第226話 【納車記念】たのしい共同作業



 リビングモードの内装設備とレイアウトを一通り撮影して、霧衣きりえちゃんをお席に座らせてコメントをいただいて。

 その後内装ギミックを操作して就寝モードに変形させて、おれが撮影係なのを良いことにこれまた霧衣きりえちゃんを横にならせて、とどめとばかりに(万が一にもお下着様が映らないよう気を配った上で)これまたご感想をお聞きする。


 当然こういった設備を使った経験がない霧衣ちゃんは、やはり非常に良い反応を示してくれた。箱入りを強いられていた彼女は当然、キャンプやアウトドアなんてやったことが無かったらしいが……やはりもともと好奇心旺盛な性格だったらしく、おれが度々入れていた説明に対して目を輝かせて聞き入っていた。

 多少は『れぽーたー』としてのお仕事に慣れてきたのかもしれないが、生まれ(変わっ)たときからプロ級の技量を身に付けている(設定の)おれに比べると、当然まだまだ言動の端々が初々しく……そこがまた非常にかわいらしい。



「きゃんぷ……と言うのですか? おそとで眠るというのは、とてもわくわくなものでございまする!」


「キャンピングカーあるととても楽なんですが……そのうちテントとかタープを張ってみたり、ハンモック掛けてみたり、焚き火とかでお料理もしてみたいですね!」


「わ、わう…………よくわかりませぬが、楽しそうでございまする」


「よくわからないのに!?」


「…………わ、若芽様が……楽しそうでございましたゆえ」


「アッ!! もっ、フォ…………やば可愛かわ



 ヨシ決めたいつかキャンプしよう。タープも焚き火台もハンモックも買おう。おれは絶対この可愛い子とキャンプに行くんだ。

 そう強く心に決めながら密かに悶絶しながら、おれは撮るべき画をカメラに収めていった。








 やがて、こちらの撮影は順調に片が付く。

 余計なところを削って省いて、一方でオープニングとエンディングとアイキャッチなんかを追加すれば……動画にしてみれば、おそらく二十分程になるだろうか。

 自分で編集を仕上げるか、それとも鳥神とりがみさんのところに依頼するのか。そのあたりはまだ決めていないが、先日預けた動画を確認してから判断するとしよう。


 なにしろ、明日からは一泊二日で遠出の予定だ。

 ちゃんとした目的があるので完全に遊びというわけではないのだが、交通手段がキャンピングカーともなればワクワクもひとしおだろう。



「では……わたくしは夕餉ゆうげの用意に行って参りまする」


「ん……おねがいね、霧衣きりえちゃん。モリアキとテグリさんもいるから、ちょっと大変かもしれないから……お手伝いが必要だったら言ってね」


「はいっ。頼らせていただきまする」



 担当分の撮影が無事完了し、霧衣きりえちゃんは夕食の準備を始めるべくおうちへと戻っていく。今夜のごはんはモリアキも一緒なので、今から楽しみだ。


 買い出し組はもうすぐ戻ってくるだろうとアタリをつけ、おれは今できる翌日の準備に取りかかる。

 まずは後部ハッチを開けて常設ベッド下の収納庫を開き、給電ケーブルを取り出す。車両外部に設けられたソケットにケーブルを差し込み、もう一方のプラグをおうちの外部電源コンセントへ……ブスッと。

 内蔵インバーターだかコンバーターだかインベーダーだかよくわかんないが……とにかくこれでサブバッテリーに充電が始まり、車内灯や冷蔵庫の電源として使えるようになるのだ。


 バッテリーのほうは、あとは放っておけば大丈夫だろう。つぎは目的地のセットを行っておこうと思う。

 スマホを取りだしてメルオクオークションアプリを開き、取引相手とのコンタクト履歴を呼び出して確認する。

 今回の取引は扱うモノがモノであるのと、また出品者の方に直接お目通り願いたかったこともあり、郵送ではなく直接受け取りに伺う運びとなっているのだ。



「えーっと……いしかわ県……かなざわ、は…………あったあった」



 車載ナビに目的地住所を入力し、予測時間と経路を確認。取り得る選択肢はどうやら二つ。

 ひとつは、いうなれば『山ルート』。この岩波市からほぼ真北へ突き進むルートで、所要時間は休憩を加味して五時間程度。いちおう最短ルートではあるが山間部を進んでいくため、高速道路でさえもと細かく蛇行している。

