第200話 【日曜某日】受け入れ先ヨシ!
結局おひるごはんが終わった後、テグリさんは深々とお辞儀をすると『副業』へ出掛けていった。砂利を積んでいたダンプトラックの回収依頼も、ついでに声かけしてきてくれるらしい。
出掛けに『……昼食の御用意、有難う御座いました』と改まっていたけども、とんでもない。もともと外回りのお仕事予定だった彼女だったのだが、建材受け取りの立ち会いのために急遽戻ってきてもらったような形だったため……つまり、お礼を言うのはむしろこちらの方なのだ。
そんなこんなでテグリさんと別れ、とりあえず『やることリスト』を頭のなかに思い浮かべ、優先度『高』かつ日中でなければできない作業を優先して片付けることにする。
料理教室のピックアップなんかは日が落ちてからでもできるので、とりあえずは後回しだ。
というわけで、戻ってきましたガレージ建設予定地前。
敷地内私道に隣接するように午前中で基礎コンクリートを打ったわけだが……とりあえず今から手を加えるのはその隣。おうちとガレージ(予定地)との間の、幅およそ三メートル強の場所だ。
位置関係的には、一階の
とりあえず状況を整理すると……まずガレージを作るための基礎コンクリートは、あと二週間ほど放置する必要がある。正確にいうと、数日も置けば作業を続けられるくらいの硬度になるらしいが、それでも重量物である車両の乗り入れはお預けの状態なのだ。
そして目下の楽しみであるバンコン車両――三納オートサービスさん渾身の一台――が届けられるのが、明後日の火曜日。……明日は祝日だから営業日じゃないので、ここは仕方ない。
そしてそして、納車される予定地であるモリアキ家ちかくの駐車場……そこは普段、彼の軽自動車が使用している区画だ。納車のタイミングだけ近くのコインパーキングへ移ってくれるとのことなのだが、もちろんずーっとそのままでいて貰うわけにもいかない。
現段階での予定としては……納車されたその日のうちに、
そしてそのまま――ガレージが完成するまで――敷地内の別の場所に、とりあえず停めておく作戦なのだ。
「……っというわけでですね! ガレージ完成までの間バンコン車を停めておくための露天駐車場をですね、これからパパっと作っていこうと思います!」
「うわびっくりした。いきなりエア配信はじめんのやめーよ」
「いいじゃん。常に練習しとかなきゃだよ」
最近ことあるごとに配信のノリが出てしまうのだが、おれとしては悪いことだとは思っていない。本番においてスムーズな
というわけで、イメージもそこそこに早速取り掛かっていこうと思う。
基礎を打って、柱を立てて、壁を張って、屋根を掛けてと……色々と手間暇かける必要のあるガレージとは異なり、壁も屋根も無い露天駐車場であれば作ることは難しくない。
その工程を端的にいうと……車両を停める部分に砂利を敷き詰め、加圧して固めれば良いだけだ。
……まぁ尤も、ふつうであればそれなりの資材と機材と人手と時間を要するのだろうが。
「ガレージできるまでの、仮の駐車場だからね。あんま大きくなくていい」
「って言っても、ボクは規模のイメージよくわかんないし……」
「そうね。じゃあまずおれが固めるから、ラニはその上に砂利置いてって」
「ん。わかった」
和室の西側掃き出し窓の外側、おうちからおよそ三メートル程度までの一帯を、まずは【
すぐそこにおうちがあるので、コントロールは慎重に。おうちの基礎を巻き込んで【加圧】してしまったら変な影響が出るかもしれない。安全マージンはしっかり、基礎の立ち上がりから五十センチは空けておく。
……まあドア開けたりするのに
「これならやりやすいよ。固められたとこに砂利入れてけば良いんだね」
「そうそう。……いやぁマジ建築業界に喧嘩売ってそうだわ、ラニちゃんの
「えへへー。まぁ空間魔法はボクの数少ない取り柄だったからね。負ける気がしないよ」
自慢げに語るラニのすぐ傍ら、空間に突如生じた亀裂から、ダンプトラックに積まれやってきた砂利がドバドバと流れ出してくる。
吐き出し口たる空間の亀裂は器用にその位置を動かしながら、おれが今しがた転圧した露天駐車場予定地へとまんべんなく砂利を放り込んでいく。
そのままのペースで、今度は敷地内私道との接続部まで。道路と駐車場をきっちり砂利の小山で繋ぎ、白っぽい砂利の道がおうちのすぐ側まで伸びたように見える。
おれたち以外の一般車が通らないこの私道なら、車の転回に使用しても大丈夫なはず。形状的にもスペース的にも問題ないだろう。
ラニの【蔵】が口を閉じ、砂利の吐き出しが止まる。あとはこれを【
「いやぁいやぁ……敷地広くて本当良かったね。こんなの他の人に絶対見せられないよ」
「そうだね。さすがにあの重量を手運びするのは……クソザコナメクジのノワには堪えるでしょ?」
「ひゅっ……あの量はおれじゃなくても無理だと思う!」
「まあ確かに……荷車に積んで馬二頭繋いだとしても、ここまで全部運ぶのは相当時間掛かるだろうね」
「うん。なのでラニちゃんには……本当感謝しなければならない。何かお礼を検討することもやぶさかではないので、なにか希望があれば何で」
「ん?」
「…………まぁ…………いいよ、ある程度なら」
「マジで!? ヨッシャァ!!!」
他愛のない会話を繰り広げながら、おれの【加圧】作業は順調に進んでいく。ラニの要求と反応も予測の範囲内なので、特に心を乱されることもなかった。
……まぁ、いったい何を要求されるのか、不安が無いわけじゃないのだが……おれに実害が生じたり、おれの社会的地位を貶めたり、おれが本気で嫌悪感を顕にするようなことは、さすがに要求しないだろう。もと勇者だもん、それくらいの分別はあるはずだ。
「ちなみに今のところは……何か考えてたりするの?」
「えっとねー、ちょっと待って…………んん、思い出した。あのさノワ、医療ツールで『バンソーコー』って」
「はい却下!!!!!」
「そ、そんなあ」
さすがにそれは『衣装』ではない。
いたずらっぽく笑うのは、かわいいから良いんだけど……あまりおれの信頼を損ねないでほしいですね!
「じゃあさ、じゃあ……『スクミズ』ってわかる?」
「?? スクミズ……? スク……水……え、は? ……嘘でしょ?」
「なんかね、泳ぐとき専用の装備らしくてね、ノワの『スクミズ』姿を求める声が」
「三十路一般成人男性のスク水姿なんかで喜ぶか! 変態どもが!!」
「何度も言うけどノワはかわいいエルフの少女だからね?」
「ぬがーーーー!!!!」
い、いや……しかし。たとえ需要があると言っても、水着とかさすがにセンセーショナルが過ぎると思うのだが。
だってほら。さすがのユースクさんだって、そんな水着姿の女の子の動画なんて……そんなお色気動画なんてあるわけないでしょ。世界に名だたる健全な動画サイトやぞ。
女の子の水着グラビア……しかもマニアックなスク水での動画だなんて。たとえラニ様視聴者様がゆるしても、ユースクさんがゆるしませんことよ。
ゆるすなよ。おい。ユースクさん。ゆるすなよ。
おい、ばか。なんであるの。
…………やらないよ!?!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます