第219話 【祝日配信】けがのこうみょう



「ああーーーーー!!!」


「わあーーーーー!!?」



 ピシャァンと小気味の良いサウンドエフェクトとともに、霧衣きりえちゃんが捨てた牌に落雷のエフェクトが落とされる。




 刀郷さんのお力添えもあって華麗にアガれた東一局を皮切りに、おれと霧衣きりえちゃんはまずまずの立ち回りで打つことができていた。

 リーチのみとかピンフドラ二とか、正直目を見張るほどの高得点こそなかったものの……二局目・三局目ともに得点を重ね、おれ自身に課せられた罰ゲームを回避し続けることができていたのだ。



 ……の、だが。


 流れが変わったのは、東四局目。おれの境遇を理解し、フォローに回ってくれていたはずの、大先輩……おれが全幅の信頼をおいていたその彼らの秘められし麻雀力が、ついに長き眠りから目覚めたのだ。




「……えっ、と…………あが、られちゃいました……ネ……へへ」


「あ、あわわ……あわわわわ……」



 霧衣きりえちゃんが悩みながらも、おそるおそる捨てた『漢字の一』……しかしながら不幸なことに、それは対局相手にとってのアガり牌。

 刀郷さんの『リーチハツドラ二』の直撃を受け、奇しくも一局目と真逆の形でしっぺ返しを喰らう形となってしまった。



 その展開に悲鳴を上げるおれたちと、歓喜の雄叫びを上げる視聴者さんたちと、疑問符感嘆符が乱舞する談合チャット。

 アガり手自体はごくごくありふれた手だったにもかかわらず……おれの配信はほんの僅かな間に、様々な人々の様々な感情が渦巻く混沌の坩堝と化したのだった。



【2_SD】刀郷剣治:aa!!?

【4_SE】村崎うに:は!?おま

【2_SD】刀郷剣治:ごめんなさい!!ちがうんすよ!!

【1_FN】ハデス:おまwwwwwwwwww

【4_SE】村崎うに:デコおまえ!!やりやがったなオイこらお前!!

【2_SD】刀郷剣治:ちがうんですって!!!

【2_SD】刀郷剣治:ついいつものノリで……

【1_FN】ハデス:やっちまったかぁ……

のわめでぃあ局長:いえ、kにいしないえd

【2_SD】刀郷剣治:ごめんなさいほんと!!

のわめでぃあ局長:きにしないでください!

のわめでぃあ局長:大乗bでs!!

【2_SD】刀郷剣治:そんなつもり無かったんです!!ほんとゴメンナサイ!!

【1_FN】ハデス:あーあ、わかめちゃんめっちゃ取り乱してるやん

【4_SE】村崎うに:のわちゃんおちついて




 おれこと局長のわかめちゃんがここまで取り乱しているのは……ご存じのことだろうが、ほかでもない。

 今回の配信はあくまで『霧衣きりえちゃんに麻雀の手ほどきをする会』なのだが……何を血迷ったのか止めとけばいいものを、いわゆる『脱衣麻雀』の特設ルール――霧衣ちゃんが失点するたびにおれが代わりに一枚脱ぐ――を適応してしまっているからである。


 ちなみに『やってやりましょう』と言ったのは、まごうことなきおれだ。完膚なきまでの『自業自得』ってやつである。



 い、いや……べつにおれだって、無傷で勝てるとは最初から思ってなかったし。

 そりゃあ、あわよくば(接待して頂いた上で)ノーダメージ完全勝利とかも狙ってましたけど、お三方が丸々敵に回るわけじゃないって信じてますし。それならば半荘終わるまでに、支払うことになるとしても数回……数回であればべつに、負けてもアウトになりませんし。



