第206話 【観覧見学】今日アフターどうすか



 うにさんミルさんのFPS配信を右窓で視聴しながら、刀郷とうごうさんたち四人の麻雀配信を左窓で視聴し、それぞれにコメントを送り続けること、およそ三時間。

 ……まぁFPS配信は途中で終了したので、後半の一時間ほどは麻雀配信に掛かりっきりだったのだが。


 現在は日曜日の深夜あらため、祝日月曜の午前一時。すっかり夜も更け、日付も変わって久しい。



 街灯も周囲の家屋も存在しない、山の中腹の一軒家のとある一室。

 その部屋は現在……深夜にしては相応しくない程に賑やかな、複数人の『人の声』で溢れていた。




『ったく……このデコ男子がよぉ! あたしらだって疲れてるってのにさぁ!』


『悪かったって貧乳。いやほんとマジで助かったって』


『ああ!? テメェまじわからせっぞ! 今からスマブロすっか!?』


「う、うにさん……どうどう、おさえて」


『いやぁー本当かわいいわぁー。生エルフよ生エルフ。夢みたいどすわー』


『確かに……こりゃぁたまげたな。刀郷トーゴーはまだしも、姫さんが入れ込むのも解る気がするわ』


「はひゅっ!? き……恐縮です!!」


『わかめちゃん大丈夫ですか? あのロリコンデコに何かことされてません? いやマジめっちゃ可愛いですねグッヘヘ』


『か、会長さん……本音が漏れてます……』



 刀郷さんの麻雀配信が終わり……おれは現在おそれ多くも、うにさんが立てたDeb-CODE会議通話ソフト内某会議ルームにお邪魔させていただいている。

 そこの参加者はなんとびっくり、おれ以外の全員が大御所の大先輩がた……超有名配信者キャスターが勢揃いしているのだ。



 発起人である仮想アンリアル男子高校生配信者キャスターの『刀郷とうごう剣治けんじ』さんと、彼に頼み込まれておれとコンタクトを取り、この場を設けた仮想アンリアル海産物配信者キャスターでありゲーマーでもある『村崎うに』さん。おれが憧れる仮想アンリアルエルフ皇女配信者キャスターの『トールア・R・ティーリット』様、彼女同様の第Ⅰ期生メンバー、仮想アンリアル冥王配信者キャスターである『ハデス』様。刀郷さんの同期である第Ⅱ期生、仮想アンリアル生徒会長の『日野影ひのかげながれ』さんと、うにさんの同期であり先日もお話しした『ミルク・イシェル』さん……総勢六名の『にじキャラ』配信者キャスターが勢揃いした、大変賑やかかつ尊みあふれる聖域と呼べる神聖な場である。



 いや、その……まって、本当おれの場違い感が半端ないんですが。


 ちょっと場違いすぎるっていうか、ありがたすぎて……あの、これお金払うレベルなんですけど。払いますいくらですか。




 麻雀配信の終了後、刀郷さん(とティー様)主導によって立てられたらしいこの通話ルームは……端的にいうと、実在エルフ配信者キャスターであるおれを眺める場である……らしい。

 おれの連絡先を知っているうにさんがまず目をつけられ、更にミルさんが巻き込まれ……おれとの通話を希望してくれたお二方とおれとの会議通話の場が設けられ、更に『オレも』『わたくしも』ともうお二方が興味を示し、こうして深夜のプチ会合が発足される流れとなった。


 そしておっかなびっくり通話を繋ぎ、案の定というか『フェイスカメラ繋げて貰えちゃったりしますか』とのご要望を受け、ある種の想定通りだったおれは快諾して見せ……大先輩の皆様におれの顔を晒す栄誉を賜ったのだった。




「あの……あっ、あらためまして……いわゆる個人勢で配信者キャスターやってます、『木乃若芽きのわかめ』と申します。……お話できて光栄です!」


『いやあの、えっと……オレの方こそ、光栄です。一目見たときから『可愛いな』って思ってて。まさかオレの配信見に来てくれるとは思ってなくて』


「いえそんな! わたしの方こそ、こんな弱小配信者の配信に来ていただけて……しかも赤スパまでいただいてしまって。刀郷さんのような先輩配信者キャスターに絡んで貰えて、お話する機会まで頂けるなんて……」


『わかめちゃんわかめちゃん、わちは? ティーリットさんとはお話しできて嬉しい?』


「もちろんです!! わたしも一応エルフ族として活動させて頂いてるので……あわよくば同族ってことをアピールして、何らかの形で絡みに行けないかと画策してました!」


『ふふふふ……照れるわぁ』


『ティー様ティー様。わかめちゃんとコネクション持ったのあたしが先なので、つまりあたしのおかげなんで、そこんとこよろしくお願いしますね』


『……でもうにさんが最初興味持ったのって、ラニさんですよね?』


『ちょお!? ミルなに余計なこと言っとん!!』


「……まあ、たしかに……いちばん最初コンタクト取られたのって、わたしの相棒のアカウントでしたね」


『のわちゃああああん!!?』



 いいなぁ、こういう空気。

 賑やかで、仲良さげで……楽しくて。


 個人勢としてスタートしたおれは、当然だが『同期』も『先輩』も居やしない。そのあたりの事情も込みで『個人勢』という選択を取ったのだから、仕方の無いことだと理解はしているのだが……それでもやっぱり、憧れる。

