第194話 【週末配信】相談のってくれますか?



「ヘィリィ! 親愛なる人間種の……チキュウに住まう世界じゅうの視聴者諸君! 魔法情報局『のわめでぃあ』局長、靴下は左から履く木乃若芽きのわかめです! Hello! My dear!」


「やほー。同じく『のわめでぃあ』所属の万能型アシスタント妖精、じつはゴハン派のラニこと白谷シラタニちゃんだよ。へろーまいでぃーあ!」


「こっ、こんばんわ。『のわめでぃあ』新人れぽーたー……えっと、えっと…………らーめん、が……美味でございました、霧衣キリエと申します。……へろうま、いり……にゃあ……?」


「「は? かわいいが??」」



『ヘィリィ!!』『何なのその自己紹介www』『のわちゃんの靴下……』『ヘィリィ!』『【¥10,000】ヘィリィたすかる』『かわいい』『マイディア!!』『わかめちゃ!わかめちゃ!!』『かわいいが?』『らーめん!!』『らーめん初体験かぁ……』『かわいいが』『にゃあ可愛い』




 こんばんわ。世界のみんなのおともだち、実在美少女エルフ配信者キャスター木乃若芽きのわかめです。

 いやあ……らーめん気に入ってくれてよかった。おれも腕を振るった甲斐があったというものだよ。……サッポロ特番だけど。


 昨日の定例配信に引き続き、なんと二夜連続でお送りしております『のわめでぃあ』ライブ配信……誰が呼んだか『生わかめ(※非公式)』。

 例によって放送当日、間際になってのお知らせとなってしまったのだが……それでも多くの視聴者さん――最近は標準デフォルトで四桁――が来てくれたことは、言うまでもなく非常に嬉しい。

 ……いや、言うべきだな、これな。




「突然のお知らせにもかかわらず、みなさん来てくれてありがとうございます! わたくし木乃若芽きのわかめ、ならびに『のわめでぃあ』一同、とっても嬉しいです! ……ハイ。本当スミマセン。もっと連絡早くしなきゃって思ってるんですけど……実はですね、割とその場のノリで決めちゃってたりするので……『アッ、今晩配信しよ』みたいな…………アッ、もんざえもんさん『ヘィリィたすかる』赤スパありがとうございます! こちらこそとっても助かります!!」



 定例配信や『うにさん』たちとのコラボのように、前々から配信予定を決めてある場合は、当然早め早めからSNSつぶやいたーで告知ができるのだが……今回の突発配信、なんと開催を決めたのは十六時をそれなりに回った頃。

 ちなみに現在は二十一時を少し回ったくらいなので……ほんの四時間ちょっと前に、唐突に『今晩配信します!』と声を上げた形になる。


 いくら土曜とはいえ……たとえばもともと外出の予定を組んでしまっている人なんかは、告知を見たところでどうしようもないだろう。

 決してうぬぼれるわけじゃないが、配信を見れなかったことを悲しんでしまうひとだって居るかもしれない。


 そういう視聴者さんを出さないように……そもそも視聴者さんに迷惑をかけないようにするために、もっと先々まで予定を立てておくべきなのだろう。

 ぶっちゃけ我が『のわめでぃあ』、行動が少々場当たり的なところがある。……これはプロとしてふさわしくないですね。



 そのへんも今後の課題なのだが……今日はまた別の『課題』を解決する、そのための糸口を得るための配信なのだ。

 時間を有効に活用するためにも、さっそく始めていこうと思う。




「というわけでですね、本日お集まりいただいたのは……ほかでもありません。視聴者のみなさんとお話ししたいというのもあるのですが……本日の主役はですね、こちら! 霧衣きりえちゃんです!」


「よよよよろろろしくお願いいたします!」



『かわいい』『は?かわいいが?』『可愛い』『おちついて』『お耳めっちゃうごく』『不安顔くそかわ』『>本日の主役<』『主役がんばって!』『ぷるぷるしてる』『【¥30,000】推しのハレ舞台と聞いて』



「いやぁほんと……視聴者のみなさん優しい方ばかりで、わたしとしてもすごく嬉しいです。おかげさまで、大切な霧衣きりえちゃんを安心してお任せできます」



『てれる』『娘さんは任せて』『娘さんは幸せにしてみせます』『お義母さんありがとう』『それほどでもない』『てれる』『やっと結婚を認めてくれたんですね!』



「渡さんぞ!! 霧衣きりえちゃんは絶対に渡さんからな!! 当然ラニも渡さんからな!!!」


「はわわわ」「お、おぉ……」


「アッ、ケモミミンスキーさん『推しのハレ舞台と聞いて』赤スパホントありがとうございます。霧衣きりえちゃん推しとはお目が高い。スパチャはありがたく推しの……霧衣きりえちゃんのおやつ代に使わせていただきます」


