第193話 【休日満喫】業務改善四苦八苦
おれたち自身、なかなかに奇抜な見てくれだという自覚はあるけれど……このご時世――よっぽどの有名人でもない限り――あからさまに後をつけられたり、一挙一動を凝視されたり、といったことはそうそう無いらしい。
際限なく尾行されたら正直いってお手上げだったので、おれの無名さに助けられた。
当たり前だが、おれやラニが【魔法】を使うところを見られるわけにはいかない。緑髪エルフなんておれ以外に存在しないので、一発でおれが異能力者だということがバレてしまう。
なので【蔵】や【門】を使うときには、周囲の視線に充分気を付けなければならない。これについては人の視線も勿論そうなのだが……現代ならではの機械の視線、つまるところ監視カメラの記録範囲にも、気を配っておく必要がある。
そんなこんなで、シオンモール
あぁ、ちゃんと監視カメラに映らないところで仕舞ったので、ご安心を。広い屋上駐車場であれば、監視カメラの死角もあちこちに、それこそ停まってる車の影なんかは無数にあるのだ。
……というわけで、空っぽになった(のを【
すると……あった。
監視カメラに映らず、店舗出入り口から直接見えず、人通りも少ない絶好の場所。
屋上駐車場に設置された大型空調設備室外機の影……それこそ『かくれんぼ』でもやらない限りは、誰も足を踏み入れないであろう場所。
それはつまり……自宅とこのショッピングモールを繋ぐ【門】を開くにあたって、おおよそ最適といえる場所である。
「おっけー。【
「ありがとラニ! これでいつでもシオンモール来れるよ。うわぁめっちゃ便利じゃん……夢みたい」
「シラタニ様さすがでございます!」
「わっはっは! よきにはからえ!」
「いやぁ……まじ助かる。ラニちゃんさまさまだわ。お礼に何か欲しいものがあればなん」
「今なんでもって言ったよね?」
「ひぇっ」
おれの自爆じみた犠牲によって、非常に便利な直通手段を手に入れたおれたちは……若干一名のおれを除いた皆がうきうき気分のまま、意気揚々とモールを後にした。
い、いったい何を要求されるのか……今は考えないことにしよう。
というわけで。ほんの数秒で帰宅、さすがラニちゃん様様である。
帰ってきて早々だが、おれは少々やらねばならないことがある。買い込んだ生鮮食品の管理を
携帯カメラとメインPCを同期させ、撮影した映像データを転送する。その間に
……と。すぐに既読マーカーがつき、幸いなことにおれの望んだ返信が得られた。
たっぷり一拍、大きく深呼吸をし……音声通話発信ボタンをクリック。ほんの数秒の呼び出し音が流れたかと思えばメロディが『ぶつり』と途切れ……『ごそごそ』とマイクの位置を調整するような音とともに、聞きなれない男性の声が聞こえてくる。
『……えーっと…………あの、ども。……はじめまし、て?』
「では無いと思うんですけど…………先日はどうも、お世話になりました」
『いや、その…………こっちこそ。…………ご無沙汰してます。……あの、いつも楽しませて貰ってます』
「な、なんでそんなオドオドなんですか!? トリガミさん!!」
『いや、そりゃあ……だって…………
「………………恐縮です」
『いえいえいえいえ、こちらこそ』
通話の向こうの相手は……神絵師モリアキの同輩にして、おれの親愛なる視聴者さんの一人でもあり、多忙になる(見込みの)おれの業務効率化のためモリアキが紹介してくれた、業務提携先の窓口でもある男性。
彼は、
昨年末ごろモリアキによって拉致同然に連れていかれ、たいへん女の子らしいお写真を撮ってもらった『スタジオえびす』の従業員であり……映像メディアの扱いならおおよそ何でもこなせるという、現役の編集者さんだ。
『モリアキからも話が行ったことかと思いますけど…………その節は、ウチのモンが大変ご迷惑お掛けしました。本当に申し訳ありません』
「いえいえそんな! …………まぁ、恥ずかしくないといえば嘘になりますけど……もともとネットに晒しちゃってる顔なので。……それに…………その
『…………恩に着ます。局長さん』
「えへへぇー」
なんでも……彼の勤める『スタジオえびす』の元・従業員のひとりが、おれの写真を無断持ち出しした……という事件があったらしい。
年末年始おれは
どうやら年末におれがシバいた『苗』の保持者……おれに対する特効効果を備えた彼らのうちの一人が写真持ち出しの犯人だったらしく、警察に保護された後にその流れで確保されていたらしい。
持ち出し事件が発覚してから『スタジオえびす』さんは迅速に動いてくれていたらしいし、取締役のお兄さん(意外なほど若かった)も丁寧にお詫びを入れてくれたので、おれは彼らに対する悪印象は全く持ち合わせていなかった。
とはいえ、映像・写真を取り扱う事業である以上絶対にあってはならない激ヤバな事案だったらしく、一時は『賠償金』とか『制裁』とかいう単語が飛び交うくらい物騒なことになっていたのだが……さすがに桁がヤバそうだったので、おれは何度か丁寧に固辞していた。
じゃあどうやってオトシマエをつければ良いのか、と『スタジオえびす』さんが頭を悩ませていた(らしい)ところ……モリアキからトリガミさんに『映像編集って、動画一本いくらくらいが相場なん?』と問い合わせがあり、詳しく話を聞いてみればほかでもない
いやあ、おれは本当あんまり気にしてなかったんですけど……そのせいで『スタジオえびす』さんが逆に困っていたとは思ってもみなかったので、正直すまなかったと思ってる。すま○こすま○こ。
……まぁ要するに、つまるところ。
おれは大変おトク(相場の七割程度)なご予算で、プロ集団に動画編集を依頼できる『コネクション』を手に入れたのだ!
