第230話 【途中離脱】異常気象ってやつか
「モリアキ運転代わって! 早く! はやぐがわっでェェ!!」
「いーやいやいやいやいや!! そんな無茶言わんで下さいよ!!」
「わっ、わっ、わっ、わたくしが! わたくしが代わりに!」
「ありがたいけどきりえちゃん未成年だし! 免許証ないでしょ(多分)! 気持ちは嬉しいけど危ないから座って!」
「わ、わううう……」
ドタバタと非常にあわただしい空気に満たされた車内……交通量も増えてきた高速道路とあっては、止まらず走り続けるしかない(※交通量が少なくても止まっちゃダメです)。
どうにかして運転を代わってほしいおれと、運転を代わりたいけど停車しないことにはどうしようもないモリアキと、どうにかおれたちの役に立とうとしてくれてる
おれたちのおうちの最寄りインターから高速に乗り、ウキウキ気分でとりあえず西に進む。
せっかくなので景色のいい道を走りたかったのと、あと
というわけで。まずは浪越市を横切るように、都市高速をひた進む。勢いを増しつつある生憎の雨模様だが、雨粒が車に触れる直前に魔法で弾いていたので雨音が響くこともない。
各々くつろいだり、冷蔵庫でひえひえの飲み物を飲んだり、他愛のないおしゃべりに興じていたりと……車内はとても平穏なものだった。
その平穏が砕かれるのは……都市高速から外れ、琵琶湖方面へと進んでいたときだ。
何度目かわからないサービスエリアを『まだ疲れてないし』とスルーした直後、ラニ(に貸したまま)のりんご印タブレットから、REINの着信音が鳴り響いた。
発信者は『鶴城技研部・清雪』……おれたちが厚意に甘えて一号羅針盤の管理をお願いしている、
そんなセイセツさんからの、急を要する音声通話ともなれば……内容は言うまでもないだろう。
「モリアキごめん地図開いて! スマホ地図でいいから!」
「り、了解っす!」
「ラニ、おうちの……二号羅針盤の針は!?」
「今繋いで……映った。うん、二八二度。動いてるね」
「先輩のおうちがここで……二八二、と。白谷さん、セイセツさんは何て?」
「一号は二一八度だって。鶴城神宮から」
「だいたいこっちの方で……浪越港水族館のあたりっすかね?」
「港区!? そっち【
……というわけで、現在『どうしよう』『やばいじゃん』と大慌ての真っ最中なのだ。
反応のあった地点に駆けつけようにも、時速一〇〇キロで爆走する車内で【門】を開くことはできない。
停車中ならまだしも、あれは開く座標をしっかり指定してやらなければならない魔法であるらしい。不安定な車内で開こうとすれば、壁や周囲の構造物を削り取ってしまう恐れもあるし、最悪キャンピングカーそのものを収納されてしまいかねない……とのことだ。
そうなるとおれたちは、時速一〇〇キロで路面に放り出されることになる。つまりは死ぬ。
それを抜きにしても、悲しいかな
ラニには悪いが窓から飛び出てもらって、一人で現場へ急行してもらおうかとも考えたのだが……そもそも
一般道ならまだしも……そしておれが後部座席に座っていたならまだしも、運転手だったのが運の尽きだ。
反応を検知した現場へ向かいたいのは山々だが、しかし今は身動きが取れない。結局次のサービスエリアに到着するまで、おれたちは出撃を見合わせねばならなかった。
そしてこのことが、おれたちの置かれる環境を大きく変化させてしまう出来事……その一因となってしまったのだ。
二つの羅針盤が指し示した先、つまり『苗』の活動地点予測として目をつけたランドマークこそ
到着まで時間が掛かってしまったこともあり、大きな誤差があることを織り込んだ上で、おれたちは肉眼での周辺索敵を余儀なくされたのだった。
とはいえ、雨はどんどん勢いを増していく。それどころか風まで強くなってきており、まるで台風か何かかと錯覚してしまうほど。
魔法による耐風姿勢制御と対水滴防護を行っていなければ、あっという間に吹っ飛ばされてしまうことだろう。
(視界悪いよぉ!! 雨強いよぉ!!)
(どこだ『苗』……この悪天候だし、やっぱ建物の中か!?)
(有り得る。けど…………やっぱ水族館の中かなぁ? っていうかそもそも、どんな『願い』を発現させたのかも解らない)
(それね。やっぱ肉眼で『苗』を確認するしかない)
(……っし。おれ中探してくる。ラニは)
(おっけー、周辺探してくるよ。気を付けてね相棒)
(無理すんなよ相棒)
耐風雨魔法を展開したラニと別れ、おれは浪越港水族館へ向けて下降していく。
入場ゲートは狭く、当然係員と監視カメラの目があるが、全力で隠蔽魔法を展開すれば掻い潜れそうだ……と思ったところで、なにも正面から入る必要は無いと気付く。
中庭部分にある大型の屋外プール……晴れた日にはイルカショーとかが行われそうなスペースの観覧席へと降下し、改めて魔法で姿をくらませてから突入する。
(……騒ぎになってない。ハズレか?)
(他の屋敷も特に騒ぎになってないよ)
(そんなバカな。この悪天候で外にいるわけ無いだろうし)
(ノワ、『二号』は? まだ見れる?)
館内を静かに疾走しながら、大丈夫だと思うが人々と監視カメラの視線から外れた物陰へと滑り込む。
スマホを取りだし『見守りカメラ』を立ち上げ自宅の様子を確認すると、そこには先程と同じ角度を示す羅針盤の姿。
つまり、『苗』はまだ健在……だったのだ。
(当たり前だけど、まだ二八二度のまま。さっきと……同……じ? えっ!?)
(ちょ、ちょっ!? ノワ! 外が!)
(ねえラニ! ねえラニ針! 針が!)
(
(
(えっ!!?!??)
(えっ!???!?)
突然動いた羅針盤の針……それはつまり、先程まで検知していた『苗』が何らかの事情により消失し、
外の暴風雨が突然終息した(らしい)ことと併せ、どうやらあの荒天が『願い』だったのだろうか。
……いや、それは別に良い。良くないが別に良い。問題はそこじゃない。
おれ以外の何者が『苗』を駆除したのか。今気にすべきはそちらだろう。
言葉を失い、しばし立ち尽くすおれ。当然動いてなかったし、物音も立ててなかったはずなのに。
……それなのに。
「――――
「!!?」
物陰に隠れ、魔法で姿を滲ませ、物音さえも立てずに思考していたおれを射抜くように。
この場には全くもってそぐわない、存在すること自体が全くもって有り得ない……しかしおれにとっては見覚えのある姿が、揺らぐことなくこちらを凝視していた。
乳白色の長い髪が、ふわりと翻り。
灰白色の大きな瞳と、目があった。
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