「ひゅえ!?」



 スパチャはとてもとてもありがたいことなのだが、だがしかし。基本的には常識的で優しくて博識で、信頼のおけるわが視聴者さんたちなのだが……だからといって、この子たちの人生を預けるわけにはいかない。

 おれよりも弱い者に、かわいい娘たちを渡すわけにはいかない。


 ……まぁ、それは置いといて。いつものジョークだろう。まったくノリのいい視聴者さんたちだ。ははは今回はジョークで済ませてやる。



「……こほん。失礼しました。ええとですね、こちらの霧衣きりえちゃん。ご存じの通り容姿端麗才色兼備の超絶美少女なわけですが……ご存じの通り、箱入りのお嬢様でして。……ほんとかわいいですよね」


「かわいいよね………」


「…………あうぅん」


「それでですね……つまりはこの霧衣きりえちゃんの可愛さをですね、より多くの人々に知らしめる動画企画をですね、近々動き出そうと思いましてですね」


「なるほどなるほど?」


「…………ひゅぅ」


「実はですね、本日わたしとラニとそれぞれ一案ずつ、企画を考えてまいりました。それを今からお互いに、視聴者の皆様へプレゼンさせていただきましてですね。最終的に『どっちの企画がより魅力的か』というのを、皆さまにジャッジしていただこう! ……というのが、今回皆様にお願いしたいことでして。題して……」


「おおー! 題して……?」


「…………ふゅ……」




「ずばり、『どっちの動画SHOW』!! こちらを本日行っていこうと思います!!」


「毎度思うけどこれアレでしょ? 怒られない? 怒られたらアーカイブ消そうね?」


「たぶんイケるイケる。……もし怒られたら変える」


「そうしなさい」



『うーん……ギリギリ?』『期待』『おおおおおおお』『まるまる一緒じゃないから……』『今夜の!!ご注文は!!』『やーどうだろな』『おはなしクッキングも怪しいぞ』『よくわからんけど楽しみ』『うめき声かわいいたすかる』



 例によって企画名を怒られたらさすがに変えようと思いますが、しかし企画内容は概ねそのまんまだ。

 本日の特選素材スペシャルゲストである霧衣きりえちゃんを、おれたち二人の料理人プレゼンターがどう料理していくのか。そして視聴者の皆さんは、どっちの企画を注文してくれるのか。


 これからおよそ一時間(目安)をかけて、じっくりプレゼンしていこうと思う。




「では早速ですが……まずはわたしとラニ、それぞれの企画を発表していきます。視聴者さんには現段階で『どっち』が魅力的なのか、後で行う『アンケート』にてお気持ちを聞かせていただきたいと思います」


「はいじゃあボクからいくね! ボクの持ってきた企画は極めて単純にして明快。おまけには万人受けすること間違いなし。題して……『KIRI’Sキッチン』!!」


「ふひぇっ!?」


「危ないなあ!!!!!」



『あのwww』『おまwwwwww』『ギリギリじゃねえか!!』『さっきからなんなのwwwww』『あのさぁ……』『わかりやすい』『ま、まぁ……セーフか?』『なるほどなぁ??』『いいのかなぁ……』『海藻生えるwww』



「ちくしょう勢い持ってかれた! ラニちゃんやりおるマンかよ! ……じゃあつぎ、わたしの企画発表します。確かにでいうとラニの企画よりも弱いかもしれませんけど……でもですね、絶対みなさんに需要あると思うんですよ。……わたしの企画、題して『キリエクローゼット』です!」


「……く、ろーぜ…………?」


衣装庫クローゼット? ……あぁーそういう。なるほどね、どうしようめっちゃ応援したい」



『気になる』『なるほどそういう……気になる』『和服もいいけどなぁ』『俺は突っ込まんぞ』『深夜番組だもんなぁ』『これはセーフなん?』『知名度前二つより低いからなぁ』『大丈夫やろ多分』




 ラニとおれがそれぞれ提示した『KIRI’Sキッチン』と『キリエクローゼット』……どっちに転んだとしても、霧衣きりえちゃんの魅力をアピールできるのは間違いないだろう。


 これから交互に自分の企画の売り込みを行い、両名のプレゼンが終わったらいったん『アンケート』機能を利用し、視聴者さんのリアクションを確認する。

 それを合計三度繰り返し、つまりはアピールポイント三点のプレゼンを行い、最後三回目のファイナルプレゼンテーションを終えた段階での『アンケート』……いうなれば決選投票の成績で、最終的な勝敗が決まる。



 以上一連の流れが、本日のライブ配信の演目……視聴者参加型・企画決定企画、題して『どっちの動画SHOW』である。……たぶんセーフだと思う。




 ……というわけで。




「ではでは、まずは視聴者のみなさんにお尋ねします。……今のお気持ちは! どっち!!」





――――――――――――――――――――




アウトかなぁ…………



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る