てってれー。
『おおよそのイメージとしましては、これまでに御社が作成してきた動画に倣う感じで宜しいでしょうか?』
「アッえっと、はい。可能であれば、もっとバラエティっぽい方向性で。効果音とかBGMとかフォントとか、そのへんは大概フリー素材から拾ってきたやつなんですけど……ぶっちゃけ特にこだわりがあるわけでも無いので、もっと良さそうなものがあったらそのへん全部お任せしたいです」
『承知しました。以前モリ…………失礼。
「はい、大丈夫です。それ以上のリテイクお願いしたい際は、改めて見積お願いすればいいですか?」
『そうですね。……一応あくまで目安ですが、超過分のリテイクは一回につき『見積金額の二割から二割五分程度』とさせて頂くことが多いです』
「わかりました。その内容で異存ありません。……というわけで、さっそく一本お願いしたいんですけど……良いですか?」
『ッホゥォ! ……すみません。マジ失礼しました。……本当すみません……思ってた以上にテンション上がってしまいまして』
お仕事の話になってからは、一転して『やり手』っぽく饒舌になっていたのだが……ここへきて再び
それにしても……おれの『視聴者さん』である彼は本来、おれの動画を楽しんでもらうべき立場のひとなのだ。完成して公開された動画を見るときの楽しみを奪ってしまうようで、なんだか申し訳ないのだが。
「あははは。……こちらこそ、すみません。本来は楽しんでもらうべき視聴者さんなのに、こんな手伝いさせてしまって」
『いえいえいえいえいえいえ!! ぶっちゃけマジで光栄なことなんで!! 社員一同誠心誠意取り組ませて頂きます!! 勿論お預かりしたデータが外部流出しないよう、今度こそ管理徹底しますので!!』
「そこは信用させてもらいます。……では、このままデータ送れば良いですか? 圧縮してメール添付のほうがいいです?」
『そうですね……GF便でお願いして良いですか? あ、使い方わかります?』
「大丈夫です。了解しました。……では、アップ出来たらチャットのほうにURL貼りますね」
『お願いします。他何か疑問点等あれば、遠慮なく送って下さい。このアカウントは職場でも家でも見れますので』
「ご丁寧にありがとうございます! …………無理しないで下さいね?」
『……ッ、ホァ…………頑張ります!』
……う、うん……大丈夫だろうか。なんだか変な声というか吐息が聞こえた気がしたけど。
彼の勤める『スタジオえびす』さんも、当然本来の業務があることだろう。そもそもおれの依頼は相当『勉強』してもらっているので、利益が薄いはずなのだ。……そんなに急がなくても良いので、本当無理だけはしないで欲しい。
しかし、仮にゆっくり進めて貰ったとしても……それでもおれは以前より、圧倒的に楽に動けるようになるのだ。
この『時間』というアドバンテージを最大限活用するためにも、どんどん種を撒いていこうと思う。
(えーっと…………Apollon、Apollon……それとメルオクメルオク……)
トリガミさんとの通話を終えたPCで、世界的大手通販サイト『
新品で良品でお手頃なものが買えればいいのだが……贅沢は言っていられない。探し物のうち一つは新品でもお値打ち品が見込めるが、二つ目の探し物は正直望み薄だろう。そうそう市場に出回る品では無い。
出来るだけ安く手に入れたい、というのは確かだが……かといって『安物買いの
まぁ、ダメでもともと。一朝一夕で見つかるとは思っていない。しばらくこまめに覗いてみて、気長に探していこう。
…………と思っていた、二つの探し物だが。
どうやらおれは
ふふ……たのしいことになりそうだ。
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