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