 そしてもうひとつは……『海ルート』とでも表現するのが妥当だろうか。まずは北西方向へ向かい、志賀しが県と福居ふくい県を経由し日本海側を北上していくルート。道のりは割と長くなるが、いっぽう時間は意外と増えないらしい。せいぜいプラス二十分程度のようだ。


 山ルートか、海ルート。

 どちらを選択しても最終的には変わらないのだが、やはりここは皆の意見を聞くべきだろう。旅の打ち合わせって楽しいし。

 とりあえず、目的地を仮セットしておく。これで明日『目的地履歴』から選び直せるので、わざわざ改めて住所を入力する手間も無いだろう。




「ノワー! お待たせー!」


「せんぱーい戻りましたー」


「んおおー! おかえりー!」



 車のリアがわ、おうちの玄関がある方向から、シオンモールへ買い出しにいってくれていた二人の声が近付いてくる。

 撮影に少なからず時間がかかっていたとはいえ、この間で買い出しを済ませてくれた手際の良さは『さすが』というべきだろう。



「メモにあったブツは一通り揃えて、白谷さんに仕舞って貰ってます」


「ありがとラニ。じゃあ……ごはんまでまだ時間あるし、ごめんだけど出してもらって良い?」


「オッケー。じゃあこの……『タタミ』の上に並べてくね」



 駐車している車のすぐ隣、十畳和室の片方に、二人に調達してもらった品々が次から次へと並べられていく。その中から必要なものをピックアップし、キャンピングカー車内各所の収納へ納めていくのが、今から行う作業である。



 包丁とまな板、割れないプラ製の食器セットが四人分、アウトドア用カセットガスコンロと、同調理器具セットとケトル、除菌ウェットティッシュに洗剤とスポンジ、そして調味料各種。

 とはいえ正直いって、この車内キッチンで料理をすることはほぼ無いだろう。今日日きょうびよっぽどの秘境でもなければコンビニやスーパーで食事を調達できるし、冷蔵庫さえあれば保存も問題ない。アウトドア用コンロやIHヒーターを持ち込めば、熱源を利用した調理も出来なくは無いが、この車の装備としては水栓とシンクのみのコンパクトギャレーなのだ。

 用途としては、せいぜいお茶やコーヒーを沸かす程度だと思うので……つまりはこれで充分だろう。


 他にとりいそぎ必要なモノとして、冬用の寝袋シュラフが三つとフリース毛布が三枚。後部の常設ベッド部分へと投げ込んでおく。

 寝袋シュラフは化繊なのでそこまでコンパクトには出来ないが、車内で使う分には問題ない。価格が安く、手入れもしやすいのが化繊のメリットだ。


 そして忘れちゃならない……運転中にラニちゃんが転がっていかないための、座席兼ベッドの素材。こちらは深みのあるプラカゴに大判タオルを畳んで敷いて用立てようと考えている。プラカゴ自体を壁面の棚なんかに固定すれば、中身ラニが転がってくこともないだろう。

 いちおう『本人が気に入ったやつを買ったげて』と指示はしておいたので……きっと直接触って身体をうずめて、『これだ』というお気に入りを選んだことと思う。




「いやぁー……高級なの選んでましたよ白谷さん」


「ぇえ、お目が高いこと」


「そりゃね。直接ボクの身体を預けるわけだし」


「アッふしぎ!! ラニちゃんが言うとエッチに聞こえる!!」


「ホントだ!! ふしぎっすね!!」


「なんなのさ二人とも!!」



 ともあれ、これで明日に向けて車の準備は整った。

 遠足の前日がいちばんワクワクする、とはよく言ったもので……おれにとって楽しみで楽しみで仕方ない旅行とその前夜が、いよいよ始まろうとしているのだ。



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