第232話 【途中離脱】拉致のち監禁
駐車場の片隅に停められたハイエースの車内にて、異様な一団が顔を突き合わせていた。
「えー、っと…………
「…………はい」
「えっと……なんていうか…………心中お察しします」
「…………恐縮です」
「
「なーるほど……そういうことも有り得るのか……」
おれたちが強襲を仕掛け、事情聴取のためにと拉致った『ミルク・イシェル』さんそのままの容姿の人物は……やはりというか『にじキャラ』
おれやあの二人と同様『種』によって身体構造を書き換えられ、おれと同様ファンタジーな容姿を得てしまった人物。
ただ、予想外といえば予想外だったのは……
「ごめんなさい。……女の子、だったんですね」
「……『女の子』って程、可愛げある歳じゃ無かったですけどね。……いい歳した大人です。……いえ……でした」
あまりこういうことを表現するのは、デリカシーに欠けるのかもしれないが……少女のようなアバターと少女のような声をもつミルクさんの
詳しい話を聞くところによると……
企業所属の
……まあ、そっか。機材と回線さえあれば在宅で
あとは奇しくも転生直後のおれがそうだったように、通販や出前を駆使して
誰にも相談できないまま、新たな行動を起こせないまま、葛藤の中で日々を過ごしていたらしいのだが……今回は
その後の展開は、幸いにもおれの予測した通りだった。
聞けば今回の『保持者』は、まだ小さな女の子。
なるほど……つまり『学校にいきたくない』『台風で学校が休みになればいいのに』とか、そういう類いの
……うん。わからんでもない。
「その……『民の声が聞こえる』っていうのが、ミルクさ…………えっと、
「『ミルク』のほう……もしくは『ミル』で、お願いします。……もう戻れないでしょうし」
「っ、………………では、ミルさんで。ミルさんが授かった異能……その、なんか『スキル』的なやつは……それこそ『
「概ねその通りですけど……正確には、もう少し『支配』の規模が大きいみたいです」
「…………と、いうと?」
水底の世界の領主、イシェル家当主(という設定)である『ミルク・イシェル』に相応しい、堂々たるその異能。
民の声に耳を傾け心を通わせるだけでなく、領主の威光が及ぶ範囲は更に広いとのことらしく。
「…………簡単にいうと……『水魔法』って感じですね」
「みずま…………えっ?」
「ですので、『水魔法』。ふわふわ浮かべたり、形を変えたり、投げつけたり。小説とか漫画とかで出てくる『水使い』系キャラの真似事なら、大抵できると思います。……
「ぇえ……つよつよじゃ…………あっ、いえ、えっと…………めっちゃすごいじゃないですか」
イルカやシャチなどといった海洋哺乳類から、マイワシやカツオやクマノミなどといった魚類、果てはクラゲやタコやヒトデなどのよくわかんない類に至るまで……知性や知能に差はあれど、彼ら彼女らの『伝えよう』とする意思を『
またそれと同時に……流水・貯水問わず、一度触れて
中でも特徴的なのが、前者の『水棲生物の意思が聞ける』という点だろう。
そもそも今回ミルさんが『苗』の存在を感知できたのが、水族館で飼育されている生物たちの声が聞こえたからだという。
もともと水族館近くのマンションに住んでいたらしく、民の声そのものは転生直後から度々聞こえてはいたようだが……いつにもまして切迫した感情が届くにつれて、自身の身に起こったような『異常事態』が起こったのではないかと考えたらしい。
そういえば……イルカは下手すりゃ
エコーとかソナーとかよくわかんないけど、
ともあれ、これでこちらの疑問は解決できた。
『苗』が発芽した理由、『苗』の反応が消えた理由。そしてどんな背景・どんなチカラが、それを可能としたのか。
今回の『苗』を鎮圧できたのも、被害が大きくならずに済んだのも……つまりは、ミルさんのおかげなのだ。
「ありがとうございます、ミルさん。おかげで助かりました」
「い、いえ! ぼくなんかがお役に立てたのなら……幸いです」
「……せっかくですので、少しお話でもどうでしょう。お時間大丈夫ですか? ……色々とお答えできると思いますよ」
「…………!!」
恐らく……ミルさんにとっては、初めてその姿を晒せる相手だったのだろう。その身に起こった異常事態に詳しいとなれば、尚のこと訊きたいことは多いはずだ。
受けた恩に応える、というほど大それたものじゃないが……おれの経験が役に立つのなら、喜んでお話させてもらおうじゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます