第235話 【北陸旅程】ノルマ達成ですので




 おれが音楽教室の仔細を伺っている間に、他のみんなで作業を完了させてくれたらしい。

 山代先生のお婿さん(仮)と息子さん(仮)とミルさんの手を借り、モリアキと霧衣きりえちゃんの頑張りもあって、無事に梱包済みグランドハープの積込が完了した。


 高さが一八〇センチと室内高ギリギリなので少々不安だったのだが……どうやら専用のクッションカバーを掛けて梱包していれば横にしても大丈夫だったらしく、ベッドモードにすれば全面クッションにできる後部座席はむしろ好都合だったようだ。

 ……まぁ結局、最終的には【蔵】に仕舞うんだけどね。



 というわけで、無事にグランドハープのお取り引きは完了した。音楽教室に関してはいちおう皆に情報共有をしておきたいので、今夜あたり話してみようと思う。

 先生には『前向きに検討したい、近いうちにご連絡します』と伝えておいたので、そっちは大丈夫だろう。REINの連絡先もバッチリ交換させていただいた。

 朗らかな笑顔で見送ってくれたお婿さん(仮)と、どう見ても霧衣きりえちゃんに興味津々な様子だった息子さん(仮)に見送られ、おれたちは金早かなざわ市某所の高級住宅街を後にした。


 ここからは……完全に『おたのしみ』の時間である。




「頼むぞ助手! おれたちをキャンプ場へ導いてくれ!」


「了解っす! お任せ下さい! ……まぁナビがあれば安心っすよ」


「それな」



 前もって予約してあったオートキャンプ場までは、ここからおよそ一時間弱。管理棟の受付時間内に到着しなきゃならないので、あまり寄り道する余裕は無さそうだ。


 とはいえ夕食の買い出しもしなきゃならないので、時間制限やペース配分など気を配らなければならないことは意外と多い。

 しかしこの慌ただしさも、旅行と思えば楽しいものだ。今回は残念ながらそれほど仕込みはできなかったが、本格的なキャンプ飯やBBQなんかにも改めて挑戦してみたい。霧衣きりえちゃんもそのへん乗り気のようだし。

 ……それに。



「おれから持ちかけといて、なんですが……ミルさん、本当に良いんですか? おれたちとしては嬉しいんですけど」


「……ご迷惑でなければ、ご一緒させて頂きたい……です。……もちろん食材費とか高速代とか、掛かった費用はお支払しますし」


「いえ、それはオレら気にしてないんすけど……ご覧の通りオレ、男ですし……先輩と白谷さんは見た目美少女っすけど、中身は元・男ですし……不安だったりしないのかなぁって」


「お気遣い、ありがとうございます。でも今はぼくも男ですし……むしろ、良いんですか? ぼくが居たら……若芽ちゃんの貞操が危ないかもしれませんよ?」


「は、ははは……まままたまたごごご冗談を」


「……それに、本音を言うと……およそ一ヶ月ぶりの外出なので。……気を許せる人たちと、少しでも時間を共有したいなぁ、って」


「………………ミル、さん」



 そうだ、彼女……もとい彼は、その身に起きた非現実な……今までの人生を文字通りぶち壊されるような出来事に直面し、このおよそ一ヶ月もの間どうすることもできずに引きこもるしかなかった。

 うぬぼれるわけじゃないが、おれというの存在によって安心感を得てくれた彼の、今日は久しぶりとなる外出イベントなのだ。


 その切っ掛けこそ、偶然と言って差し支えない事件、しかもあの『苗』由来の騒動とあっては喜ぶことは出来ないのだが……しかし結果は結果だ。こうして新しい同類の存在、しかも味方と出会うことが出来たのだ。

 ミルさんが望んでくれるのなら、おれは招待主ホストとして全力でをする義務がある。



「オレは歓迎するっすよ! まぁ『秘策』もありますし! ミルクさんが乗り気なら、何とかしましょう。なんてったってミルク・イシェルさんですもん!」


「そりゃおれも大大大歓迎だけど! モリアキ、わかってるだろうけど撮影はNGよ! ちゃんと事務所にじキャラさん通さないと!」


「プライベートな分は……こっそりなら、大丈夫でしょ。ぼくもナイショにしておくので」


「ヤッター! ミルさんやさしい!!」


「…………ふふっ」



 とても賑やかで華やかな車内はその後も盛り上がりを見せ、おれはその輪の中にいまいち入れないことを嘆きながらも、職務を全うすべく車を走らせていった。

 運転手はつらいよ(つらくない)。









 ……と、いうことで。

 途中の買い出しを挟み、おれたち『わかめちゃんご一行様』は晴れて目的地へと到着した。


 ここ『加賀白山の森』は、雄大な自然を満喫できる複合キャンプサイトとのこと。区画分けされ整地されたキャンプサイトやコテージ、BBQ用のオープンスペースや炊事場などの各種施設が整えられ、その中にはおれが求める『オートキャンプサイト』も当然備わっている。

 これまた区画分けされたオートサイトには、そのまま車両を乗り入れることができる。外部電源コンセントの使用もできるのでバッテリーの消耗を気にすることなく電気設備が使用でき、区画内であれば(周囲の迷惑にならない範囲で)車両外での活動も可能。タープを張ってアウトドアリビングを設営したり、なんかもできるわけだな。


 チェックインと支払い自体は管理棟の営業時間内に済ませることが出来たので、これより後は出入り自由らしい。

 改めて近所のスーパーに買い出しにいくことも、近くの温泉施設へひとっ風呂浴びに出掛けることも可能なので、いろいろと楽しみの幅も広がることだろう。




 ……よって。

 何の気兼ねもなくなったので。



「温泉いくか!!」


「「イェーーーーイ!!」」


「「い、いぇーーーい!」」




 夕飯の目処は既についているし、おれの技量なら素早く準備することができる。よって食事は後回しでも問題ない。なにより食べたばかりでお風呂に入るのは、ちょっとよくないと聞いたことがある。

 おふろに行くかどうかの決を採ったところ……賛成が二票、そして圧倒的賛成が二票。よって民主主義の原則にのっとり、これから再び車を走らせることがめでたく決定した。



 やっぱ旅といえば……温泉だよな!(※個人の感想です)


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