第181話 【作戦会議】ちゃんと考えてるし!



 仮想配信者アンリアルキャスターとして活動しようと思っていた頃は……まさか『木乃若芽きのわかめちゃん』が展示即売会の会場ですることになるとは、全く思ってもみなかった。

 まぁ無理もないだろう、そもそも実在しないからこそ『仮想アンリアル』な配信者キャスターなわけで。創作されたキャラクターが画面の中から出てくることなんて、普通は絶対にあり得ない。


 しかし、何の因果か木乃若芽おれしまったのだ。そのことを今さら嘆くつもりはないし、おれは『木乃若芽ちゃん』をと決めたのだ。

 ならばこそ、現実の身体を持つ配信者キャスターにしか出来ないようなことも、積極的に取り組んでいきたい。やれることは、色々とやってみたい。




 三納オートサービスさんとの契約は、非常にすんなりと纏まった。

 リース期間は納車から一年間。状況によっては更新の可能性あり。その対価は動画でのPRと、年四回のイベント参加。あとは先方の準備が完了し次第、車両をおれの自宅(浪越市南区単身物件)前まで持ってきてくれる手筈となっている。

 燃料費は自腹だが、車検や保険もあちら持ち。非常にたすかる。


 そんなこんなで、三人が三人とも『るんるん』気分の帰り道。

 ただでさえドライブはテンションが上がるというのに、今のおれたちは尚のこと盛り上がっちゃっております。




「どうしよ……めっちゃ楽しみ。早く届かないかなぁ、運転してみたいなぁ」


「見ました? 先輩が『運転できる』って知ったときの皆さんの顔。鳩が豆鉄砲ってやつっすよ」


「普通思わないよな。こんなちんまい幼女がハイエース運転できるって」


「……運転するよりは載せられる方が似合いそうっすもんね」


「何を言ってるのかわっかんねぇなぁ!!!」



 おれは(一応)中型免許も持っているので、(やろうと思えば)四トン車程度なら扱える。今回の車両は普通車の中では最大級のサイズとはいえ、それでも四トン車よりは当然小柄だ。

 外出の際はいっつもモリアキに付き合って貰っていたので、さすがに申し訳なくなっていたところだ。これでおれ一人でも衆目を(あまり)気にせず遠出が出来るようになるので、彼の負担も減ることだろう。



 ……それに。

 どこへでも移動ができて、部外者が入ってこないプライベートな個室となれば。




「……ラニがいってた、あの『羅針盤』の改良型。……家だけじゃなくてあの車にも設置すれば、探知の精度上がるんじゃない?」


「そうだね。置ける場所は多い方が……そして可能であれば、距離が離れてる方がいい。複数箇所で方角を探れば、より正確な位置を特定できるだろうね」



 好意で置きっぱなしにさせてもらっている、鶴城神宮の一号羅針盤……おれたちが『スプラウト』の活動を探知するための、重要な手掛かり。それは現在ラニとセイセツさんらの手によって、小型化を目指した二号機を制作中なのだという。

 そして二つ目、ひいては三つ目の羅針盤が正式稼働すれば、より『苗』の場所特定は容易になり、迅速な駆逐が可能となる。


 ようするに、測量の分野のお話だ。

 地図上の……たとえばA地点とB地点に『羅針盤』を配置し、それぞれ反応があった方角へと直線を伸ばす。その際A地点から伸びた直線とB地点から伸びた直線の交点が、ずばり『スプラウト』の所在ということになるのだ。



 鶴城神宮と、南区のおれの部屋と、岩沢市滝音谷の新居と……そして、移動式のバンコン車内。とりあえず四ヶ所にでも配置できれば、なかなかの精度が狙えるだろう。

 当面の目標は『羅針盤』の追加設置と、遠隔地の『羅針盤』をいつでも確認できる体制づくり。この二点を念頭に置いていく形になる。


 追加発注のほうは既に掛けてある(らしい)から良いとして。遠距離の『羅針盤』確認は……どうしようね。見まもりカメラでも使えば良いか。センサーで羅針盤の『動き』を関知したらアラーム鳴るようにして。……良いかもしれない。




「いや、しかし……先輩がそんなとこまで考えてたなんて、意外でしたよ」


「まぁテンション上がったのは事実だけどな。色々と便利になりそうだなって思ったら、あれこれ考えついた」


「誰にも見られない、っていうのが良いね。ボクとしてもやりやすい。遠出してたときに『苗』が沸いても、すぐに【門】を開いて帰ってこれるわけだ」



 さすがに、高速道路やバイパス道を運転中のときなんかは、そういうわけには行かないだろうけど……しかしそれでも、圧倒的に自由度が上がることは確実だ。

 安全な場所に停車したあとならば尚のこと簡単、【座標指針マーカー】を打ち込んでおけば帰路も楽々。直接車内に【門】を繋げば良い。このときも周りの目を気にせずに、存分に反則的チート機能を使うことができるのだ。



 つまりは、すごく、べんり。

 おれたちの可能性が、取れる選択肢が、今まで以上に拡がることだろう。




「大田さんも力になってくれるって言ってたし、これから忙しくなるかもね。……なるといいなぁ」


「本当……ノワがもう一人いれば良かったのにね」


「そんなんなったらおれがまず爛れたセイカツを送るからダメ」


「……妙なニュアンスを感じましたが……ちょっとオレに考えがあるんで、動いてみて良いすか? 良い返事貰えたらまた報告しますんで」


「まじかよ。よくわかんないけどお願いします。……でもいちいちおれに許可なんて取んなくて良いよ? おれ基本的にモリアキ信頼してっから」


「嬉しいこと言ってくれるっすね、この幼女は。……ご期待に添えるよう頑張るっすよ」


「にしし」



 モリアキの秘策は気になるけど、そのへんは彼に任せるとして。

 つかの間の休息、帰りの車中での気楽なひととき、ところによりサービスエリアを……おれは暫しの間堪能させてもらうとしよう。


 おれは……おれとラニには、帰ったらやらなきゃならないことがあるのだ。




 そろそろ初心者帯を脱出したいなぁって!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る