第191話 【休日満喫】初めてのたぶれっと



 以前伊養いよう町商店街での撮影の際に使った『勝手に盗撮しようなんてフテぇ野郎じゃねえかついでに宣伝してけ作戦(うろ覚え)』だったが……じつはあれも一応、コンセプトとしてはまだ生きている。

 大きくアップデートされた点としては、看板ポップが大幅に小型化されたことと、それをおれが身に付けるのではなく自立式になったこと。

 今もこうして……テーブル上に設置した小型カメラの画角外にて、周囲の方々に対する無言アピールを続けてくれている。


 なかなかに混雑する週末のお昼どき、そんな環境下で行われた今回の撮影は……おれの華麗な予想通り、お料理の半分弱を『お持ち帰り袋』へと詰め、なんとか無事に終了を見ることとなった。

 それぞれ四分の一ずつ、量は少なくとも種類は全種類カバーできた。これは大きな進歩である。




「……よし。…………すみません、長らくの間大変お騒がせ致しました。騒々しくてすみません、大変失礼致しました」



 近くの席でお食事をされていた方々に、順番順番に頭を下げていく。きわめて幸いなことに皆さんとてもいい人たちで、中には『今度チャンネル見てみるね。がんばって!』などと激励の言葉を掛けてくれる方も居た。ありがてぇ。

 必要な分の動画もきっちり撮り終えたので、これにて『MocBURGERモックバーガー』さんを後にする。忙しいランチタイムにホントお邪魔しました。



 前々から思ってたけど……この街の人々あったけぇな!

 おれみたいな不審きわまりない容姿の人物なんて、ふつうは通報されてもおかしくないと思う。緑髪と白髪だし、おれなんて長耳だし……『街中でこすぷれとか嫌だわぁ!』『最近のコは恥知らずねぇ!』とか聞こえるように陰口言われることも、正直覚悟していた。


 だが、実際はこの通り。遠巻きにスマホカメラを向けられることこそすれ、撮影を妨害されたり敵意を向けられたりすることは無かった。

 エルフであるおれはそのへんの『他者から向けられる感覚』に敏感なので、敵意の有無ははっきりわかる。おれに向けられる感情の大半は好意的なものであり、それ以外の感情も『興味』『疑問』くらい。……本当にありがたいことだった。





 と、いうわけで。本日の予定のうち三分の一を消化したので、二つ目の工程へとフェーズを進めようと思う。


 続きましてはエスカレーターで『うにょーん』と昇って三階、家電量販店へ。店内はスマホやパソコンやゲームソフトや大型テレビが所狭しと並ぶ、いつ来ても心躍る光景だ。今日はきりえちゃんへと持たせるためのタブレットPCを探しに来たので、PC周辺コーナーへと向かう。

 相変わらず周囲の方々から好奇の視線とスマホカメラは向けられているが、職業柄仕方ないことだと割り切ることにする。



「タブレットって……初心者用とかある? 使いやすいやつとかあんのかな」


「……すみませぬ、わたくしは…………何が何やら」


「だよねぇ……」


(…………そんな何種類もあるの? タブレットって)


(そうなんですよお客様。ちなみにラニちゃんに貸してるやつはプロ仕様の最上級レベルね、りんごマークのやつ)


(オヒェ!?)



 自前用(現ラニちゃん用)のハイエンドなタブレットは色々と調べたことがあったのだが、初心者用のものは正直気にしたことがなかった。性能を上げれば上げるだけお値段のほうもどんどん上がるだろうが、逆にそこまでのハイスペックを求めない初心者用・日常使い用だったら、せいぜい五桁……五万円くらいで収まるだろう……と思う。……収まると良いなぁ。


 そんな希望的観測を立ててはいるんだけど……どうしよう。タブレットなんて見た目どれも同じに見える。素人が性能なんてわかるわけないし。

 やはりここは困ったときのモリアキ氏に聞くべきだろうか。しかし正直なところ彼もハイスペック志向だし、興味のない分野についてはそうそう詳しく無いだろう。店員でもないし。