 学生の部活動のような、あるいは気軽なサークル活動のような。仲のいい友人どうしが一緒に遊びにいくノリで、雑談やコラボを行える……そんな関係に対する憧れは、おれにだって当然ある。


 しかし今は……一時とはいえに触れられたことが、嬉しくて仕方ない。

 おれがこの道を志す切っ掛けとなった方々の、完全オフのフリートークを耳にすることができ……しかもその場に居合わせていられることが、ただただ幸せで。




『というわけで……のわちゃん?』


「は、はひっ!?」


『同じエルフのよしみってことで……今度、わちともコラボ、してもろて良い?』


「はひゅ!!?」


『おっ、じゃあオレも良いか? ファンタジー仲間が増えるンは嬉しくてな。ゲームでも雑談でも良いから、なんとか頼むわ』


『あっ、じゃあわたくしも。お歌コラボとか良いですね。カラオケご一緒しません?』


『ちょぉ! 先輩がた抜け駆けズルいっすよ! オレが先に目ぇつけてたんすから!』


『あたしとミルのが先だっての! 調子乗らんとけやおいデココラ!』


『う、うにさん落ち着いて……ぼくたちは一歩先いってますから……』




 おれなんぞとは住む世界からして違う天上人からの、まさかの共演コラボのお誘い。これは夢かまぼろしかと自らの頬をつねってみるも、やっぱり痛いひはひ。……夢じゃない。

 おれが実在エルフ配信者キャスターとしてやけっぱち気味に活動開始したときから、うっすらと思い描いていた『先輩エルフ配信者キャスター』との夢の共演。また彼女をはじめとする『売れっ子』配信者キャスターの皆様からの、ありがたすぎるお誘い。

 憧れていた方々からこんなお話を頂けるなんて、嬉しさが振りきれてしまいそうだ。


 是も非もない。絶対にご一緒したい。何がなんでも、むしろこちらからお金払ってでもお願いしたい。



 断る理由なんて、何一つとして存在しない。




「わ、わ、わ、わたしでよければ! 是非! ご一緒させてください!!」


『やった! ふふふ……明日金剛マネージャーさんにも連絡しとかんとなぁ』


『姫さんもう今日だぞ。寝ボケんのはまだちょっと早いぜ』


『わたくしたちも、坂元マネージャーさんに連絡入れときましょう』


『じゃ、じゃあオレの『全校集会裁判』は免除ってことで……』



 うにさんたちとコラボの話が持ち上がったときは……そりゃそれだけでももちろん嬉しかったけど、まさかこんなことになるなんて思っても見なかった。連絡先の数が一桁しか無かったおれのDeb-CODE会議通話ソフトに、『同業者』のお名前……しかもとびきりの有名人が、一気に増えたのだ。


 そもそもの切っ掛けを……おれが仮想配信者ユアキャスの方々とも共演コラボできると気づかせてくれたうにさんは勿論だが。




「刀郷さん!」


『ふぁっ!? ななな何でしょう!』


「わたしのこと、くれて……本当にありがとうございます!」


『ちょっ……!!?』


『『『『『……………………』』』』』


(うわぁ…………えげつな……)


(ふふふふふ……わたしは何もおかしなこと言ってませんですし)




 高く買ってくれて――つまりは、能力や価値があるものだと見なしてくれて――ありがとうございます。


 彼があの麻雀配信のとき、わたしのことをいろいろと誉め話題にしてくれたからこその、今があるのであって。



『やっぱり……うふふ…………しねどす』


『いやー『全校集会裁判』待たずに処刑ですわー』


『やりやがったな刀郷トーゴー。ロリはマズいぞお前』


『パパ活仮想配信者ユアキャス乙。炎上しろデコ』


『…………すみません、どうかご無事で』


『ちがうんすよ! これは違うんす!』




 第二の切っ掛けを作ってくれた、絶滅危惧種の男子高校生仮想配信者URキャスター……刀郷剣治さん。

 彼の生きざまを、人となりを、そして彼への恩を……わたしは決して忘れない。







(まるで死んじゃったみたいな言い方だね?)


(彼はもうだめだ。仕方ない)


(原因がいけしゃあしゃあと……やっぱノワは悪女だよ)


(ウフフ)



『炎上はもう嫌だァーーーー!!』



 ―――合掌。


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