第217話 【祝日配信】接待されるがわ配信



「ヘィリィ! 親愛なる人間種視聴者のみなさん! 魔法情報局『のわめでぃあ』局長、最近のマイブームは和風ミネストローネな木乃若芽きのわかめです! 一昨日ぶりですね!」


「へ……へいに! あの、あのっ……『のわめであ』新人れぽーたー……たぶれっと、を……買っていただきました……きりえ、ですっ」


「やー可愛い……お嬢ちゃん可愛いね……欲しいものいっぱい買ってあげるからね……」



『ヘィリィたすかる』『ヘィリィ!!』『へいに可愛いが』『ラニちゃん立看板wwww』『【¥10,000】高頻度ヘィリィたすかる』『開幕ノロケたすかる』『セリフが変質者のそれ』『ヘィリィ!』『【¥5,000】きりえちゃんかわいいやったー』『出張wwww』『ラニちゃん……どこいっちゃったの……』『等身大ラニちゃんほしい』




 金曜と土曜に続き、なんと今週末三度目となるライブ配信……不本意ながら広まりつつあるその愛称は『生わかめ』。

 本日ラニは(セイセツさんとの打ち合わせにつき)欠席なので、等身大全身ポップで代用させて貰っている。全身まるまる写してもB5サイズ……コンビニコピーでも百円そこらだろう。なんて手軽なんだ。


 まあラニちゃんのことは一旦おいといて。彼女は彼女で、やるべきことをやろうとしてくれているのだ。今はおれたちも、自分のやるべきことをやるべきだろう。



「ジョンガリアーさん『高頻度ヘィリィたすかる』スパチャありがとうございます! 今回だけですよ! 思ったよりも大変でした! ワンワスキーさん『きりえちゃんかわいいやったー』スパチャありがとうございます! わかる、霧衣きりえちゃん可愛いが。すきだが」


「ひゃわわわわ……」


「ん゛んっ。……失礼しました。ええと、本日はですね……そんな可愛い霧衣きりえちゃんに新たな技を仕込もうと思いましてね…………えっと、皆様も記憶に新しいのではないでしょうか。ちょうど一週間前、わたくし局長の木乃若芽きのわかめちゃんが手も足も出ず一方的にボッコボコにされた、百人一首の悲劇……ヴッあたまが」


「たっ……大変、失礼致しました……」


「ちがうの! きりえちゃんは悪くないの! ……まあ、そういうわけで。存分にボッコボコにされながらですね、この子には類稀たぐいまれなる非電源ゲームの才能があるのではないかと、わたくしは思ったわけでして」


「がっ、がんばりますっ!」


「ふふふっ。……そんなわけで! 本日はですね……こちら! 『雀心ジャンシン.net』! こちらを使ってですね……霧衣キリエちゃんに麻雀を仕込んでいきたいと思います! パソコンは電源使ってるやんとか言わない。いいね?」



『麻雀かぁ!!!』『きりえ無双来るか??』『アッハイ』『麻雀!!!!』『仕込んでいきたいっていきなり実戦か?』『二人いっしょプレイ?』『わー』『【¥10,000】よわちゃん供養』『脱衣麻雀と聞いて』『のわちゃんが秒で剥かれるってマ?』『脱衣エルフと聞いて』『きりえちゃんがんばれ』



 ルールそのものは自宅学習で目を通してもらったが、実戦はまだ未経験だ。そのため今回の配信では、霧衣きりえちゃんとおれの二人ペアで打たせてもらうことになっている。

 色々とレクチャーしながら打ちたいのと単純に自信が無いので、野良マッチングは少々敷居が高い。かといって未経験者と初心者のペア、そんなひよっ子相手でも忖度してくれる麻雀経験者、しかも配信に乗せてしまっても問題ない人なんて……そんな都合良い知人が三人も、交遊範囲の少ないおれに居るはずが…………まぁ、いたんですよ。びっくりなことに。


 まず取っ掛かりとして、ダメもとで刀郷さんに『霧衣きりえちゃんに教えながら麻雀打ちたいんですけど、申し訳ないですが付き合ってもらえませんか?』と打診してみたところ、まさかその場で即オッケー。

 しかもしかも、おれが対局相手に悩んでると聞くや否や……それから三十分も経たずにハデス様とうにさんに話をつけて、会議通話ルームまで立ててくれた。ここまでが昨晩……いや今朝未明の話である。



 なお……このことは当然、視聴者の皆さんにはお知らせしていない。

 サムネイル画像からなんとなく『霧衣きりえちゃんが麻雀に挑戦する』っぽいことは判るかもしれないが、それ以上の情報は伏せてある。

 なのでしばらくの間は『初心者丸出しの麻雀に付き合ってくれるやさしい知人』ということにさせていただき、通話を繋がずに進めていく。そして途中から……イメージとしては半荘戦8局戦を一回か二回終えたあたりで刀郷さんたちがゲリラ配信を開始、そのタイミングで会議通話を繋ぎ、突発コラボ開始……といった流れを画策している。

 まぁもっとも……プレイヤーのIDは隠すにしても、打ち方のクセや使用アバターなんかでバレる可能性も無いとは言いがたいとのことなのだが……そのときはそのときだ。基本的には予定を遵守しつつ『よくわかんないです』としらばっくれ、展開の変更があればチャットで相談する。……ということになっている。



 なおこのあたりの演出は、ハデス様がノリノリで考えてくれたらしい。

 演出の流れを聞いたのはほんの二時間前くらいだが、おれなんかのために色々と考えてくれたのだと考えると……同性だというのに、思わずトゥンクしてしまいそうになる。




 というわけで、ゲームを始めていこう。


 事前にハデス様が準備してくれていた手引きに従い、プライベートルームを探す。四人中三人がスタンバイしているルームにパスワードを打ち込んで入室し、細かなルールを確認した上で『準備完了』を押す。



「ど、どどっ……どきどき、します……若芽様」


「アッ、エット……うん…………わたしも」



 麻雀卓が映し出されるゲーム画面を左上に、おれたち二人の立ち絵(というか上半身映像)を右下に。勢いよく流れていくコメント欄を右上に配置した、定番のレイアウトだ。

 椅子を横に二つ並べて、ひとつの画面を二人で覗き込む形。マウスやキーボードの操作は霧衣きりえちゃんが主体で、おれは横から口を出す立ち位置だ。


 わが『のわめでぃあ』のゲーム配信におけるこのレイアウト、他の配信者さんと異なる点としては……いわゆる『グリーンバック』の緑色の代わりに、ドギツい赤紫色を採用していることくらいだろう。

 背景幕に紫色を【投影】し、切りぬきソフトでその色をトリミングするように設定しただけなのだが……だってそうでもしないと、緑髪緑目のおれの姿が大変なことになるし。

 髪の毛が透過されて目の部分も切り抜かれるとか、もはやだよ


 しかしまあ、そんな舞台裏は視聴者さんにはわからない。わからないようにしてあるし。

 親愛なるわれらが視聴者さんたちは、見慣れたレイアウト・見慣れた麻雀ゲームの画面を眺めながら、おれたちの『はじめて』の対局を見守ってくれることだろう。



 ……というわけで、いよいよ始まる東一局。


 先輩方……よろしくお願いします!



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