 …………はっ、店員。




「いらっしゃいませ、お客様。何かお探しですか?」


「ナイスタイ……んぐッ。…………えっと、タブレット探してるんですけど……この子、電子機器とか得意じゃなくて……入門用のって、どれがいいのかわかんなくて」


「よ、よろしくおねがいします!」



 餅は餅屋、タブはタブ屋だ。他でもないこのお店の商品のことなら、ちゃんとした専門知識を備えた店員さんに聞くのがいちばんだろう。ちょうど話しかけてきてくれた店員さんを巻き込んで、きりえちゃんのタブレットデビューを推し進めていこうと思う。



「そうですね……とりあえず、用途としてはどういったことをお考えでしょうか?」


「えーっと……とりあえずは調べものとか、あと動画見たりとか……ですかね? メインのタブレットは別にあるので、サブというか」


「それでしたらですね……こちらなんかはいかがでしょうか。『Apollon Helios 7』です。通販大手Apollon.comが販売しているオリジナルのタブレットなのですが、エントリーモデルとしてもおすすめです。お嬢さんがお使いということと、他にもメインのタブをお持ちとのことでしたので、大き過ぎず軽量で取り回し易いという点は長所だと思います」


「なるほど重さ。それは盲点でした……おぉー軽い! きりえちゃんどお? 重くない?」


「本体重量がだいたい三百グラム弱ですので……えーっと…………果物のリンゴと同じか、それより軽いです」


「ほ、ほわ……艶々で綺麗な板面にございまする」



 まぁ……確かに、機能的なことを聞かれてもわからないだろう。とりあえず手に持った感じの質感を気に入ってくれたらしいことと、あまり重さを感じていなさそうだということ……このへんの感想は概ね良好っぽい。

 であれば、性能面や価格面はおれに任せて貰おう。彼女には『持った感じ』で判断して貰うことにする。



「プロセッサも一.三1.3GHzのクァッドを積んでますので、動画の読み込みもそこそこ早いです。内蔵ストレージは十六GBですがマイクロSDスロットを備えてますので、五百GB程度まで保存容量を拡張できます。Apollonプライムから動画をダウンロード保存しておけば、オフラインでも視聴できます」


「おぉすごい。ちゃんとカメラもついてるんですね」


「えぇ。フロント・リアともに静止画二メガピクセルです。ビデオでは七百二十ですが、そこまで致命的というわけでも無いかと」


「バッテリーはどれくらい持ちます?」


「無給電の連続使用では七時間程度です。屋外でずーっと映画を見続ける、とかでも無い限りは……まぁ、特に不自由しない程度の容量はあるかと」


「ですよねぇ」



 想定しているのはあくまで、在宅中での使用だ。どの部屋にもコンセントはあるので、割とどこででも充電することが出来る。そう考えるとバッテリーの容量も、特に不満を感じる程でもないだろう。最悪ケーブル挿しっぱで使えばいいのだ。

 それに……それらのデメリット(と呼ぶほどでもない)部分を補って余りあるのが、なんといってもお求めやすいこの価格だ。


 ―――税抜き、六千九百八十6980円。

 あくまでサブ機ということを念頭に置いたチョイスではあるが、このお手軽さであれば各所の力不足感も納得できるレベルだろう。まさかの四桁である。

 そもそもきりえちゃんが使う分には、力不足になることも無さそうだけど。……ネットサーフィンくらいだと思うし。




「よし決めた。これ買います。…………あと、すみません」


「ありがとうございます。何でしょう?」





 思っていた以上に、お手軽なタブレットが入手できそうなので。


 おれはもう一つの『ほしいもの』……密かに購入を狙っていたアイテムに手を出すことを決めた。



「マイク、っていうかレコーダーになるかもしれないんですけど……『TR-07X』って、置いてますか?」


「レコーダー……探してみますね。少々お待ち下さい」


「はい。お願いします」





 結論からいうと……ありました。


 なので、買いました。



 演目が増えるよ!

 やったねラニちゃん!


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