 だから、つまりはですね……ま、まだ全然、想定の範囲内ですので。

 なので……全然、わたしはぜんぜん、すこしも全然焦ってませんからですので。





「………ぅうううぅぅうぅぅ!!!」


「うぅ……わかめさまぁ……」



『貴重な薄着シーン!』『これやば』『よかった、ローブ下全裸じゃない』『【¥10,000】わきちらえちち代』『エッッッッッ!!!』『エッッッ!!』『【¥4,545】』『【¥30,000】御馳走様です』『脱ぐとこみせて……』『H・D・D!H・D・D!!』『【¥30,000】』『下ぱんつじゃないのか……』『視聴者数跳ね上がっててわらう』



【1_FN】ハデス:見てるかトーゴー。この涙お前のせいだぞ

【2_SD】刀郷剣治:いやその……わかめちゃんほんとごめんなさい

【4_SE】村崎うに:デコ……

【4_SE】村崎うに:でも、しかしだよ

【1_FN】ハデス:いやでも、まぁ……なんだ

【4_SE】村崎うに:なんていうかさ

【1_FN】ハデス:実在エルフやべぇな……

【4_SE】村崎うに:のわちゃん脱ぎ方エッロイよなぁ……

【2_SD】刀郷剣治:あの!?!??

のわめでぃあ局長:あの!!!????!?




 いや、まだだ。まだ……たかがローブをやられただけだ。戦闘続行は充分に可能なのだ。


 おれの今日の衣装はわかめちゃんの基本デフォルト装備といえる、エルフの魔法使いをモチーフとしたセット装備の一式だ。

 既に剥かれた若葉色ベースの『全身ローブ』の下には……上半身に空色とすみれ色の『半袖シャツ』と、下半身にはライトブラウンの『巻きスカート』、足元はホワイトの膝丈『ソックス』と、ソフトレザーの『ブーツ』。

 絶対防衛線である下着類パンツとキャミを除けば、身に付けているのは以上四点となる。……とはいえ、破廉恥な下着姿で配信を続けるのはさすがにヤバいと思われるので、実質的に脱げるのは『ブーツ』と『ソックス』の二点だけだ。



 半荘戦も既に半分が終了し、残すところあと四局。

 残り四局のうち……失点マケを許されるのは二回まで。


 野良だったら、割と絶望的だろう。……しかしこの卓は、対局相手が全員身内なのだ。

 刀郷さんのような『うっかり』でも無い限り、この状況を見ればきっと力を貸してくれることだろう。



 つまり……もうなにも怖くない。



「わたしは負けませんー! ここから全勝すれば良いんですー! ……というわけでお願いします皆様! がんばろうね霧衣きりえちゃん!!」


「よっ、よろしくおねがいします!!」




のわめでぃあ局長:というわけですみませんが忖度してください……

のわめでぃあ局長:お願いします(できることなら)なんでもしますから

【1_FN】ハデス:ん?

【4_SE】村崎うに:ん?

【2_SD】刀郷剣治:ん?

のわめでぃあ局長:ヒッ

【1_FN】ハデス:とか言ってみたけど、まぁ心配すんな

【2_SD】刀郷剣治:いやいやいや、さすがにもうご迷惑お掛けしませんよ

【1_FN】ハデス:だな

【1_FN】ハデス:きりえちゃんも安心して、のびのび打ってみな

のわめでぃあ局長:ありがとうございます!

【1_FN】ハデス:見守っててやる

【2_SD】刀郷剣治:オレもオレも。安心してくださいわかめちゃん

【1_FN】ハデス:村崎も良いよな?花持たせてやろうぜ

【1_FN】ハデス:村崎?

【4_SE】村崎うに:ウフフ

【2_SD】刀郷剣治:貧乳?

【1_FN】ハデス:村崎?

【1_FN】ハデス:おい、村崎?




 お三方の心強いお返事を得て、勝ち確の出来レースがここに完成した。

 視聴者さんには悪いが、おれだってせっかく育てたチャンネルは恋しいのだ。こんなことでBAN追放されたくは無い。最後まで応援、よろしくね!


 波乱の南場後半戦が、いま幕を開ける!!


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