第221話 【祝日配信】容疑者不在の事件



 ……はい。それでは、落ち着いて状況を整理してみましょう。



 まず最初に……うにさん始め『にじキャラ』のお三方全員から、改めて『アガらないようにする』という意思確認をとることができた。ここまでは良い。

 だがこの『アガらないようにする』というのが、これまたなかなか曲者であったらしく……というのも、彼ら彼女らは幸か不幸か、普段からそれなりの頻度で麻雀配信を行っていた『熟練者』であったためだ。


 常日頃から『いかにして効率よくアガるか』『いかにして他者より早く役を揃えるか』に思考を最適化させていたお三方にとって……普段慣れた打ち方とはといえる『アガらないようにする』打ち方を続けることは、少なくない集中力を消費するものだったらしい。



 そのため……各々が自分の手牌を『アガらないようにする』よう整えることに集中してしまい――しかも絶対に失敗アガリは許されない一局であったこともあり――おれの配信画面、要するに霧衣きりえちゃんの手牌を、あまり気にする余裕が無かった。


 というか、ほかでもないおれ自身が、



のわめでぃあ局長:最後はわたしが自分の力で劇的勝利を納めてみせます!

のわめでぃあ局長:皆さんはわたしたちのことをきにせず、あがらないことだけきをつけてください!!



 などと啖呵を切ってしまったのが、何よりも重大なだったと言えるだろう。




 ……そう、だ。


 注目の南四局オーラス、気になるその結果はまさかのノーテン。アガリまで最短でもあと二枚以上揃える必要がある、要するに『ダメダメ手牌』といったところ。

 やめときゃ良いのに有終の美を飾ろうと息巻き、配信映えする役を愚かにも狙い、引きの弱さに危機感を抱いたときには既に手遅れとなっていた……あわれなおれの夢の跡だ。



 ちなみにですね、今回の特設脱衣麻雀のルールなんですが……失点した際に一枚剥かれるって形なんですよね。


 そこで更なる追加情報としましてですね、なんとなんと……うにさんと刀郷さん、お二方がテンパイ――アガリまであと一枚まで迫った手牌――になっていましてですね。


 更に更に追記事項としましては……ノーテンの人は、テンパイの人に一〇〇〇点を献上しなくてはならなくてですね。

 ついでになんですが……この最終局、よりにもよってノーテンだったおれが親だったんですよね。




 まぁ散々もったいつけましたが、要するになんですわ、これ。





「あわわわわはわわわわ」


「どうどう霧衣きりえちゃんどうどう」



【4_SE】村崎うに:ほんとごめん!!!!

【2_SD】刀郷剣治:まじでごめん!!!!

【1_FN】ハデス:やっぱ警告すべきだったか……

【2_SD】刀郷剣治:うわあああああああ!!

【4_SE】村崎うに:やべえええええええ!!



 完全に錯乱してしまっている霧衣きりえちゃんと、こちらも完全に混乱している談合チャット……いや、仕方ない。欲をかいて失敗したのは誰のでもなく、おれの責任だ。

 うにさんと刀郷さんにしたって、まさかおれがノーテンだとは思いもしなかったのだろう。特急券白發中でもなんでも使ってアガると思っていたのだろう。見映えする役に固執してチャンスを逃したおれの采配が、とにもかくにも全部悪い。


 おれが全て悪いのだから……おれはその罰を、慎んで受けなければならない。





『ノーテンwwwwwwww』『まさかのノーテン』『ウオオオオオオオオ!!!』『スカートか!!しゃつか!!!』『こんだけお膳立てされといてノーテン罰符wwww』『ぱんつかぶらか!どっちだ!!』『ヨッシャアアアアアアア!!!!』『のわちゃんもぞもぞ』『【¥8,282】祝おぱんつ解禁』『これよわちゃん自爆でしょ』『サービス精神旺盛だなぁ』『【¥49,800】実在ロリエルフの脱衣シーンと聞いて』『やべーぞこれ消される前に保存』『のわちゃんがブラするはずないのでつまり脱ぐのは下』『オーラス親で不聴罰符は救いが無い』



