第201話 【日曜某日】お誘いあわせの上



 まあまあまあ……とりあえずスクミズの件はですね、一旦こちらであずかり保留させていただくとしてですね。



「保留なんだね? ボクはちゃんと覚えとくからね?」



 ちくしょう。この変態どもが!


 とにかく、これで無事に露天駐車場が完成したわけだ。

 幅はおよそ三.五メートル、奥行きおよそ六メートルとやや中途半端だが、ガレージ(予定地)とおうちとの隙間なので仕方ない。SL仕様のバン車両が停められる分の奥行きはしっかり確保されているので、幅が広すぎる分には何も問題ないだろう。

 足下も【加圧】に【加圧】を重ねてしっかりと固めてあるし……ちょっと悪い気もするが、雑草を除去するために除草剤も撒いておいた。砂利が草の根で崩されることもないはずだ。


 おうちのすぐ隣、砂利敷きとはいえ平坦で、かなり余裕を持った広さのスペース。

 この先ガレージが完成して露天駐車場としての役目を終えたとしても、屋外多目的スペースとして色々と役立ってくれることだろう。



「バーベキューとか出来そうだしね。いっぱい人呼んで、炭火のコンロ並べて。ああ、ピザ窯とか薪置き場とかもつくってみたいね! おもてなしの幅が広がりそう!」


「作るのは楽しそうだから良いんだけど……呼べる知り合い、そんないっぱい居る?」


「………………」


「………………」


「…………モ」


「モリアキ氏以外で」


「……………………」


「……………………」




 …………いま改めて愕然としたわ。うそ、わたしの知人少なすぎ!?

 おれは……きりえちゃんの知人や交遊関係を心配する前に、自身の交遊関係を先になんとかする必要があったのかもしれない。

 しょうがないじゃないか、だっておれはだもの。せっかく居心地のいい拠点を手に入れたんだもん。住所バレとかさすがに嫌だし。



 ま、まぁ……おれの知人に関しては置いといて。

 とりあえずは、これでめでたく駐車場の準備が出来たのだ。キャンピングカーをお迎えする準備は万端と言えるだろう。

 あとはコンクリの硬化と納車当日を待つだけだ。


 現在の時刻は、だいたい十五時。お昼後にちょっとゆっくりしていたけど、まだまだ陽はそれなりの高度を維持している。

 観たい配信が始まるまでは、まだまだそこそこの時間がある。どうしたものかと思案していたおれだったが……突如スマホが聞きなれない着信音を、何度か立て続けに鳴り響かせる。



 それは普段おれもよく使うREINメッセージツールのものなのだが……モリアキやトリガミさんやチカマ宮司やうにさんみたいな『仕事関係』の方々で使っている着信音とは異なる、いわば『プライベート用』の着信音。

 そんな設定を施してあり、かつおれが最近連絡をやり取りしているアカウントなんて数えるほどしか無いのだが……つまりはそんな『数えるほどしかいない知人』からの連絡なのだろう。


 つい先ほど、自らの交遊範囲の狭さを思い知らされた身としては、無視や後回しはしづらいところだ。



「だれだろ、モリアキじゃないし……」


「ノワ…………もしかして、本当に友達居ないの?」


「い、ッ!!? いますー! ちゃんと友達いますー! おれがなっちゃったから連絡取れてないだけですー!!」


「わかったから。……それで、誰から?」


「ちょっと待って、いま読み込み……できた。…………あれ、メグちゃんだ」


「メグちゃん? あぁ伊養いよう町のときの。なんだって?」



 およそ一ヶ月……いや半月ほど前。おれが初めて『実在エルフ』のとして街頭企画に臨んだときの栄えある(?)最初のゲストさんこそ、現役女子高生吹奏楽部員の二人組……サキちゃん(仮名)とメグちゃん(仮名)だったのだ。


 撮影終了後、なかば彼女たちの勢いに押しきられる形でREINメッセージアプリの連絡先を交換してしまったのだが……幸いというべきか、彼女たちは極めて常識的なネットリテラシーと距離感を持ち合わせており、現役高校生に対する偏見としてよく見られる『既読をつけたらすぐに返信しないと後ろ指差される』『自分だけを除いた別グループで陰口言われる』などといった事態に巻き込まれることもなかった。


 そのためせいぜいが、部活動に励む彼女たちの愚痴メッセージにあたりさわりのない反応を返したり、ちょっとした悩みごとや相談事に常識的なアドバイスを返してみたり、おれの配信や動画に対する感想を律儀に述べてくれていたり、あるいは『また今度ランチ行きたい!』といったお誘いをやんわりと受け流したり……などといったやり取りを行う程度。

 過去数回『どうしても声が聞きたい!!』と求められたこともあったが……それだってこちらの迷惑になりにくい時間帯を選んでくれたし、通話を繋いで五分と経たずに満足してくれていた。

 つまりは、負担になりにくい交流を心掛けてくれていたのだ。


 そんな彼女たちの片割れ、メグちゃん(仮名)からのREINメッセージ

 気になるその内容だが…………なんともなんとも、これまたなかなかに予想外の相談内容でございまして。




「あのね……来月の二十三日の日曜日にね、定期演奏会があるんだって」


「定期演奏会……あぁ、メグちゃんたちの楽団の?」


「そうそう。それでね、その本番に備えて、今日も練習してるんだって」


「あれ、今日って休みの曜日じゃ?」


「そうなの。日曜だから、学校……勉強するとこは休みなんだけど、その分楽器の練習をまる一日やってるみたい」


「……なんて勤勉な。仕事中に堂々と居眠りするギルドのアホ共には見習ってほしいよ」


「あははっ。……そうかもね」



 本番までのおよそ一ヶ月、土日返上でひたすら練習に打ち込むらしい彼女たち。……送られてきたメッセージを読み進めるに、それこそ本番を終えるまで気の休まる日は無いらしい。

 平日は当然のように学業が待ち構えており、それが終わってから放課後の部活動。この時期は陽が落ちるのも早いので、帰る頃には真っ暗だろう。

 そして週末は週末として、長丁場での部活動が待ち構えている。土曜日はお弁当持参で朝から夕方まで、日曜日も半日とはいえ練習が詰め込まれているらしい。



 そんな、なかなかにハードブラックなスケジュールが続く一ヶ月間を目前に。

 明日の月曜祝日、彼女たちは……『最後の晩餐』とまでは行かないまでも、モチベーションを高めるべく決起集会(という名のランチ)に出掛ける予定なのだという。




「…………うん、なんとなく読めたけど……つまり?」


「えっとですね……つまりですね……」



 デスマーチ突入前の、最後の休日。


 これからの一ヶ月を戦い抜くためにも、とびっきりの『癒し』がほしいと仰る彼女の……その要望とは。



「明日の決起会……っていうか、ランチ。…………きてくれないか、って」


「昼間でしょ? いいんじゃない?」


「だよねぇ。さすがに……………………は?」


「明日の夜は配信するにしても……ノワなら準備に一時間もあれば余裕でしょ? 明日じゅうにやらなきゃいけない予定って、あった?」




 いや、まあ、そりゃ……スケジュール的には空いてるんだけど!


 あいてるんだけど!!


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