 幸いというべきか期待を裏切らないというべきか……視聴者の皆さんも盛り上がってくれているようなので、おれの犠牲は決して無駄にはならないだろう。

 現状おれに残された装備は『半袖シャツ』と『膝丈スカート』だ。ブーツと靴下は既に失っているので、つまりはこのどちらかがこれから剥ぎ取られる形となる。


 恥ずかしくないと言えば嘘になるが……そもそもおれが下心あって、自分から言い出したことだ。反故にするつもりは無い。



「んっ……じゃあ…………公約どおり、スカートを……脱ぎます」


「あわわわわはわわわわ」



 机の上に設置したカメラからは、当然机の下で行われているの様子を伺うことは出来ないだろう。

 だが……やや前屈み気味の体勢となったおれが、その両手を脚へと伝わせていることから……そこから何かを察してくれたのか、コメントが更に加速していく。


 その中にはやはりというか『ちゃんと全身見せて』『下半身写して』の声も多分に含まれており、こちらの逃げ道をちゃっかり完全に塞いでみせた。

 ……心配しなくても、そんな姑息なことはしませんってば。



 おれはちゃんと――カメラの死角ではあったが――巻きスカートを脱ぎ、あからさまにもじもじと恥じらう様子を見せながら……観念したように、少しずつカメラから離れていく。

 やがておれの下半身……長らくローブとスカートによって隠されていたそのが、カメラの画角内へと姿を表し。



 物凄い歓声と……そして少しの戸惑いと、これまた物凄いブーイングが巻き起こった。





「なんですか『チッ』て!! ちゃんと脱いだじゃないですか!! わたしだってちゃんと恥ずかしいんですからね!? 有言実行を褒められこそすれ怒られるいわれは無いですからね!!?」


「……わかめさま……よかったぁ」



【4_SE】村崎うに:あぁ……良かった

【2_SD】刀郷剣治:ホントすみませんホント

【1_FN】ハデス:おー、ナイスリスク管理

【2_SD】刀郷剣治:マジスミマセン本当



『ぱんつは??』『エッッッ』『ちくしょおおおおおお!!』『【¥28,200】ナイススパッツ』『これはこれで』『まあそうだよな……』『【¥11,400】せめてちゃんとおしりみせて』『なんでエルフがスパッツはいてんだよ!!畜生!!』『ここへきて突然の現代衣類わらう』『【¥10,000】カメラもっと近く』『わかめちゃんなのにパンツ見えない……』




 ……そう、スパッツ。


 スカートの下に身に付けていてもおかしくなく、それでいて下着最終防衛線を晒すことなく保護できる……おれにとって救世主といえる、現代紡織技術の結晶だ。


 正直、非常に危ないところだったのだが……なんとか間に合ってくれて、本当に良かった。





(まーったく……ノワは本当に妖精ヒトづかいが荒いんだから……)


(ごめんラニほんとごめん……取り込み中のところ……)


(いや、いいよいいよ。ボクはノワが一番大切だし。……それに)



 視聴者さんへ弁解と自己保身を述べながら、せめてものお詫びにと全身撮影用カメラに切り替えて身体を晒しながら……おれの緊急救援要請を受けて駆け付けてくれた相棒に、おれは心からの感謝を告げる。

 彼女が助けに来てくれたからこそ……おれはカメラの死角でスカートを脱ぎつつ、ラニが取ってきてくれたスパッツを急いで着用し、配信に下着パンツを晒すという事態を回避することが出来たのだ。



 彼女のおかげでおれの配信者生命が危ぶまれることもなく、視聴者さんたちも――下着パンツではないとはいえ――半袖シャツとスパッツという貴重かつ健全なおれの薄着姿を見て、とりあえずは溜飲を下げてくれた……と思う。

 ……まぁ、つまりは全て良い感じに収まり、おまけに前例の無い規模の視聴者数を記録することが出来たのだ。おれの自爆も、なかなか捨てたもんじゃないようだ。




(それに……ばっちり、特等席で堪能させてもらったからね)


(は???)


(この至近距離だろ? やっぱ興奮の度合いが段違いだわ。良いものを見せてもらった)


(ちょ、っ…………もう! 変態!!)


(ありがとうございます!!)




 自らの蒔いた種で自業自得の窮地に陥り、しかし頼れる仲間のおかげで助けられ。

 おれが恩人と感じた方々たっての求めとあらば……やはりおれは何をされようとも、結局は強く拒むことは出来ない。拒もうとも思えない。


 なんとも損な性格なのかもしれないが、しかしこれがなかなか心地の良いものなのだ。



 おれは結局、一人じゃまだまだということだ。

 これからも助けられながら、半泣きになりながらみっともなく足掻いていこう。



 どうやらそのほうが……ウケが良さそうだし。


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